ロジエン・ベン・ガッセム
リヤド:およそ30年の間、サウジアラビアの娯楽施設は、映画館もコンサートホールも錠をおろして閉鎖され、市民や訪問客が公共の場で文化、スポーツ、アートなどの活動を楽しむことはできなかった
すべてが変わり始めたのは2016年だった。サウジアラビアの多岐にわたる社会的・経済的改革アジェンダである「ビジョン2030」の一環として、総合娯楽局が設立されたのである。
5年経った今、サウジアラビアのエンターテインメントへの渇望は一目瞭然になっている。わずか2カ月の間に、ほんの5年前には考えられなかった豪華な文化の祭典「リヤド・シーズン2021」に800万人近くが参加した。
総合娯楽局は、サウジアラビア経済を多様化して石油への依存度を減らし、クリエイティブ、レジャー、観光、ハイテク業界のグローバルリーダーを目指そうとする「ビジョン2030」計画を推進するために設立された。
現在、サウジアラビア国民と国外からの訪問者は、収入のレベルに関係なく、以前は選べなかったさまざまな娯楽を楽しむことができるようになり、人々の生活の質とサウジアラビアの仕事の場、投資対象としての魅力は向上している。
わずか5年のうちに、総合娯楽局はライセンス2,189件と許可証1,809件を発行し、2,500を超える企業が国産エンターテインメントベンチャーを立ち上げることにつながった。娯楽セクターはすでに10億ドル以上の利益を生み出し、7,500万人以上の訪問客を集めている。
COVID-19の大流行に伴うイベント中止、会場閉鎖、数カ月におよぶ海外旅行の禁止などで、サウジアラビアのエンターテインメント革命は、2020年は後退したものの、2021年は文化イベントが再び多数予定されている。まだまだこれからだ。
サウジアラビアの若い世代には、今年もいろいろな初体験の機会があるだろう。
1980年代まで、サウジの都市ではアートの運動が盛んで、市民はさまざまな娯楽を選ぶことができた。だが、1990年代初頭にその時代は終焉を迎える。
しばらくの間、音楽祭は年2回、アブハーのムフタハ・シアターとジェッダのサマーコンサートのみ開催されていたが、それらも中止になった。リヤドで最後に行われた公開コンサートは、1992年のアル・ジャナドリア祭のイベントだった。
2017年3月に沈黙は破られた。サウジアラビアでおよそ30年ぶりに公開コンサートが行われたのだ。入場は男性に限られていたものの、サウジのアーティスト、モハメッド・アブドゥとラシッド・アル・マジェドの公演のチケットはすぐに売り切れた。
その年の後半、サウジアラビアで初の女性アーティストの公演が行われた。レバノンの歌手ヘバ・タワジは、リヤドのキング・ファハド文化センターのステージで、女性のみ3,000人の観客の前でパフォーマンスを披露した。
同じ年、ギリシャの作曲家でピアニストのヤニーがリヤド、ジェッダ、ダンマンで演奏を行った。サウジアラビアに到着する前のツイートで、彼は次のように述べた。「これから歴史がつくられる過程を体験する。一瞬も逃さず目に焼きつけたい! 最初の訪問地はジェッダだ!(中略)ヤニー」
翌年にはアド・ディルイーヤのコンサートが始まり、サウジアラビア最大のイベントであるディルイーヤのフォーミュラEレースの傍らでフランスのDJデヴィッド・ゲッタ氏による忘れ難いショーなどいくつかのパフォーマンスが行われた。
当時、音楽ファンのイーサー・アルシャドゥキ氏は「コンサートは夢のようでした。一瞬一瞬を楽しみ尽くしました」とアラブニュースに語った。「デヴィッド・ゲッタの曲はどれも最高ですが、サウジアラビアのために特別に曲を作ってくれたと知って感動しました」
2019年には、米国のシンガーソングライターのマライア・キャリーがジェッダで公演を行い、エンターテインメントの制限が緩和されてからサウジアラビアに登場した中では最も有名なアーティストになった。
同じ年、Kポップの男性バンドBTSがサウジアラビアで単独スタジアム公演を行った初の海外アーティストになり、キング・ファハド国際競技場で6万人以上の観客を前にパフォーマンスを披露した。
2016年以降にサウジアラビアで発展したエンターテインメント分野は、音楽コンサートだけではない。遺産と自然の美しさを誇るサウジアラビアは、沿岸、山、砂漠の地域のレジャーと観光活動の促進に多額の投資をしてきた。
その過程で、サウジアラビアはいくつかのギネス世界記録を破ってきた。古代都市アル・ウラーで、3キロメートルの範囲に100の気球を上げて達成した最大のバルーングローの2020年の記録はそのひとつだ。
サウジアラビアの「リヤド・シーズン2021」も、滑り台「アバランチ」で2つのギネス世界記録認定証を取得した。22メートルを超える記録的な高さの24レーンを備え、「世界で最も高い楽しい滑り台」と「最も多くのレーンを備えた滑り台」の両方の記録を認定されたのである。
過去5年間で急成長を遂げたもう1つのエンターテインメント分野は、映画産業だ。2018年、35年間ぶりに公共映画館がようやく解禁され、国内市場の拡大にはずみがつき、サウジアラビア初の全国展開の映画館「モヴィ」が開館した。最初はジェッダに開き、その後国内各地に広がっている。
2019年には紅海国際映画祭が初開催された。サウジアラビア内外の映画製作者、俳優、業界の専門家が一堂に会し、映画を祝し、世界有数のスクリーン上の才能を称え合った。
この映画祭の壮大な使命は、サウジアラビアの映画産業を発展させ、推進し、地域の未開の才能を発掘し、世界中の映画のニュー・ウェーブを支援することである。
サウジアラビアの豊かでユニークな文化を保存し、促進すると同時に、国内外の観光市場を後押しするため、サウジアラビア観光・国家遺産委員会は、2019年に「サウジアラビア・シーズンズ」の取り組みを開始し、高い評価を得ている。
フェスティバルはリヤド、ジェッダ、東部州、タイフ、アル・ウラー、アド・ディルイーヤなどで開催され、国内の多様な工芸品や伝統を祝いつつ、若いサウジアラビア人の雇用を創出している。
観光は、2019年にE-ビザ発給を決める上で特に発展が期待された分野の1つだ。サウジアラビアでは、海岸沿いの新しい高級リゾート、知的好奇心が満たされる壮大な古代遺跡の観光、広大な砂漠と緑豊かな山々での冒険的活動の組み合わせによって、2030年までに観光客が1億人に増えると予測している。
5年前に改革が始まって以来、サウジアラビアのレジャー・娯楽産業はすでに多くの成果を上げている。2022年も、2030年に向けて「初めて」に満ちた年になることは間違いないだろう。