
まず最初に、私はサウジアラムコのIPOに対して懐疑的だったことを認めておく。
巨大な富を独占できるはずの政府が、なぜその富を海外に差し出すのか。これについては長い間疑問を持っていた。
アラムコを国際株式市場に出すということは、必然的に外部の監査人に帳簿を公開するリスクも意味する。
また、IPOで得たお金で政府が何をしようとしているのか、疑問に思う人も多い。
経済の多様化のため、石油以外の資産にお金を注入するのは素晴らしいように思えるが、このリスクの高い状況で、そういった変革を成就するには、一体何年の歳月がかかるだろう。
しかし、時間の経過とともに、私の考えは変わり、このIPOは良いことだと思うようになった。
政府は、リスクを制限するための措置を講じ、合理的な株価の評価を受け容れている。アラムコが発表した数字と声明を見る限り、同社は世界で最も財務的に健全な企業のように思われる。
最も重要なことは、今のところ株式公開は国内に限定され、国際的な株式の販売は後日に延期されていることだ。 つまり、サウジ国民の大きな誇りである同社の株は国内にも留まり、次世代に継承される。
しかし、海外メディアの報道は、これとはかなり異なる様相だ。
海外メディアは、私にはリスク回避の方策と思われる動きを敗北の兆候として報道し、当初からIPOの計画の一部であった国内限定販売の方針については、国際投資家を引き付けるのに失敗したとしている。
外国人投資家にサウジアラビアの資産を購入させることが難しい昨今の状況は否定しない。だからこそ、当初のIPOの対象を国内に限定するのは、失敗の兆候ではなく、賢明な決定だとも言える。
サウジアラムコのIPOに関する海外のメディアの報道を読むと、サウジ王国が海外からも資金を調達しようとする重要なシグナルに対する批判なのか、あるいは単なる憤りなのか、判断に苦しむ。もし単なる憤りだとすれば、この敵意に対する理由があるはずだ。
サウジの指導者や、野心的な「サウジビジョン2030計画」に対し、明らかな反対勢力があることはよく知られているため、私がここで触れるまでもない。
石油問題に人生の大半を捧げてきた人間として私が心配するのは、国際メディアの客観性がいかに失われているか、そしてサウジアラムコに関する報道が、ジャーナリストとサウジ政府あるいはアラムコの間で膠着状態になってしまっているかに見えることだ。
私はこの状況の正当性を見つけようと努力した。1つだけ思い当たることは、サウジの石油メディア関係者が、周囲との間にこれまで良好な関係を築いて来なかったことだ。これは明らかで、私の知る限り、政府や政府関係の広報プロフェッショナルによって嫌な経験をさせられたことがない記者は皆無だ。
しかし、個人的な問題が史上最大のIPOの報道内容を左右すべきではない。
また私は、アラムコの企業価値の評価をサウジ政府が擁護するやり方についての国際メディアのコラムニストたちの報道を読んで失望した。彼らの多くが、アラムコは金の卵を産むガチョウだということを忘れている。
私はサウジ国民として、他の国が何と言おうと、サウジの世界最大の石油埋蔵量に対するあらゆる生産権を持つ唯一の会社であるアラムコの株式が、本来の将来価値を反映しない価格で販売されるのを見たくない。では、アラムコの本当の価値とは何か?
世界は今後数年間にわたり、一日当たり1億バレルを超える量の原油を必要とする。当面この数値が減ることはないだろう。この基本的な需要を満たすには、簡単には実現できないほどの巨大な投資が必要で、この資源にアクセスできるのは、サウジアラムコを除いて他にはない。
ここ10年以内に訪れると言う人もいる石油需要のピークが、石油時代の終わりを意味すると考える人がいたら、考え直すべきだ。
将来の需要を満たすことができる単一のエネルギー源は存在しない。急激に増加する需要に対応するには、依然として化石燃料が最速で、最も信頼性が高いことが証明されている。
また、2030年以降も1日あたり1億バレルの原油は必要であり続ける。その準備のために今日多額の投資をしている会社はアラムコ以外にはない。
国際エネルギー機関による「今月の世界エネルギー概観」という報告書によれば、2030年の石油の価格は上昇することが予測されている。これはアラムコにとって名目上の石油収入の増額を意味する朗報だ。株主はこれに応じてより多くの配当を受け取れるだろう。
サウジアラムコが化石燃料の生産者であることを理由に敵意を持つ人々や、投資家にアラムコへの投資をしないよう呼び掛けている人々がいるが、「アメリカをまた偉大に」するためのシェールオイルへの投資と比べて、一体どこが違うのだろうか。
環境に対するアラムコの脅威は、シェールオイルやガス産業が行っている掘削方法による環境汚染とは比べ物にならないほど小さい。
エコノミスト誌は、スタンフォード大学とリスタッドエナジーから収集した興味深い数字を紹介した。それによれば、サウジは、ロシアとアメリカを含む全世界の大規模な石油生産者の中で、全体の石油生産量に占める二酸化炭素排出量が最も少なく、サウジの排出量は、ロシアと米国の半分だった。
さらにサウジアラムコは、向こう10年間の間にガス生産量を倍増させたい考えで、これによって地元で燃焼されるオイルの大半がガスに移行するため、よりクリーンな環境に貢献できる。
同社は、炭素を貯水池に再注入することで二酸化炭素排出量を削減する方法を模索している。また、世界中に研究拠点を持ち、より良い車のエンジンや、環境により優しいすぐれたテクノロジーなどを開発する手助けをしている。
したがって、世界が将来のエネルギー価格の安定を真剣に考えているなら、サウジアラムコのような企業を支援することが解決策だ。
それを妨げようとする勢力の動機は明らかだ。投資家たちは、これらの資産価値が将来成長することを見越し、世界最高の石油関連資産を安価で手に入れたい。石油について少しでも理解している人は、シェールオイルの生産が本当にサウジの石油生産に比肩しうると信じることはないだろう。
シェールの生産は非常に多くの費用がかかるため、実績あるアラムコのように52年間も持たないだろう。また、その間に掘削の最適場所を使い果たしてしまったら、コストの削減も見込めない。
NPRの最近の記事で引用されたように、コーエン投資銀行のアナリスト、デビッド・デケルバウムによれば、シェールオイルのビジネスで1ドルを生むには、2ドルの投資が必要だ。
フィナンシャル・タイムズ紙はWeWorkとアラムコのIPOを比較し、一部のアナリストは企業の正しい性質を理解せずに低評価を与えていると強調した。
アラムコは単なる会社ではない。これは戦略的投資であり、同社は世界中のすべての人々がガソリンスタンドで安価な燃料を利用できるようにすることを実現している今日の数少ない事業体の1つだ。
石油は、我々の現代文明を形成する戦略的商品であり、今後もそうあり続けるだろう。そして他の理由からも、私はサウジアラムコの高い企業評価額を擁護し、自信と誇りをもってその株式を保有する。
ワエル・マフディは、OPECに特化した独立系のエネルギーコメンテーター、「シェールオイルの世界におけるOPEC:次はどこか?」の共著者。