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ネタニヤフ首相はいかにして極右モンスターを創り出してしまったか

ベンヤミン・ネタニヤフ首相の問題はこうした過激派政党に限ったことではない。 (AFP)
ベンヤミン・ネタニヤフ首相の問題はこうした過激派政党に限ったことではない。 (AFP)
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20 Dec 2022 01:12:30 GMT9
20 Dec 2022 01:12:30 GMT9

一見、11月の選挙前にネタニヤフ首相を唯一の首相候補者として表明した各政党で過半数を確保したことを考えれば、今頃ベンヤミン・ネタニヤフ首相が比較的安定したイスラエル新政権を発足していてもおかしくはなかった。

しかし、ネタヤニフ首相は組閣に向けてすでに28日間を費やしているにもかかわらず、先週、イツハク・ヘルツォグ大統領に組閣期限の10日間延長を要請せざるを得なかった。イスラエルの政治では連立を組むのに数週間、あるいは数ヶ月かかることは珍しくない。というのも各政党は支持者に報いるべく貴重な大臣のポストや予算、職の獲得を目指すわけで、首相指名を受けたネタヤニフ氏と同氏の政党はそれらをめぐり同時並行で多くの政党と交渉しなければならないからだ。

だが今回は事態をもっと複雑にする問題がある。連立政権の一員になるだろう極右勢力がこの国の民主主義的性格やリベラルな理想を弱体化させ、良識ある統治や説明責任を損なう法案を露骨に要求しているのだ。

ネタニヤフ首相にとって悲劇的ともいえる皮肉は自身のライバルによる政権樹立阻止に向けて極右勢力を正当化するためにでき得る限りのことをしたことだ。今ネタヤニフ首相はこれら過激主義者たちと実際に権力を共有することに不安を感じている。極右以外にも2つの超正統派政党が連立政権に加わる状況で、彼らが大きな力を振るうことになるのだ。

ネタニヤフ首相に多少なりの同情を感じたとしても、この状況はすべて同氏の自業自得なのだということを忘れてはならない。自身に対する汚職裁判において正義から逃れようとする執拗で不謹慎な試みを続ける中でイスラエル政治における極右宗教勢力の最も極端な形態を正当化し、その過程で前政権と特にそのアラブ・パレスチナ人メンバーに対する有害な主張と扇動を広めたのだ。そして今になって自身の政権の組閣に当たり、自分が作り出してしまった怪物に依存していることに気づいたのだ。

宗教シオニスト党の指導陣の一部は長年、在野にあったが今やキングメーカーだ。彼らはこの機会を一切無駄にすることなく自分たちが管掌する省庁から最大限の譲歩を引き出し、政府の政策に最大限の影響を及ぼし、そうすることで彼らが描く不愉快なイメージに沿ってイスラエルの性質や将来を再構築しようとするつもりだ。

彼らは汚職裁判の被告であるネタニヤフ首相がいかに脆弱な存在であるかを良く理解しており、信頼もしていない。そうしたリーダーの一人、ベザレル・スモトリッチ氏は少し前にネタニヤフ首相を批判して、いつも「白々しい嘘」をつくと非難した記録がある。従ってネタヤニフ政権に参加するにあたり、自分たちの意が通るように最大限を尽くそうとするのだ。

ネタヤニフ首相はイスラエル政治における極右宗教勢力の最も極端な形態を正当化した

ヨシ・メケルバーグ

しかし、ネタニヤフ首相の問題はこうした過激派政党に限ったことではない。首相はまた、自身のリクード党員を処遇する必要がある。党員が忠誠への報いとして自分のエゴを満たす仕事に就こうとして列をなしているのだ。よりリベラルな右派の伝統に属する者や自分の意見を表明する勇気ある者を首相はすべて党から追い出し、自分に媚びへつらう者だけの集団にしてしまったのだ。

もしネタニヤフ首相が政界に留まることに固執していなければ割と早く中道右派の政権が成立していたかもしれない。野党にはイデオロギー的に以前のリクードに近い政党や政治家がおり、リクードが別のリーダーを選んでいたら、その多くが連立政権に参加していただろう。しかし彼らは、ネタニヤフ首相が収賄、詐欺、背任容疑で裁判を受けている間はネタニヤフ政権の一員となることを拒否している。

さらにイスラエルの中道右派の政党は、恥ずかしげもなく人種差別、女性差別、同性愛嫌悪を行い、国の民主的基盤を破壊し、パレスチナ人との紛争に火をつけることに夢中な宗教シオニスト政党と権力を共にすることはないだろう。

かつてのネタニヤフ首相であれば、こうした要素を正当化することは決してなかっただろうし、間違いなくこうした勢力と権力を共にすることはなかっただろう。しかし、彼はいつでも権力追求のためなら何でもありの強い日和見主義者だったし、金銭問題やその他の汚職疑惑に関する警察の捜査を受けて、その傾向はさらに強まった。

自分が起訴され、複雑で疑わしい内政上や家族絡みの疑惑もあったことが、首相が民主的なフェアプレーの枠内で活動することを放棄し、裁判を妨害して無期限に権力の座にとどまろうとする分水嶺となった。

しかし、このときルールを弄び目的のためには手段を選ばない首相のやり口を新たな政治パートナーが学び、首相が彼らの要求をほぼすべて受け入れる中で、彼らが権力への欲望を着実に高めていることに首相は気付いていなかった。

このパラダイムシフトの一環でネタニヤフ首相は自身の政治的パートナーがゲームのルール内で権力を追求するだけでなく、ゲーム自体も変えてしまおうとしていることを見逃しているか、あるいはもはや気にも留めていないかもしれない。

まだ組閣は済んでいないが今週、この新たな連立政権の一員が目指す憲法上の激変の最初の兆しが明らかになった。リクードの党員から新たな国会(クネセト)議長を選出した数時間後、次期連合の内定メンバーは数件の予備法案の提出に乗り出した。その多くは論争を呼ぶもので、連立政権の編成を睨みその候補を利するものだ。

物議を醸す各法案の一つでイスラエルの民主主義の存続とパレスチナ人の安全と幸福を願うすべての者が懸案すべきものに、オツマ・イェフディート党の党首イタマル・ベン・グヴィル氏が内定済みの国家安全保証省大臣の権限拡大を狙う法案がある。同氏は人種差別やテロリズム扇動で有罪判決を受けており、過去にはパレスチナ人追放を要求したこともある。

これだけで足りなければもう一つ、イスラエルの憲法とも言える基本法の改正を目指す法案がある。この改正はセファルディ派シャス党のリーダーのアリエ・デライ氏の大臣、それも非常に高い地位への指名を可能とするものだ。同氏は今年の初め頃に税法違反で執行猶予の宣告を受けているにもかかわらずだ。

これは徐々に司法や裁判のシステムを政治家の意向次第で自由にできるものにしようとする試みの始まりに過ぎず、今回の場合は犯罪歴があり、おそらく先々もっとひどい悪事を働くだろう人物の取り扱いが対象だ。

連立交渉は合意に向けて進んではいるが、その進め方や連立政権の組閣メンバーの経歴、メンバー同士の不信感、膨れ上がったエゴの存在などからたとえ政権が発足してもすぐに亀裂が入り始めると思われる。

その間、野党、市民社会、一般市民は民主主義制度を守り、良い統治のために立ち上がり、政府の責任を追及する準備を整え、その意志を持つべきだ。

  • ヨシ・メケルバーグ氏は国際関係の教授で、チャタム・ハウスのMENA プログラムのアソシエート・フェローを務める。同氏は国際的な出版・電子メディアに定期的に寄稿している。ツイッター: @YMekelberg
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