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クリーンな原子力がサウジアラビアの気候変動対策を前進させる

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31 Jul 2022 11:07:17 GMT9
31 Jul 2022 11:07:17 GMT9
  • 最初の原子力発電所の建設はクリーンエネルギーへの移行戦略の一環だ
  • サウジアラビアは原子力発電のためにIAEAの3段階の「マイルストーンアプローチ」に従っている

ジョナサン・ゴーナル

ロンドン:新聞記事の見出しの頭に「revealed(暴露)」と付く時、大半の読者はメディアの略語に十分に馴染んでいるため、それに続く記事に読者は驚きや懸念で反応することが期待されていることが分かっている。

しかし、イギリスのガーディアン紙が2020年に「暴露:サウジアラビアが核燃料を生産するのに十分なウラン鉱石を保有する可能性」という見出しの記事を掲載した時、真の驚きはこれが50年前から言われている話だということだった。

サウジアラビアの原子力産業開発計画は一夜にして生まれたわけでもなければ、秘密だったわけでもない。現実には同国は、平和的原子力発電の導入に向けた複雑な規制と技術の道を、何十年もかけてゆっくりと着実に責任を持って歩んできたのだ。

注意深く慎重に進んできたサウジアラビアが、クリーンエネルギー利用がかつてなく不可欠となった時代において、成熟した技術を導入する準備ができていることは明らかだ。

ラファエル・マリアーノ・グロッシーIAEA事務局長。(AFP)

国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は2月、リヤドで行われたバーチャル会議で代表らに対し、IAEAはサウジアラビアと緊密に連携して同国の平和的原子力発電プログラムのためのインフラ開発を進めていると述べた。

駐オーストリア・サウジ大使でIAEAサウジ代表のアブドゥラー・ビン・ハーリド・ビン・スルタン王子は3月、「発電および海水淡水化のために、関連会社や共同設立会社を通して原子力資産の開発・所有・運用」を行うサウジ原子力エネルギー持株会社の設立を発表した。

2020年のガーディアン紙の記事は、2017年に始まったサウジと中国の地質学者による調査のことを言っていたようだ。この調査は、フィンランド地質調査所の研究者も協力して、サウジアラビア国内でウランを豊富に含む可能性のある場所を2年間にわたって探索した。ちなみに、これらの場所は50年前に初めて特定された場所だ。

例の記事の中で「暴露」された内容は、IAEAが2018年6月にウィーンで開催した「核燃料サイクルのためのウラン原料に関する国際シンポジウム」で発表された論文において公開された、この調査の詳細と1年目の調査結果が元になっている。

この論文の3人の共著者はいずれもキング・アブドゥラー原子力・再生可能エネルギー都市(K. A. CARE)の科学者だった。この機関は勅令により2010年に、「世界レベルの地域産業によって完全に支えられた十分な代替エネルギー生産能力を開発することで、サウジアラビアの持続可能な未来を築くことを基本目標として」設立された。

したがって、この機関の設立によって、クリーンエネルギーの選択肢の中に原子力発電も含まれることになり、サウジアラビアは気候変動対策を確実に前進させることになった。

  1. A. CAREの設立は、サウジアラビアでは「人口が急速に増加しており、国内の再生不可能な炭化水素資源への圧力がますます高まっている」という事実が認められた結果でもある。

「発電と海水淡水化のための持続可能で信頼できる代替エネルギー源を導入する必要がある。そうすれば、国の化石燃料備蓄の消費を抑えることができる」と論文は結論している。

「広範な技術的・経済的分析」を受けて、「サウジアラビアの未来の電源構成の大きな部分として原子力と再生可能エネルギーを導入する」決定がなされた。

2018年のウィーンの論文で述べられているように、サウジアラビアのウラン資源についても、同国が将来的に建設する可能性のある発電用原子炉で使用する核燃料を自給できるようにする計画についても、何の秘密もなかった。

1965年という早い時期に実施された地質調査によって、サウジアラビアには、20世紀初頭に発見されて以来同国を大きく転換させた化石燃料に加えて、国がポスト石油時代に経済成長と発展を続けるのに必要な核原料が豊富に埋蔵されている可能性が示唆されていた。

