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爆発へと時を刻む「時限爆弾」セイファー号 国連調整の米・蘭プランで阻止は可能か

フーシ派が有利な交渉材料として利用するFSOセイファー(左)。この原油備蓄船が漏出ないし爆発により原油を流出させる惨事を招かぬよう、国連は苦闘している。(AP/AFP)
フーシ派が有利な交渉材料として利用するFSOセイファー(左)。この原油備蓄船が漏出ないし爆発により原油を流出させる惨事を招かぬよう、国連は苦闘している。(AP/AFP)
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01 Jun 2022 08:06:25 GMT9
01 Jun 2022 08:06:25 GMT9
  • 目標は1億4,400万ドルの調達。うち8,000億ドルは積載する原油の除去にあてられる
  • 計画では同時に二つの作戦を進行 成功に向け最も重要なのは時間

ラワン・ラドワン

ジェッダ:1988年以来イエメンの紅海沿岸近くに錨をおろしたままの廃船セイファー号。国連がその救難に向けて資金調達を試みるなか、なおいまだ大団円を迎えるにはいたっていない。

計画では1億4,400万ドルを調達する。うち8,000万ドルは、セイファーに積載されている原油の除去にあてられる。先月27日、米国首都ワシントンの外交界の面々と米イエメン担当特使ティム・レンダーキング氏をまじえ、米国政府と、駐米オランダ大使のアンドレ・ハスペルス氏を代表とするオランダ政府とが共催する会合がこうした資金の調達を目的に開かれた。

セイファーについてふれた共同声明には次のように書かれている。「官民の資金提供者のみなさんには、原油の漏出や流出さらには爆発阻止のための支援に惜しみなく貢献することをご検討いただきたい。世界の命運を握る航路のひとつで人々の暮らしや観光業や商業に壊滅的な打撃を与えることになりかねない」

国連調整による今回の計画の目的は、経済的・人道的・環境的な災厄を回避することだ。その影響は、1,700万人が人道支援に頼るイエメンだけにとどまらず、さらに広い地域にも及びかねないのだ。

「セイファーは爆発までの時を刻みつづけている時限爆弾だ。解決するのは今を措いてない」。政治評論家のハムダーン・アッ・シャフリー博士はアラブニュースにそう語る。

「保守管理されないまま、すでにこの船は7年間放置されている。セイファーをめぐり戦わされている議論もそうだが、イエメンとイエメン人が直面する多くの問題の解消のため、あらゆるレベルでフーシ派に圧力をかけることは国際社会の責任だ」

一切メンテナンスもほどこされないままラス・イーサー港沖で朽ち果てているこの船には、110万バレルの原油が積まれているとみられている。1989年にエクソン・バルディーズ号がアラスカ州プリンス・ウィリアム湾で起こした原油流出事故の4倍の量だ。

1976年にオイルタンカーとして稼動したセイファーは、10年後に浮体式海洋石油・ガス貯蔵積出設備(FSO)に転換された。2015年には、戦争の勃発とそれにともなうフーシ派のイエメン西部の占拠により、生産、積み出し、保守点検はストップした。

現在セイファーはフダイダ県の沿岸沖約4.8海里の海上に停泊中だ。船体の一体性は着実に劣化していることを考慮に入れると、漏出・爆発による原油の海洋流出の危険は目前に迫っている。

損傷したセイファー(上)。漏出・爆発による原油の海洋流出が目前に迫るおそれが高まっている。(AFP/資料写真)

主だった当事者の間では何年も断続的に協議が重ねられていたが、この3月にイランと連携するフーシ派は、セイファーに大量に積載されている原油の国連による除去に同意したとみられている。フーシ派最高革命委員会トップのムハンマド・アリー・アル・フーシ氏がツイッターを通じ、国連と覚書を交わしたことを署名を示して認めた。

イエメン政府も後援する今回の国連調整プランは、同時進行する2つの作戦からなる。まず、18カ月以内にセイファーに代わる長期代替設備を据えること。同時に、4カ月かけて一時的な船舶に積載原油を積み換える作業も進める。

恒久的な代替船体への原油の積み換えがすべて終了するまでの間は、セイファーと一時船舶については留めおくのが国連の意向だ。作業終了後にセイファーは造船工場まで曳航されスクラップとして売られることになる。

4月には、前述のレンダーキング米イエメン担当特使に加え、イエメン駐在オランダ大使のペーター・デレク・ホフ氏、国連イエメン担当常駐人道調整官のデビッド・グレスリー氏がそろって現地を視察。これは、セイファーがもたらす脅威を啓発し国連のプランに対する資金提供をつのる目的の国連主導ミッションの一環だ。

1カ月経って、資金提供者から8,000万ドルを調達する国連のもくろみを監督するためグレスリー氏が考案したスキームが始動した。が、今のところ国連が調達できたのは4,000万ドルにとどまる。

