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豊かな生物多様性の保全に寄与するサウジアラビアの野生動物保護区

野生生物への脅威が世界中で増す中、サウジアラビアの豊かな生物多様性を保全するための取り組みは希望の光となっている。(AFP)
野生生物への脅威が世界中で増す中、サウジアラビアの豊かな生物多様性を保全するための取り組みは希望の光となっている。(AFP)
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03 Sep 2022 08:09:02 GMT9
03 Sep 2022 08:09:02 GMT9

ラワン・ラドワン

  • 国立野生動物保護開発委員会が1986年に設立された
  • それ以降、数百の絶滅危惧種を保護するために保護区が設置された

ジェッダ:農業・工業の拡大、鉱物・化石燃料の採掘、健康・栄養の改善を伴う絶え間のない経済発展により、世界人口は爆発的に増加した。

その結果、都市や町などの都市部が、以前は人が住んでいなかった土地や動物の生息地を侵食した。

生活水準は過去数世紀の間に向上してきたが、持続可能でない開発が急増したため、世界の生態系に重い負荷がかかった。二酸化炭素排出、森林破壊、土地の過剰開発や漁業資源の乱獲が植物や動物に計り知れない被害をもたらした。

世界自然保護基金が隔年で発表している「生きている地球レポート」の2020年版によると、今後数十年で約100万種の動物が絶滅の危機に直面するとされており、これは授粉媒介者や我々の食料システムに壊滅的な影響を与える可能性がある。

しかし、サウジアラビアの取り組みが示すように、見通しは真っ暗なわけではない。ヒジャーズの険しい山々や東部の青々としたオアシスから、国土の30%を占める広い渓谷や広大な砂漠平原まで、様々な地形が多様な植物相・動物相の生息地となっている。

この豊かな生物多様性を保全するために、サウジアラビア当局は相当なリソースを保全の取り組みに注いできた。絶滅危惧種を保護し自然保護区を拡大することで脆弱な生息地へのさらなる人間の侵入を防ぐことを目的とするプロジェクトへの資金提供もその一つだ。

自然保護区のプロジェクトの立ち上げに出席し、走るガゼルの子供たちを眺めるムハンマド・ビン・サルマン皇太子殿下。アル・ウラー。(AFP)

サウジアラビアはアラビア半島の大部分を占めているが、世界で最も人口密度が低い国の一つであるため、広大な土地を野生生物保護区として確保して、都市・農業・工業の拡大から守ることが可能となっている。

これらの取り組みは、1978年にサウジ当局が自然生息地の保護のために最初の8万2700平方キロメートルの土地を確保した時から始まった。1986年には、保護の取り組みを監督する国立野生動物保護開発委員会が設立された。

同委員会が初めて特定の種を対象として立ち上げた計画の一つが、サバクフサエリショウノガン(Chlamydotis undulata macqueenii)の飼育下繁殖プロジェクトだった。この種の個体数は、乱獲や土地利用の変化の結果として減少していた。

密猟、鷹狩り、規制されない狩猟、魚の乱獲、過放牧、生息地破壊、これら全てを原因とした個体数減少により、この鳥は国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで「危急」に分類された。

管理地のネットワーク内にフサエリショウノガンの自立的な生息群を確立し、地域での絶滅を防止するために、いくつかの長期的繁殖プロジェクトが開始された。1989年、サウード・アル・ファイサル王子野生生物研究センターが卵の孵化に初めて成功した。

同センターは2年後までに、マハザット・アズ・サイド保護区に放すのに十分な数のフサエリショウノガンを繁殖させた。このプロジェクトの最初の2年間で、同センターは2000羽以上を繁殖させ野生に返した。

ファラサン島自然保護区。(提供写真/SPA)

同センターによる記念碑的な成果に基づいて、イマーム・トゥルキ・ビン・アブドゥラー王立自然保護区開発局は今年8月、地域の個体数をさらに増やすためにフサエリショウノガン繁殖センターを独自に立ち上げたと発表した。

サウジアラビアは、生態系保全・回復の取り組みの一環として、環境保護活動家、科学者、特別タスクフォースを動員して、IUCNなどの国際機関と協力しながら、自然保護区のための計画を策定している。

地域の絶滅危惧種を保護するために保護区が作られている。その多くは保護活動をエコツーリズムや公共レクリエーション空間の開発と組み合わせたものだ。

現在、国立野生動物保護開発委員会は15ヶ所の保護区を管理しており、さらに20ヶ所の区域に保護区のステータスを付与する提案が現在審査中だ。

それらとは別に40ヶ所が、環境・水・農業省、都市・地方担当省、近隣諸国、ジュバイルとヤンブーとアル・ウラーの王立委員会などによって管理されている。

タイフのサウード・アル・ファイサル王子野生生物研究センター、アル・カシムのムハンマド・アル・スダイリー王子リムガゼル繁殖センター、アル・ウラーのアラビアヒョウ・シャラーン自然保護区などのサウジアラビアの既存の保護区は、絶滅危惧種の繁殖に貢献してきた。

