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イスラエルはパレスチナ人の嘆願を無視することで大規模な集団発生の危険を冒すことになる

イスラエル占領下のヨルダン川西岸地区ベツレヘムで、新型コロナウイルス予防策として閉鎖された店の前を通り過ぎる人。(ロイター)
イスラエル占領下のヨルダン川西岸地区ベツレヘムで、新型コロナウイルス予防策として閉鎖された店の前を通り過ぎる人。(ロイター)
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08 Apr 2020 09:04:48 GMT9
08 Apr 2020 09:04:48 GMT9

包囲されたガザ地区は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の時限爆弾のようなものだ。そしてその爆弾はいつ爆発してもおかしくない。3月22日に2件の症例が発見され、その後保健当局はガザ地区のロックダウンを発令した。それが2週間前のことで、それ以来1,500人以上が隔離され、200万人以上の住民が自宅待機を命じられた。地球上で最大級の人口過密地区でソーシャル・ディスタンシング(社会での距離保持)を実行するなど、たちの悪い冗談でしかない。ガザ地区は13年以上イスラエルによる経済封鎖下におかれている。最近では2014年にも軍事攻撃を受けており、攻撃で何百という住宅が瓦礫と化した。ここでは1人の住民が持てる個人空間は平均で0.18平方メートルと推定されている。ウイルスに感染し他人にうつす危険性は他のどこよりも高いといえる。

2012年に国連パレスチナ難民救済事業期間(UNRWA)が、ガザ地区は2020年までには居住不可能になると警告している。UNRWAそのものも米国が2年前に援助を停止して以来財政難に陥っており、これまでガザ地区で重要な役割を担ってきた同機関の仕事はますます困難になっている。人口の50%以上が失業者であり、その内75%以上が若者であり、食糧配給に依存している状態だ。事実上ガザ地区には経済はないし、清浄水もないし、電力供給は不安定だし、医薬品や人工呼吸器不足も深刻だ。医療システムはもう何年も崩壊寸前状態だ。国連の推定では、病院の運営を維持するには3,500万ドルの緊急投資が必要だという。検査キットは1,000個以上運ばれたが、それは大海の一滴にすぎない。

どんな推定を見ても明らかなのは、ガザ地区にはウイルスの集団発生に対する備えがないということだ。病床も、集中治療室も、人工呼吸器もすべて足りない。これに過密状態や衛生インフラが不十分であることを考慮に入れると、ガザ地区における集団発生の可能性がとりわけ高いのは明らかだ。しかも医療施設は、COVID-19の集団発生の危険性とは別に、糖尿病、高血圧、腎不全、呼吸器疾患といった他の病気にも対処しなければならないのだ。

それなのに、ガザ地区は国際社会において話題にすら上らない。必需品や医薬品の流通はイスラエルに全面的に依存しなければならない。そしてイスラエルは、ガザ地区で集団発生が起こればほぼ確実に国家安全保障が脅かされる、という現実にゆっくりと目覚め始めている。だがテルアビブの右派政権は対応に慎重だ。最近国境を開けて検査キットと医薬品の搬送を許したが、それだけでは不十分だ。

今のところ、イスラエルの諜報機関はガザ地区とヨルダン川西岸地区の状況を安全保障の観点から見ている。イスラエル軍は、集団発生時にパレスチナの村全体を封鎖するシナリオを作成し、ガザ地区で住民が抗議に立ち上がり分離壁に違反する可能性のある場合の対応戦略の準備に余念がない。イスラエル政府はまた、経済封鎖措置の緩和と引き換えに2014年にガザで行方不明になった2人の兵士を解放するようハマスと交渉しているともいわれている。

今は世界全体の秩序を崩壊させかねないパンデミックの最中なのだ。政治を利用するときではないのだ。新型コロナウイルスの急速な拡大に直面し自国の医療システムに過重な負担がかかっているというときに、何百万人ものパレスチナ人の健康を交渉の切り札に使うなど、もってのほかではないか。

イスラエルは途方もない規模のコロナ問題を抱えている。症例は確認されただけで9,000例以上、死者数も59人に上り、コンピューターモデルでも潜在的感染者数は何万人にも上ると推定されている。医療関係者は、パレスチナ自治区における症例の大半がグリーンラインの内部とユダヤ人入植地で働くパレスチナ人労働者によって持ち込まれたものと考える。パレスチナでの症例数が250mの壁を越えたため、イスラエル政府は厳格な外出禁止令を課すことを強いられ、パレスチナ自治政府(PA)がパンデミックの封じ込めと緩和対策を実行できるよう、何百万ドルという税金を投入せざるをえなくなった。

先月、8人の米民主党上院議員がトランプ政権に対し、ガザ地区とヨルダン川西岸地区が新型コロナのパンデミック対策に必要なすべての援助を受け取れる措置をとるよう要請した。その呼びかけは無視された。

どんな推定を見ても明らかなのは、ガザ地区にはウイルスの集団発生に対する備えがないということだ。病床も、集中治療室も、人工呼吸器もすべて足りない。

オサマ・アル=シャリフ

パレスチナ人に対するイスラエルの責任は、封鎖を解除してPAを支援するだけに留まらない。PAはイスラエル政府に対しウイルス感染からの保護対策として囚人1,000人以上を釈放するよう要求しているが、この要求はこれまでのところ無視されたままだ。最近釈放されたパレスチナ人囚人のうち少なくとも2人がCOVID-19検査で陽性反応を示した。イスラエルはまた、第三者医療委員会によるイスラエル拘置所の囚人訪問要請も拒否している。

イスラエルは、現在のパンデミックが地政学的な現実を変え、したがって何百万人というパレスチナ人に対し占領国としての責任を負わないということはできない、という事実を無視している。ウイルスには境界などないのだから、準備が不十分なガザ地区やヨルダン川西岸地区で集団発生すれば、パレスチナ人のみならずイスラエルにも破滅的な結果をもたらすことになる。逆にもしイスラエルがウイルスのホットスポットになった場合にも、パレスチナ人は自分たちで身を守るすべを持たないのだ。

オサマ・アル=シャリフは、アンマンを拠点にジャーナリストおよび政治コメンテーターとして活動している。Twitter: @plato010

 

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