救難プランのタイムリミットはその一方で刻々と近づいている。

「至急、十分な額の資金が得られない場合、原油の積み換えに最適の気候が過ぎてしまう」と、国連開発計画(UNDP)在イエメン常駐代表のアウケ・ルツマ氏は語る。

「10月をめどに、強風が吹き海流が予測不能になるため作戦はさらに危険なものとなる。そうなるとセイファー崩壊のリスクも高まる」

セイファーから大規模な原油流出があった場合、紅海沿岸で漁業を営む人々に壊滅的な打撃となりかねない。また、紅海沿岸諸国、特にサウジアラビア、エリトリア、ジブチ、ソマリア、そしてイエメン自体の海域・魚礁・マングローブといったものも甚大な被害をこうむるはずだ。

また、これはフダイダ港やアッ・サリーフ港の港湾機能麻痺あるいは閉鎖にまでつながりかねない。そうなれば、イエメン全土の商業活動に支障をきたすほか、人道支援を受け取る手立てにも累が及ぶ。

ともかく、流出原油の除去作業だけで2,000万ドルかかると見込まれている。

「2015年、イエメンの該当地域で権力を掌握したフーシ派は、セイファーも乗っ取った。ところがフーシ派には保守点検のノウハウがなかった。なのでそれ以来、セイファーの船体が憂慮すべき状態にあることを楯に取り、有利に交渉を進めてきた。そのねらいは、積載原油を市場で売って得られる利益の収奪か、あるいはさらに儲けるためブラックマーケットで原油を売りさばくか、といったところだ」。そう語るのは、前述のシャフリー氏だ。

2020年、国連安保理議長に対し、サウジアラビア・ジブチ・エジプト・ヨルダン・スーダン・イエメンの常駐代表らは書簡を送付。FSOが地域にもたらす危険が注目の的となった。(ロイター/資料写真)

同氏はなお語る。「セイファーに関してフーシ派がそう簡単にしかるべき行動に同意することはないだろうが、圧力がかかればその限りではないかもしれない。いったん破滅的な事態が起きてしまえば、はるか彼方にいてもその波及効果は感じ取れるはずだが、そうした被害もこれで防げる可能性がある。さもなくば、バーブ・アル=マンディブ海峡というきわめて重要な航路を伝って届く人道支援物資も途切れるかもしれない」

そう述べつつもシャフリー氏は希望も語る。最近の2つの進展だ。フーシ派と署名を交わした覚書の存在と、2016年以来初となる全国規模の停戦が現在2カ月の期限で実施中である点について、イエメンの将来にとっての吉兆と同氏はみている。タイズへ続く道路の封鎖が解除されれば、いまも続くイエメン国内の党派抗争に終止符が打たれ、運次第でフーシ派による占拠すら終わりを告げるかもしれない、というのが同氏の見解だ。

「が、フーシ派が真に善意を示すには、国際社会およびイエメンの合法政府、さらにはイエメン国民ならびに近隣諸国と協力する必要がある。セイファーを政治の手段として利用することもやめるべきだ」

「フーシ派がこうした協力の精神を示さない場合は、イエメンのみならず地域全体に惨憺たる結果を招くことになるはずだ」

2020年にジブチ、エジプト、ヨルダン、サウジアラビア、スーダン、イエメンの各国国連常駐代表らが安保理議長にあてて書簡を送り、セイファーが地域にもたらす危険への注目を呼び寄せるとともに、2つの悪夢的なシナリオをまぬがれるため迅速な行動を呼びかけたことは重要だ。

イエメンのラス・イーサー港沖に停泊中のFSOセイファーの外部配管系と原油流出をまねいたパイプの損傷。(AFP/資料写真)

第1の悪夢は、海洋生物に恵まれた紅海に1億8,100万リットルの原油が流出することでもたらされる環境上の大災厄ということになる。第2の悪夢は、爆発によって解き放たれる有毒ガスの暗雲がたれこめる惨事ということになる。フダイダ県民約300万人の健康が損なわれるだけでなく、イエメン国内の肥沃な農地の4%で、耕作中の豆類・果実類・野菜類に破壊的影響が及び、損害は7,000万ドル以上もの巨額になるはずだ。

流出事故が起きればフダイダ港は数カ月の閉鎖となるはずだ。その次には、市民の待ち望む燃料や生活必需品が人々に届かなくなり、すでに貧困に見舞われているイエメンで燃料価格が最大で8倍にも高騰し、物価も倍になるといった事態を招きかねない。

国連とオランダ政府が5月11日に出した声明では、原油流出阻止計画にとって肝要なのは時期と資金だ、と明示している。

シャフリー博士は、セイファー問題の解決はこの地域の行為主体(アクター)にとって長らく優先事項であったと指摘する。中でも特にサウジアラビアは、イエメンを不毛な紛争に巻き込ませている幾多の問題についてその解消を求めつづけている、とする。

シャフリー氏はアラブニュースに語る。「あらゆる混乱の責任は国際社会に帰せられる。国際社会が消極的な態度を示すため、フーシ派は安心して活動が続けられるものと解釈してきた。となれば、この問題を最終的に片づける能力と義務をもつのは国際社会しかない。解決できるかは国際社会の決意にかかっている」

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