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イスラエルのテロについて率直に語るべき時の到来

イスラエル総保安庁のロネン・バー長官は、高まりつつある「ユダヤ人によるテロ」の危険性についてネタニヤフ首相の注意を喚起した。(資料写真 / AFP)
イスラエル総保安庁のロネン・バー長官は、高まりつつある「ユダヤ人によるテロ」の危険性についてネタニヤフ首相の注意を喚起した。(資料写真 / AFP)
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09 Aug 2023 09:08:16 GMT9
09 Aug 2023 09:08:16 GMT9

イスラエルはテロリズムの問題を抱えているが、それはパレスチナ人によるものではない。ヘブライ語で説明を意味する「ハスバラ」と呼ばれるイスラエルのプロパガンダ戦略では、数十年にわたって、ヨルダン川西岸地区とガザ地区のイスラエルによる不法な占領へのいかなる形の抵抗に対してもテロという表現が用いられてきた。イスラエルが抱えている問題は、ウルトラナショナリストや過激派ユダヤ教徒によって説き勧められ採用されているユダヤ人によるテロに起因している。そうしたユダヤ人たちの最終的な目的は、父祖の地からパレスチナ人を放逐するために可能な限り多くのパレスチナ人を殺害することなのである。かつて、狂信的な人種差別主義者として悪名高いラビ(ユダヤ教聖職者)で政治家でもあったメイル・カハネによる造語は、イスラエル国内の少数派であるパレスチナ人を追放する意味も込められた「移送」だった。

ハスバラの言説を否定し、集団的懲罰や禁止兵器の民間人への使用、活動家や無関係な傍観者の恣意的殺害といった観点からイスラエルの国家テロリズムについて語ろうとする試みは、数十年にもわたって、拒絶され続けてきた。反ユダヤ主義者のレッテルを貼られてしまうリスクがあったのである。しかし、その状況は変化しつつある。イスラエル政権の高官らが、最近、同国の指導者に対して、迫り来るユダヤ人によるテロの危険について警告しているのだ。

イスラエル総保安庁のロネン・バー長官は、日曜日、高まりつつある「ユダヤ人によるテロ」の危険性についてベンヤミン・ネタニヤフ首相の注意を喚起した。他方、ベニー・ガンツ元国防相は、「危険なユダヤ民族主義者によるテロ」現象を非難した。バー長官もガンツ元国防相も、金曜日にブルカ村で19歳のパレスチナ人少年が暴徒化したユダヤ人入植者たちによって冷酷に殺害された事件に反応したのだった。米国国務省は、この事件を、「容疑者であるユダヤ人入植者らによるテロ」と珍しく非難した。

イスラエルにとってこの問題をさらに悩ましいものとしているのは、ネタニヤフ首相の連立政権のパートナーの数人がテロ行為を行っている入植者を現に支持している事実である。イタマル・ベングビール国家安全保障相は、パレスチナ人の若者を殺害した容疑者とされる入植者らは称賛に値すると述べ、彼らを「英雄」と表現した。

ユダヤ人によるテロは、かつてはタブー視されていた問題だったが、現在では公開討論のテーマになっている。ユダヤ人テロリストによる犯罪は、イスラエル建国以前から、同国の歴史と不可分である。パレスチナにおけるユダヤ人のテロの最初期の例は、ユダヤ防衛機関(ハショメール)の1909年の創設まで遡ることが出来る。ハショメールはアラブ人の村落への襲撃を実行した。とはいえ、組織化され資金力のあるユダヤ人テログループが結成されたのは、英国委任統治領パレスチナにおいてであった。1930年代には、ユダヤ人移民とパレスチナ人の間の緊張が高まり、ユダヤ人による地下組織が複数結成されるようになった。こうした組織は、アラブ人による襲撃や英国が課したユダヤ人移民と土地購入に対する制限に対抗するためのものだった。最も有名だったのは、イルグンと通称される「イルグン・ツヴァイ・レウミ(ユダヤ軍事組織)」で、「ロハメイ・ヘルート・イスラエル」を略したレヒとして知られるシュテルン・ギャングである。いずれのグループも、政治的目標を達成するための手段としてテロを用いた。

イスラエルにとってこの問題をさらに悩ましいものとしているのは、ネタニヤフ首相の連立政権のパートナーの数人がテロ行為を行っている入植者を現に支持している事実である。

オサマ・アル・シャリフ

後にリクード党を結成し首相となるメナヘム・ベギンに率いられていたイルグンは、一般のアラブ人や英国の政府機関に対して多数の襲撃を実行した。イルグンの最も悪名高いテロは、1946年に行ったエルサレムのキング・デイヴィッド・ホテルの爆破だった。このホテルは英国の委任統治政庁として使用されており、爆破により数多くの一般民間人が犠牲となった。

