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イスラエル新政権、早くもパレスチナ人に挑発的施策

エルサレムでの記者会見中、ベンヤミン・ネタニヤフ首相と話すベザレル・スモトリッチ財務相。(ロイター)
エルサレムでの記者会見中、ベンヤミン・ネタニヤフ首相と話すベザレル・スモトリッチ財務相。(ロイター)
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16 Jan 2023 09:01:04 GMT9
16 Jan 2023 09:01:04 GMT9


発足後2週間で、イスラエルの新政権はとてつもないスピードでスケジュールをこなしている。まるで自ら短命に終わると予期しているか、あるいは国に修復不能な分裂をもたらし、民主主義システムを破壊してパレスチナ人と対決したいという欲求に取りつかれているかのようである。

この政権は民主主義システム、とりわけ高等裁判所を執拗に攻撃している。政府に反対する野党の政治家と市民団体、マイノリティへの攻撃も続いている。その結果、イスラエルの民主主義は名ばかりのものになる可能性がある。

先週、連立政権のあるメンバーが野党のリーダー、ヤイール・ラピードとベニー・ガンツの両氏の逮捕を示唆したが、その罪状といえばその人物の反民主主義的な空想の中で作り上げられたものなのだ。この発言の背後には、新政権の政策に反対する人々の間に恐怖を広め、パレスチナ人は良くても二級市民であると法的に規定しようという企図が見え隠れする。

被占領地域に暮らすパレスチナ人に関しては、彼らが国家樹立への望みを少しでも表明することへの恐怖を植え付け、違法な占領軍に抵抗することなど夢にも思わないように仕向けることが狙いである。

パレスチナ市民に対して抑圧的で過酷な政策を課すという新政権の方針は次から次へと明らかになっている。先週はイスラエル当局が、リヤード・アル・マーリキー・パレスチナ外務・移民庁長官の移動許可証を取り消すという近視眼的な暴挙に出た。これはパレスチナ自治政府が国連に対し、イスラエルによるパレスチナ領土の占領の法的影響に関する国際刑事裁判所(ICJ)の意見表明を求めたことへの報復措置である。

この馬鹿げた決定を下した者たちは一瞬でも立ち止まり、明らかに保安上の脅威ではないアル・マーリキー氏から移動の自由の権利を奪う行為は、パレスチナ人との間の合意違反であるだけでなく、占領がもたらす違法な結果の証拠をまた1つ増やすことにしかならないと考えなかったのだろうか。

さらに、占領の問題をICJに委託するという決定はパレスチナ自治政府によるものではなく、国連総会で87か国の支持を得て行われたものだ。反対したのはわずか26か国であった。新政権も、国連でこの案に賛成票を投じた国の外相や国民に入国を禁じることなどしないだろう。

だが、発足したばかりのネタニヤフ政権が国連の決定にパレスチナ自治政府が関与したことへの報復として見せた暴挙はこれにとどまらない。イスラエルの治安担当閣議は占領されたヨルダン川西岸地区のCエリアでパレスチナ人による建設計画を凍結した。この場所ではイスラエル側が治安および市民生活のすべてを管理している。また、イスラエルは自治政府から武装派組織やその家族に支払われた金銭を相殺するとして、自治政府に代わって徴収した税金約4,000万ドルをパレスチナ自治政府へ送金することを拒んでいる。

いつの日か、エルサレムの西側と東側それぞれの両国の大使館でイスラエルとパレスチナの国旗が風を受けてはためき、2つの国家が平和に共存できる時が来ることを願うばかりである。

ヨシ・メケルバーグ

占領に関しては、イスラエルがパレスチナ人に期待するのは、自分たちの気まぐれに全面的に従うこと以外に何もないようだ。しかも、国際社会のほぼすべてが現在の状況は違法だと認識しているにもかかわらず、現連立政権の閣僚の大半は、そもそも占領など起きていないという立場を取っている。

現状を打破し、パレスチナ民族の自決を可能にするような和平プロセスもまた存在せず、したがってその復活もありえない。もしパレスチナ市民の代表者がこの袋小路を脱しようと国際社会に訴えようなどとすれば、処罰を受けることになる。

さらに悪いことに、パレスチナ人が武力闘争に訴えようとすれば(実際、イスラエルの占領に再び力で抵抗しようといういう動きは支持を集めつつある)、イスラエルの治安部隊によって武装派だけでなく、無辜の市民までがこれまで以上に過酷な報復を受けるだろう。

この傾向を反映する出来事がある。あるイスラエル人ジャーナリストがイスラエルの治安部隊に抵抗して武器を取るパレスチナ人に共感を表明すると、警察に呼ばれ尋問を受けた。確かに賛否両論を呼び起こす意見ではあるが、民主主義社会において表明することが違法に当たるようなものではない。暴力を奨励しているわけでもなく、政治的地平を取り払って冷静に考えれば、暴力的な事態になる可能性が高いと考えられるというだけの話だ。

残念ながら、この争いにおいては、いずれの側でも相手方に死と悲惨さをもたらす人々が英雄とされ、平和を求める人々は裏切り者というレッテルを貼られる。

イスラエルの人々にとって、パレスチナ自治政府が受刑者の家族の面倒を見ることや、イスラエル市民を殺害したり大怪我を負わせたりした者が称えられることは気分を害する行為かもしれない。とりわけ犠牲者の家族には苦痛である。

だがそれと同じように、多くの同胞を殺したイスラエル治安部隊員が英雄と称賛され、時には勲章を授けられ、イスラエル国家から給与その他の恩恵を受けるのを見ることは、パレスチナの人々にとって苦痛なのだ。

2つの民族間のこの紛争では、平和と共存、融和ではなく、互いの血を流す行為が神聖なものとされている。イスラエル新政権の行動は、この流れをさらに強化するだけである。

同様に愚かしいのは、イスラエルがパレスチナの国旗に対して取っている態度である。超国家主義者として知られる新政権のイタマル・ベングビール国家安全保障相は就任後すぐ、公の場からすべてのパレスチナ国旗を撤去するよう命じた。

無知と頑迷さをあらわにして、ベングビール氏はパレスチナ国旗の掲揚は「テロ行為の支持」を意味すると主張した。誰か占領地域に住むベングビール氏に(ちなみに氏はテロ組織支援については一家言あるはずである。その罪で2007年に有罪判決を受けているのだから)教えてやってはどうだろう、イスラエル国旗を含む他の旗と同様に、パレスチナ国旗はパレスチナの人々が1つの民族であり、自決の権利を持っていることを表す象徴であると。もっとも、これは悲しいことに未だ実現されてはいないが。

さらに、1993年のオスロ協定調印以来、ネタニヤフ氏を含むイスラエル右派の指導者たちは多くの場面でパレスチナ国旗とともに写真に収まってきた。いつの日か、エルサレムの西側と東側それぞれの両国の大使館でイスラエルとパレスチナの国旗が風を受けてはためき、2つの国家が平和に共存できる時が来ることを願うばかりである。

今のところ、この夢は幻であり、ベングビール氏とその盟友が幅を利かせる政権下では、パレスチナ人を劣った存在として扱い、何の罰も受けずに彼らを虐待する挑発的で過酷な施策が規範としてとどまるだろう。

  • ヨシ・メケルバーグ氏は国際関係の教授で、チャタム・ハウスのMENA プログラムのアソシエート・フェローを務める。同氏は国際的な出版・電子メディアに定期的に寄稿している。ツイッター: @YMekelberg
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