ヒジャーズの険しい山々や東部の青々としたオアシスから、国土の30%を占める広い渓谷や広大な砂漠平原まで、様々な地形が多様な植物相・動物相の生息地となっている。(AFP)

13万700平方キロメートルの面積を持つサウジアラビア最大の保護区であるキング・サルマン・ビン・アブドルアジーズ王立自然保護区(KSRNR)には、土地固有の脊椎動物(鳥類、哺乳類、爬虫類、両生類)約277種が生息している。

3つの主要な保全地域、クンファ、トゥバイク、ハラット・アル・ハラは、リムガゼル、アラビアオオカミ、アラビアオリックス、スナギツネ、ヌビアアイベックス、アラビアトゲオアガマ、およびフサエリショウノガン、イヌワシ、イシチドリなどの様々な渡り鳥の保護区となっている。

KSRNRの広報担当者はアラブニュースに対し、「保全が懸念されている種の保護・保全のためには、主にそれらの種を自然の脅威と人為的な脅威の両方から十分に守るために多大な努力が必要とされる」と語る。

「それらの努力の一部として、生息地回復・再導入・監視・保護・意識向上などのいくつかの保護・保全プログラムが挙げられる。現在の再導入プログラムは主に、アラビアオリックス、ヌビアアイベックス、アラビアサンドガゼル、アラビアガゼル、サバクフサエリショウノガンなどの主要種や絶滅危惧種を対象としている」

「これらのプログラムや取り組みから得られた予備的な結果は期待できるものだ。例えば、個体の順応の兆候が記録されているほか、90年ぶりにオリックスが野生で生まれるなど、再導入種の新生個体が野生で誕生している」

「KSRNRにおけるもう一つの成功例としては、シロエリハゲワシの繁殖個体群が挙げられる。これは、この種に関しては中東で最大の居住繁殖個体群の一つと考えられている」

フサエリショウノガンを野生に返す取り組みが行われている。(提供写真)

近年、世界中の政府や機関によって生態系保全に向けた努力が行われているにもかかわらず、野生生物や生息地の減少のペースは圧倒的だ。

前出のKSRNRの広報担当者は、「動物が直面する主な障害として、地域での家畜(主にラクダ)の過放牧による生息地環境の悪化に加え、狩猟がある」と言う。

「KSRNRの専門チームが、これらの生息環境悪化の問題に対処すべく、回復プログラムの実施や、最新の手法やテクノロジーを用いた動物の監視・保護に取り組んでいる」

特に海洋生息地が、汚染、酸性化、水温上昇によって壊滅している。例えば、オーストラリアのグレートバリアリーフでは近年、海洋温度上昇によってサンゴの半分以上が失われている。

一方、世界中で海洋生物が急速に減少している。クジラ、イルカ、ジュゴン、ウミガメ、および多くの種の魚が、陸上の種の2倍の速さで減少しているのだ。

サウジアラビアの南西海岸沖に浮かぶファラサン諸島は、ユニークな生物多様性で名高い。230種以上の魚、様々なサンゴ礁、ジュゴンなどの絶滅危惧種の海洋生物が生息している。

長年続いた乱獲が禁止され、野生のアラビアオリックスが再び増えつつある。(提供写真)

1996年以降この地域は5400平方キロメートルにおよぶ自然保護区となっており、最近になってユネスコの「世界島嶼沿岸生物圏保存地域ネットワーク」に加わった。

この保護区には、この地域の固有種であるエドミガゼルのサウジアラビア最大のコロニーのほか、シロオマングースや齧歯類数種が生息している。

この地域は渡り鳥の重要な回廊でもあり、約165種が通過する。また、フラミンゴやヘラサギのほか、紅海最大の密度でコシベニペリカンが、中東最大の密度でミサゴが生息している。

この島々が隔絶していることが、地域とそこに生息する動物の保全にある程度は寄与している。しかし、沿岸部の新たな開発、船舶の通過、水温上昇などにより、特定の陸上生物・海洋生物が減少しているため、海洋生態系の保全・回復に向けた取り組みが行われている。

気候変動への対応、二酸化炭素排出量の削減、環境の改善を目指して昨年始まったサウジ・グリーン・イニシアティブ(SGI)の一環として、サウジアラビア各地に合計100億本のマングローブの木が植えられる予定だ。

海洋生息地を守るために数百万本のマングローブの木が植えられる予定。(Shutterstock)

自然保護区はサウジアラビアの植林イニシアティブに貢献している。KSRNRは悪化した生息地の90%を2040年までに回復すべく、固有種の苗7000万本を植えることを目標にしている。

前出の広報担当者は、「KSRNRは2022年に固有植物の苗100万本を植える予定だ」と言う。「この植樹目標は2023年には2倍の200万本としている」

「これは、土地面積に相対的にSGIが設定した目標におけるKSRNRの貢献分となる。2030年に3000万本、2040年に7000万本を目標としている」

これらの立派な努力や、他の場所での自然保護活動家による取り組みは行われているものの、この地球に我々と共に住んでいる息を呑むほど多様な動物種の絶滅を回避するためには、この地域だけでなく世界中でより多くの対策が行われる必要があると専門家は警告する。

 

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