サウジ地質調査がこれらの膨大な埋蔵ウランを確認してから35年、また国際機関と緊密に連携して国の原子力計画を推進するためにK. A. CAREがリヤドに設立されてから10年以上が経った。今やこれらの連携が実を結ぶ日も近い。

1987年、サウジ地質調査により国内における膨大な埋蔵ウランの存在が確認された。(提供写真)

それらの機関のうち最も重要なのは、1956年に「世界の平和・健康・繁栄に対する原子力の貢献を加速・拡大する」ために設立された、原子力分野おける科学技術協力のための政府間フォーラムであるIAEAだ。

サウジアラビアは1962年からIAEAに加盟している。2013年1月、天野之弥事務局長(当時)が同国を訪問し、国の電源構成に原子力を導入する計画についてサウジ当局から説明を受けた。

それ以来、サウジアラビアはIAEAの「マイルストーン・アプローチ」(国のエネルギー戦略要素としての原子力の正式な導入から始まり原子力発電所の建設・試運転・稼働に至る一連の3段階)のもとで約束と義務を遵守してきた。

サウジアラビアは第1段階(一連の実行可能性調査)と第2段階(主要な機関の設立と法・規制枠組みの確立)を完了している。

現在は第3段階に着手している。この段階では、「最初の原子力発電所の契約・認可・建設に向けた活動が行われ」、「最初の原子力発電所の試運転・稼働の準備ができた状態」のマイルストーン3で終わる。

原子力発電の開発を進めるという約束は、国家変革プログラム「サウジビジョン2030」の一環として2016年に開始した「国家エネルギープログラム」に明記されている。2017年7月には政府が「サウジ国家原子力プロジェクト」を承認し、2018年3月には原子力・放射線規制委員会を設立した。

2018年7月には、サウジ政府の招待により、IAEA職員が率いるブラジル、スペイン、イギリスの原子力専門家のチームがサウジアラビアの準備状況を12日間にわたって審査した。

チームリーダーを務めたIAEA原子力インフラ開発部門技術主幹のホセ・バストス氏はこう結論した。「サウジアラビアは最初の原子力発電所を建設する計画を完了させる準備が十分にできている」

サウジアラビアは国内の埋蔵ウランを利用して、クリーンエネルギーを供給し地球温暖化対策に寄与する技術を導入しようとしている(シャッターストック)

サウジアラビアは国内の埋蔵ウランを利用して、クリーンエネルギーを供給し地球温暖化対策に寄与する技術を導入しようとしている(シャッターストック)

リヤドのキング・アブドゥラー原子力・再生可能エネルギー都市。(提供写真)

この総合原子力基盤レビューは重要な一歩であり、K. A. CAREのハーリド・ビン・スルタン代表は声明の中でこれを歓迎した。

「サウジビジョン2030は原子力を、安定と持続可能な成長を支える重要なエネルギー源と考えている」

レビューは「サウジアラビア初の原子力発電所建設の契約締結前に、改善点を特定し、必要なインフラが整備されていることを確認するための貴重な手段だ」

2019年、サウジ原子力エネルギー持株会社の設立計画が発表され、同年3月に正式に始動した。

舞台裏では、膨大な技術的予備作業が進行中だ。最初に建設される2基の発電炉に適した場所を特定し準備するための調査が実施されている。最初の2基は、サウジアラビアの最初の原子力ニーズに最適な技術と考えられている軽水炉となる予定だ。

一方、サウジビジョン2030関連プロジェクトの中でおそらく最も劇的なプロジェクトに関する作業も始まっている。それは国内初の原子炉で、「労力を要する訓練や人材育成計画を支援し、研究開発の手段になる」ように設計された低出力研究炉となる予定だ。2018年11月、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子殿下がキング・アブドルアジーズ科学技術都市においてこの施設の礎石を設置した。

2021年4月には、サウジアラビアが国内初の完全な原子炉の建設に極めて近づいていることが明らかになった。IAEAによってサウジアラビアのためにオンライントレーニングコースが行われ、20以上の政府機関から原子力規制当局、国家警備隊、税関・港湾局などの職員ら50人が参加し、放射線や原子力に関する緊急事態が発生した際の初期対応者としての役割について学んだのだ。

