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イラン政権の高くついた思い違い

SCOサミットでイランのイブラヒム・ライシ 大統領と会談するロシアのウラジーミル・プーチン大統領。2022年9月 (資料写真 / AFP)
SCOサミットでイランのイブラヒム・ライシ 大統領と会談するロシアのウラジーミル・プーチン大統領。2022年9月 (資料写真 / AFP)
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03 Jan 2023 09:01:34 GMT9

政治システムを専門とする政治学者にとって、思い違いは最も危険な潜在的な落とし穴の一つで、誤解に満ちた結論への道筋となってしまうことすらある。イランに関連した状勢として、ウクライナで軍事作戦を展開しているロシアへのイランの協力の停止を求める声が高まっている。

イランの主だった当事者たちは、ロシアへの協力の望ましからぬ影響を指摘している。彼らはロシアへの協力が国内情勢において現在進行中のいくつもの危機を深刻化させてしまったと確信している。このイラン政権の思い違いに対する不満は、国内であらゆる社会レベルの権力を掌握したイラン強硬派の間で特に高まりつつある。彼らは、ロシアとの協力を継続することに非常に強い懸念を抱いている。

例を挙げると、「なぜ彼らはゼレンスキーに怒りを覚えるのか?」と題された論説でコラムニストのモハメド・ジャバド・パフラヴァン氏は、ウクライナでの戦争の見通しについてのイランの公式見解は誤っていると主張している。パフラヴァン氏は、ウクライナの状況に対する思い違いと過少評価は、イランの思い違いの長い連鎖に付け加えられた新たな誤謬なのだと断言している。

この思い違いは、ロシアにはキーウを1週間で軍事的に併合する能力がないという正しい評価をイラン政権が出来なかったことに主に起因している。そしてそれはロシアの軍事機構に反撃するウクライナ大統領と彼の仕える国家の能力についての破滅的な過小評価の反映であると、パフラヴァン氏の論説は強調している。ウクライナでは、パフラヴァン氏が指摘するように、電撃的な首都併合は起きなかった。同氏は、さらに、戦争開始以来10か月経過後も、ウクライナの人々の断固たる抵抗により、ロシアは依然としてウクライナを併合出来ていないと述べている。

ロシアがウクライナで失敗を重ね、軍事的目標を達成できなかったことが、イラン強硬派の憤慨へと繋がった。

モハメッド・アル=スラミ博士

イラン指導者層の期待に反し、ウクライナ軍は (ロシア側のものをはるかにしのぐ高性能な防衛システムを含む、欧米から供給された先進的な兵器のおかげで) 、侵攻開始時にロシア軍に強制的に併合された領土の解放に成功した。ロシアがこうしてウクライナで失敗を重ね、軍事的目標を達成できなかったことが、イラン強硬派とウクライナに対するロシアの戦争の支持者たちの憤慨へと繋がったと、パフラヴァン氏は主張する。この憤慨は、ロシア人たち自身の憤慨すら凌駕するほどのものだと、同氏は言い切っている。

ロシアがウクライナに仕掛けた戦争についてのイラン政権の思い違いと、ロシア政権と広範な協力を推進するというイラン最高指導者の決定は、経済状況や生活状態を改善する制裁解除にいずれ繋がるとイラン国民が期待を寄せていたウィーンでの核協議を複雑化・停止させ、国内の経済危機と生活の圧迫をさらに長引かせているように見受けられる。この国内状況は、体制側の抗議行動参加者に対する残忍な弾圧政策があるにせよ、将来の大規模な抗議行動の誘発要因を生み出す。

ロシアによる対ウクライナ戦争の開始時、イラン強硬派は、モスクワの立場を支持すればウィーンでの協議においてヨーロッパと米国に対して有利に交渉できると考えていた。ロシアは、しかしながら、そのウクライナでの軍事目標を達成することに失敗し、また、戦争の展開とロシア、ウクライナ、そしてそれぞれの支援勢力の能力についてイランは思い違いをしていたため、核協議に非妥協的な態度で臨んだ。そして、イラン政権は、制裁の全面解除や部分解除にやがて帰結するよう協議を進めていれば得られるはずだった利益を逸してしまったのだ。ロシアは開戦後10か月経過してもその主要な目標を達成できず、他方、イランに課されていた制裁は何一つ解除されないままである。

イラン強硬派は、思い違いを繰り返した結果、その統治期間で最も危険な時期を到来させ、長く苦しみ続けてきたイランの人々のさらに強い非難を受けるに至ってしまった。政権が国民の生活の糧を切り崩しているまさに今である。イラン国民は、既に長い年月にわたって、排他的な国内政策や、不条理な災難、一般的で客観的な根拠ではなく、選択的な根拠に基づいて決定された外交関係に耐えてきた。40年前の1979年革命の発生直前のように、イラン国内が抗議の波であふれているまさにこの時に、新たな思い違いをしてしまったのだ。

複雑な危機に対処するにあたっての度重なる失敗や、イランの資産を空費しつつも失敗した対外政策を継続する頑迷さ、自国の利益を最大化するために地域的、国際的同盟関係を構築する際の誤解と過小評価、そして、イラン指導部に内在する独断的性質を考えると、イラン政権に反対する声が多数上がることが予想される。

イラン政権の国内・外交政策を支持する体制側報道機関も、特に、波のような大規模抗議行動が引き起こした新状況と政治的変化により、方向性の調整を余儀なくされると考えられる。現在の大規模抗議行動は、参加者たちの戦略と手段の飛躍的進歩や動員方法の多様化、参加する社会的セグメントの拡大、そして、最重要事項としてイランの反対派の人々が政権側の報復をもう恐れなくなってしまっているといった特徴を持っている。抗議行動参加者たちは、これまでに無く強い怒りを聖職者たちに向ける意思と勇気を持っている。聖職者たちの全体主義的な政治システムが彼らの神権主義を支え、それが聖職者支配の柱となっているのだ。

  • モハメッド・アル=スラミ博士は国際イラン研究所 (Rasanah) の所長。Twitter: @mohalsulami
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