ハガナーを含むこうしたいくつもの組織は、後に解体されて、イスラエル軍へと編入された。ウルトラナショナリストらと過激派ユダヤ教徒グループは、イスラエルの政治シーンの一端を担い続けた。そして、1967年の第三次中東戦争とヨルダン川西岸地区とガザ地区の占領後、こうした組織はイスラエルの政治においてより積極的な役割を果たすようになった。これらの組織の大目標は、ヨルダン川西岸地区とガザ地区にユダヤ人入植地を建設し、最終的にすべての地域を併合して、「大イスラエル」とすることである。

イスラエルの歴代政府が新に獲得したパレスチナの地域を不法入植者(その大半は米国や、後に東欧、旧ソ連からの新規の移民だった)に開放するのに同期して、ウルトラナショナリストや過激派ユダヤ教徒グループは同国内での政治的基盤を拡大していった。イスラエルの政治は、世俗的かつ進歩的で民主的であるはずだったにも関わらずである。

ネタニヤフ首相がその大半を率いてきたこれまでの右派政権は、ユダヤ人移民の門戸を開き、その大半を新たな不法入植地に収容した。2012年から2022年にかけて、東エルサレムを含む占領下のヨルダン川西岸地区のイスラエル人入植者の人口は52万人から70万人を越えるまでに増加した。

すぐにテロへと変容することになるユダヤ過激主義の激しい高まりの原点はこうした不法入植地だった。宗教上、信条的、安全保障上の動機に基づく入植活動は、長年にわたって勢いを増し、多数の入植者組織やグループが設立された。こうした入植者たちは頻繁にイスラエルの入植地のパレスチナ地域への拡大を唱道し、そうすることがユダヤ人のアイデンティティの一部であり聖書の予言の成就であると考え、歴史的パレスチナ全域にユダヤ人の主権を確立する神聖な使命を自らは負っているのだと信じている。

人種差別と極端な宗教的信念を混ぜ合わせた有害な動機によって、過激派入植者たちは個人や住居、農作者、礼拝場所への襲撃を初めとするパレスチナ人への暴力的な攻撃を開始した。最も恐ろしい襲撃は、1994年2月にヘブロンのイブラヒム・モスクで発生した虐殺だった。その日はラマダンの15日目だった極右のカハ運動を出身母体とする過激派シオニストのバールーフ・ゴールドシュテインは、礼拝中のイスラム教徒に自動小銃を発砲し、29人を殺害し、他に約150人を負傷させたのだった。

現行の極右政権はこうしたテロリスト・入植者の権利を拡大し、ベングビール国家安全保障相やベザレル・スモトリッチ財務相の激烈に扇動的な文言は占領地域のユダヤ人テロリストらの所業を常態化し美化している。これらのグループ中でも特に好戦的なのは、ヒルトップ・ユース、プライス・タグ・アタックス、レハバ、ジューイッシュ・アンダーグラウンド、カハ、カハネ・ハイの各グループである。カハネ・ハイは米国とイスラエルからテロ組織と看做されている。こうした入植者グループは、パレスチナ人に対する暴力を公然と唱道している。

ユダヤ人によるテロに対するイスラエルのジレンマは、占領と入植地建設が継続する限り消え去ることは無い。真の問題は実は他にある。それは、これらのテロリストや過激派グループの後ろ盾や支援者となっているのが、福音派キリスト教徒という、米国の有権者や政治家の中では特殊ながらも影響力のあるグループだという事実である。すべての福音派キリスト教徒が同様の信条を持っているというわけではないものの、その多くはイスラエルが予言の成就であり、ユダヤ人との契約を神が忠実に守っている証拠であるとして、聖書的観点からイスラエルの重要性を確信している。

福音派キリスト教徒の一部は、イスラエルの存在と繁栄が終末預言についての自らの解釈に適合していると考えている。こうした人々は、イスラエルを、イエス・キリストの再臨と神の究極的な計画の成就の前兆であると信じているのである。そして、そのような福音派キリスト教徒たちは、エルサレムをイスラエルの首都とみなすといった、イスラエルの利益に沿った政策を公然と支持し、不法な入植や占領終結によるイスラエル・パレスチナ紛争の解決といった課題でイスラエルに圧力をかけようとする国際的な取り組みに反対している。

現在のイスラエルはユダヤ人による深刻なテロ問題を抱えていることを認識している。他方、パレスチナ人に対するイスラエルの犯罪行為をやめさせることは、福音派キリスト教徒とユダヤ人の票を失うことを恐れる米国の政治家にとっては困難であろう。これは、ユダヤ人テロリストを勢いづかせるだけの構図でしかない。しかし、パレスチナ人はこれまで苦しんできたように今後も苦しみ続けざるを得ないものの、入植者グループの先鋭化する好戦性が与える打撃によりイスラエルの基盤に生じる亀裂は今までに例のないものになるだろう。

  • オサマ・アル・シャリフ氏は、アンマンを拠点として、ジャーナリスト及び政治コメンテーターとして活動している。Twitter: @plato010
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