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圧政と戦う女性たちこそが歴史を作る。圧政を敷く体制ではない

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31 Dec 2022 11:12:16 GMT9
31 Dec 2022 11:12:16 GMT9

ピューリッツァー賞受賞者で、ハーバード大学のローレル・サッチャー・ウルリッヒ教授(歴史学)は、1976年発表の論文で「慎み深い女性が歴史を作るのは稀」という表現を使い、これが広く好評を博しフェミニズム界隈で最も有名なスローガンの1つとなった。

書き出しの部分にて、ウルリッヒ教授はこう書いている。「コットン・マザーは慎み深い女性たちのことを『隠れし者』と呼んでいた。彼女らは神の教えを説かず、助祭の役目も果たさなかった。投票もせず、ハーバード大学で学ぶこともなかった神の王国の到来を待望し、地上での名声を求めなかった。だから名を残していない。慎み深い女性が歴史を作るのは稀だ」

要するに、慎み深い女性たちは控えめで道徳的な人生を送り、演説などせず、大学など通わず、一票を投じることもなかったのだ。人生で特別な何かを達成したいと願う女性に「慎み深さ」はそぐわないと、この表現はどうも示唆しているようだ。家父長制の中で絶えず抑圧されている女性にとっては、抵抗や反逆に満ちた人生の方がはるかに好ましいのだ。

歴史は現代の出来事を探るうえで、最良の手引きとなる。歴史を辿ってみると、ほとんどの革命において女性たちは体制・反体制の両側に存在している。したがって、女性たちの歴史など一つも存在しない。もっと正確に言えば、普遍的な女性間の連帯を生み出した普遍的な体験は存在する。「あなた方の抗議は私たちの抗議、そして私たちの抗議はあなた方や他の女性たちの抗議なのです」

地球の反対側に住む多くの人々にとり、イランやアフガニスタンなど中東地域で、女性たちがどれほどの抑圧・苦闘・恐怖に直面しているのかを把握するのは困難だ。イランでは、マフサ・アミニさん(22歳)が警察に拘束され死亡した後、9月に抗議デモが発生して数ヶ月たつが、社会は今も揺れ動いている。アミニさんはタイトなズボンを履いて公の場に出て、髪を隠すスカーフ「ヒジャブ」を不適切に着用していたとして、悪名高いイラン風紀警察に拘束されていた。

イランの女性たちは何十年間もの間、体制側が押し付けた服装規定に抵抗している。そして現在では大っぴらに抵抗運動の一環として服装規定に逆らっている。ヒジャブを身に着けずに生活しているのだ。服装規定は最も目立つ女性差別だ。しかし、これはイランの構造的な女性差別の一側面でしかない。

ここ3ヶ月の間、イラン国民、特に女性たちの行動を支持する動きが、世界中で大規模な広がりを見せている。イランの女性たちとの連帯を示すため、世界中の女性たちが髪を短くした。イラン国内ですら、女性に限らず男性たちも抗議活動に参加している。様々な民族的背景を持つ男女が、女性の権利を訴える旗の下にデモに参加している。

イラン全土で、人々は「女性、生命、自由」というスローガンを叫んでいる。女性の自由とは、全国民の自由を意味すると理解しているのだ。イラン国民は、このスローガンを国内のみならず世界中で実現しようと努めている。

イラン国民は、この理念を世界に広めて世界中の女性が連帯することを目指している。しかしその一方で、隣国では体制側が女性の権利を強権的に奪っている。女性が教育を受けることも、外で働くことも禁止しているのだ。

タリバンの支配するアフガニスタンでは、女性向け中等教育と大学教育が一時停止の状態だ。さらに女性がほとんどの分野で職に就けないよう制限を課した。さらには公の場では全身を服で隠すよう命じ、公園・ジム・公衆浴場に出かけることも禁止している。女子が高校に通えなくなって1年以上が過ぎた。多くの女性が公務員の職を失い、家庭に留まる対価として以前の給与のほんの一部しか支払われていない。

タリバンによると、女性たちがヒジャブの着用を含むイスラムの厳格な服装規定を守っていないため、こうした行動制限が必要だという。国連および複数の国がタリバンの措置を非難している。女性たちは、19962001年までタリバンが初めて政権の座にあった期間と事実上同じ状況に置かれている。当時は女子が正規の学校教育を受けることは禁止されていた。

2021年に米軍がアフガン撤退し、タリバンが支配権を回復すると、今後は以前より穏健な統治を実施すると世界に対し約束した。しかし、実際には政権内のイスラム強硬派が、女性たちから様々な権利や自由を段階的に奪っている。

タリバンが実権を握って以来、アフガニスタンの女性たちは抗議活動やデモを実施して、教育を受け家庭の外で働く権利を認めるよう要求している。アミニさんが死亡してイランの女性たちが街頭で抗議デモを始めた時、アフガンの女性たちは国境線の反対側から抗議活動の様子を注意深く観察し、波及効果が及ぶのを期待した。

しかし、イランとは異なりアフガニスタンでは、女性の主導する抗議デモが次第に減少してきている。今年初めに中心的立場の活動家たちが拘束された後は、特にその傾向がみられる。

タリバン幹部の男性たちは、国内で女性が教育を受けるのを禁じる一方、自らの娘たちは外国の学校や大学に留学させている。これは誰の目にも明らかな、見え透いた宗教的偽善行為だ。一方でアフガン国内では、何百万人もの女子が教育を受ける権利そのものを奪われ、厳格な服装規定を押し付けられている。

タリバンやイラン支配層のような政治体制は、息を吸うように女性たちを抑圧している。

2007年にウルリッヒ教授は1976年の論文からタイトルを取った著書『慎み深い女性たちが歴史を作るのは稀』を発表した。同書の中でウルリッヒ教授は、そもそも女性が歴史を作るとは何を意味するかを考察している。3つの異なる時代を生きた一見全く別々な3人の女性たちの人生を検証し、実際には共通点が数多くあることを証明している。

教授と同じく、筆者を含めた政治アナリストは様々な国で暮らす女性たちを考察しているが、彼女らには複数の共通点があることが見て取れる。残念ながら、こうした共通点の根元には、抑圧・恐怖・苦闘という経験の共有が見られる。

アフガン女性たちから教育を奪い、イランの女性たちを抑圧するこれら強権的政治体制は、自らの行動が誰の利益にもならないことを理解すべきだ。こうした政治体制が思い描き実現を切望している架空の「慎み深い」女性というのは、完全に現実とかけ離れている。

何世紀にも渡り女性たちの人生を考察すると、こうした抑圧的支配体制を押し付ける男性たちではなく、体制に抵抗する女性たちこそが歴史を作るということが明らかとなった。

シネム・センギズ氏はトルコの政治アナリスト、専門はトルコと中東各国との国際関係。

Twitter: @SinemCngz
 

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