
ラワン・ラドワン
ジェッダ:昨年5月、サウジアラビア全土の家族がラマダンの食卓を囲んだ時、そこには空席がいくつかあった。この年は、今後何年も王国の住民たちの記憶に残るような激動の年となった。
今年はどの部屋も、明るく輝くファヌースやランタンでいっぱいだ。国民がより軽やかな気分で、かすかな希望の兆しを感じながら聖なる月ラマダンを迎える中、玄関口の上には煌びやかな光が輝き、アイロンがかけられたばかりのトーブやドレスに香水がかけられて、吊るされている。
人々の命が失われ、辛い別れがあり、閉鎖やロックダウンが行われた1年を経ても、サウジアラビアの人々は引き続き高い警戒心を持ち、様々な禁止措置が解除されても、あらゆる予防措置に従いながら、安全を第一に行動している。
サウジ国民も外国人も、食料品や装飾品、そしてもちろん有名なファヌースなどの大好きなラマダングッズで家の中をいっぱいにしようと、市場に押し寄せた。しかし、いつものお祭りのような家族の集まりが、コンピューター画面上での平凡な会合に変わってしまった昨年の寂しく陰鬱なラマダンの面影は、今でもみんなの心の奥底に潜んでいる。
世界中のイスラム教徒にとって年に1度の楽しい行事ラマダンが、2020年は暗黒の月となった。全国的なロックダウンにより、聖なる月に、家族や友人との交流、一番良い服を着た、たくさんの子どもたちがサンブーサを盗み食いする廊下、食卓に並ぶことになるラマダン特別メニューが一杯の料理、客人が一斉に断食を破り、共に、お互いに感謝する様子などのいつもの光景が見られなかったのだ。
中国の武漢市で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の最初の公式感染例が発表されたわずか6ヶ月前の2019年のラマダンとは大違いだ。それから1年も経たないうちに、混沌と混乱が起こることになるのだった。
2020年のラマダンは、異例の出来事となった。
「子どもたちや孫たちと離れてラマダンを過ごすことになるとは、夢にも思いませんでした」と、ウム・モハメド・ザイン・アル・アベディーンがアラブニュースに語った。この祖母と曾祖母は、ラマダンの初日に家族全員を家に集めることを何十年にもわたって使命としており、その儀式には義理の息子たちや親戚も参加していた。
「時には60人以上の家族や親戚で家がいっぱいになったこともありましたが、私が最も愛し、大切に思っている人たちで家がいっぱいになる様子を目にすることほど幸せに感じたことはありません」と、彼女は語った。
去年のラマダンについて触れると、彼女の顔は悲しみであふれた。数秒間の沈黙の後、深呼吸をして話を続け、ラマダンの初日を1人で過ごさなければならなかったのは、人生で初めてだったと語った。
「人生の中で最も困難な時期でした。多くのことを目にし、多くの愛する人を失いました。このパンデミックは私の心に重くのしかかりました」と、彼女は語り、新型コロナウイルスで兄弟を亡くし、孫も感染したと説明した。
悲しみに暮れているのは、この曾祖母だけではなく、3400万人のサウジアラビアの住民も彼女と同じ苦しみを味わった。王国は、昨年のラマダン期間中、午後5時から午前9時まで全国的な外出禁止令を発令し、その後、直後に行われるイド・アル・フィトルの祝日には、終日にまで拡大した。この措置は、新型コロナウイルスと闘い、国民の健康を守るサウジアラビアの取り組みの一環として行われた。
29歳のバデル・サラマーは、7年前にリヤドの民間企業で働くために家を離れてから、毎年ラマダンの初日をメディナで家族と過ごすことを習慣にしてきた。
「私の母が作るサンブーサは、メディナで一番です」と、彼は語った。「誰もがそう誓うくらいです」。
彼は何度か故郷を訪れようとしたが、様々な個人的理由で、その試みは全て上手くいかなかった。
「ただ単に縁がなかっただけだとはいえ、私は罪悪感から逃れられず、常に恐怖の虜になっていました。私は、両親が安全に過ごせるようにし、断食中の両親を見守り、無理をしていないか、必要なケアを受けているかを確認したくて、その場にいたかったのです。私は家族が恋しく、モスクが一時的に閉鎖されていることを忘れて、『誰が今、父を預言者モスクでのタラーウィーフの礼拝に連れて行くのか』と、ぼんやりと考えていました」。
今年は躊躇せずに戻ると、サラマーは語った。ラマダンの1ヶ月間を丸々、兄弟姉妹や姪、甥、そして何よりも母の料理に囲まれながら両親と過ごすために空港に向かう中、彼は再び期待に胸を膨らませた。
数ヶ月前にロックダウン措置が解除されたことで、全国のサウジ国民や外国人はより安心感を得ている。ワクチン接種開始から4カ月が経ち、700万人近くの住民がワクチンを接種しており、多くの人が今年のラマダンの集まりを楽しみにしている。ワクチン接種と共に去年の教訓を武器にすることで、ラマダンの集まりを開くのは比較的安全だと感じているのだ。
ラハフ・フセインと夫のアブドッラー・アル・ラシーディーは、二人ともジェッダに家族がいるが、東部州に住んでいる。彼らはこのラマダンに、子どもたちのために休日をできるだけ一緒に過ごすことを使命とした。
毎日の感染確認者数は最近上昇しており、多くの人たちがまたロックダウンが行われるのではないかと懸念しているが、当局の警告は無視されておらず、多くの人たちは、フセインやアル・ラシーディーのように、勧告に従ってイフタールの集まりを20人以下で慎重に開くことを計画している。
「今年は、新型コロナとは無縁のラマダンを計画しています」と、フセインはアラブニュースに語った。「私たちはワクチンを接種しましたが、今でもマスクをして常に手を洗っています。私たちは家族を奪われ、大切な人たちを失いました。ラマダンの集いをスクリーン上で過ごしましたが、そうならないようにしています。私たちは規則を守っています」。
フセインの夫のアル・ラシーディーも同じ気持ちで、「距離があるので、常に悲しみに打ちひしがれているような気分です」と語った。彼は、自分よりも妻の方が大変だったにも関わらず、みんながロックダウンを乗り切ろうとしている中で、彼女が家族のために平気を装っていたことを認めた。
「ラマダンは献身的に祈りを捧げるだけの月ではありません。我慢すること、愛する人とのつながりを大切にすることを学ぶ月でもあり、それは、距離があることでさらに強くなる一方です。ラマダンは、自分の価値を理解することであり、贈与の月に大切な人に対して、相応しい愛情と心遣いをきちんと示すことなのです」と、アル・ラシーディーは語った。
2021年のラマダンに向けて、全国の多くの人々が再びランタンを灯す中、今年は、教訓を得て、より強い心を持ち、より我慢強くなって、通常に戻るための小さな一歩を踏み出す。
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ツイッター: @Rawanradwan8