国際原子力機関は、サウジアラビアの電源構成に原子力を導入する計画についてサウジ当局から説明を受けた。(シャッターストック)

数カ月後の2021年9月、サウジアラビアはIAEAの緊急時対応援助ネットワーク(RANET)の37番目(中東地域ではエジプトとイスラエルに続く3番目)の加盟国となった。これは、原子力事故や放射線に関する緊急事態が発生した際に加盟国がタイムリーな支援を提供あるいは要請することを可能にする世界的スキームだ。

今年5月には、もう一つの重要なチェックポイントに到達した。イギリスのコンサルタント会社EYがサウジアラビア初の大規模原子力発電プロジェクトの「トランザクションアドバイサー」に任命されたのだ。このプロジェクトでは、2基の原子炉が最大4ギガワット(300万世帯分)を供給する予定だ。

IAEAのマイルストーン・アプローチに従って、サウジアラビアは今やその原子炉建設のための入札募集と契約交渉をする準備ができている。

サウジアラビアにとって、マイルストーン3(最初の原子炉が稼働開始してクリーンな電気を国内電力系統に送り出すことができる時点)への到達は、国のエネルギー消費プロファイルが根本的に変わり始める瞬間になるだろう。

そして、原子力発電の稼働開始は早すぎることはない。K. A. CAREによると、現在の成長率から考えるとサウジアラビアのピークエネルギー需要は2030年までに120ギガワットを超える見込みで、現在のエネルギー供給量に基づくと60ギガワットが不足することになる。

また、原子力は海水淡水化においても重要な役割を担うことが期待されている。2030年までに水の需要は1日700万立方メートルに達すると予想されており、これは現在の生産能力を300万立方メートル上回っているのだ。

1月には、エネルギー相のアブドルアジーズ・ビン・サルマン王子が世界経済フォーラムにおいて、サウジアラビアは原子力を利用して水素ガスを生産することもできると述べた。水素はクリーンに燃焼することができるが、水から水素を生産するにはエネルギーが必要だ。

サウジ・エネルギー相のアブドルアジーズ・ビン・サルマン王子。(ゲッティイメージズ)

サウジアラビアは原子力を導入することで、自国に迫るエネルギー危機を阻止するための措置を講じるだけでなく、地球温暖化対策へも貢献しようとしている。

昨年グラスゴーで開催された国連気候変動会議(COP26)に先立って発表された「世界の原子力発電所実績レポート」の序文で世界原子力協会(WNA)のサマ・ビルバオ・イ・レオン事務局長が書いているように、「今世紀半ばまでに温室効果ガス排出量実質ゼロを実現できなければ(…)パリ協定で設定された目標を達成できないことになる」

「化石燃料からの温室効果ガス排出を削減するためには、原子力発電による寄与を増加させることが不可欠だ」

WNAによる新たな分析が示すところでは、1970年以降、石炭火力発電を仮定した場合と比較すると、原子炉の使用によって720億トンの二酸化炭素排出が回避された。

(シャッターストック画像)

サウジアラビアは発電に石炭を全く使用していない。2020年には天然ガス(61%)と石油(39%)の組み合わせで発電を行った。この二つのうち、天然ガスの燃焼で発生する温室効果ガスはより少なく(石炭の半分)、燃焼過程で発生する汚染物質もずっと少ない。

とはいえ、石油と天然ガスは両方ともサウジアラビアのカーボンフットプリントに大きく寄与している。そのため、アブドルアジーズ王子は2021年1月、2060年までに同国がカーボンニュートラルとなるように取り組んでいくと発表した。

この取り組みの最初の大きな目標は2030年に達成される予定だ。サウジアラビアはこの年までに電力の50%を風力、太陽光、原子力などの再生可能エネルギーで賄うことを目指している。

ダーランでの石油の発見がサウジアラビアの運命を変えてから84年が経った。石油は今後しばらくは流通し続け、風力、太陽光、原子力などの再生可能テクノロジー開発のための資金を提供するだろうが、最終的には再生可能エネルギーが石油を歴史上のものにしてしまうだろう。

しかし、サウジアラビアの経済の動力となり未来への道を照らすのは、信じられないことに大地からサウジアラビアに与えられた二つ目の贈り物であるウランだ。

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