
レベッカ・アン・プロクター
リヤド: サウジアラビアは、首都リヤドに世界最大の中心街開発を目的としたニュー・ムラッバ・デベロップメント社(NMDC)の設立により、またもや都市デザインの限界を押し広げようとしている。
この開発計画の中核が「ムカーブ」である。その名はアラビア語で立方体を意味する。高さ400m、幅400m、奥行き400mで、都心部に建てられるビルとしては世界最大のものになると数々の開発事業者はいう。
外観は中東地域の伝統的なナジュド建築様式に着想を得ており、内部は最先端のホログラムとデジタルとバーチャル技術で構築される世界初のイマーシブ・デスティネーション(没入型観光地)となる予定だ。
「没入体験型」構造物であるムカーブは、200万平方メートルの床面積を持ち、ホテルや住宅、商業スペース、レクリエーション施設とともに、小売・文化・観光アトラクションを擁するプレミアムなホスピタリティーを提供する観光地となる。
ニューヨークのコロンビア大学で建築学の非常勤教授を務め、ワシントンのアラブ湾岸諸国研究所の非常勤研究員であるYasser Elsheshtawy氏は、アラブ・ニュースに対し、「西洋・アラブ諸国における評論家らには、こうしたプロジェクトを頭ごなしに否定する傾向があります。彼らはプロジェクトを、愚行であって、金余りの産物だとしています」と述べた。
「しかし、プロジェクトを客観的に見れば、それ以上のものだということが分かります。私は、プロジェクトのコンペに招かれたチームの一つに関わった経験から、このプロジェクトは真剣な考えがあってのものだと証言できます
まずはじめに、ムカーブでは、最先端のバーチャルリアリティ技術を駆使した、これまでにないユニークな体験ができます。ムカーブに入場すると、様々な風景のプロジェクションが目に入ります。それを、ムカーブの中央部を占める螺旋状のタワーを構成する集合住宅の一室から眺めることもできます。
また、リヤドに世界各地の都市の中で一目でそれとわかるユニークなアイコン(エッフェル塔やシドニーオペラハウスのような)がもたらされます」と付け加えた。
発表は、2月16日、サウジアラビアの政府系ファンド、パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)とNMDCが共同で行った。発表によれば、ムカーブは、ローカル産業の発展と民間部門の強化を目指し、ローカルコンテンツ、不動産、石油以外の収入源に新たなプラットフォームを提供するための戦略の一部として位置づけられるという。
サウジアラビアには、 NEOM、レッドシー・グローバル、Diriyah Gate、Qiddiya、Aseer、Amaalaなどのメガ・ギガプロジェクトが存在し、ニュー・ムラッバはその最新のものとなる。いずれも最大の目的は、同国を観光、テクノロジー、創造産業の分野における世界的リーダーとすることだ。
ニュー・ムラッバは、リヤド北西部のキングサルマンとキングハリド2つの主要道路の交差点に位置する。19平方キロメートルの面積を有し、数十万人の住民を擁する予定だ。
床面積にして合計2,500万平方メートルのスペースが提供され、それには、10万4,000戸以上の住宅、9,000のホテル客室、98万平方メートル以上の小売スペースに加え、140万平方メートルのオフィススペース、62万平方メートルのレジャー資産、180万平方メートルのコミュニティ施設専用スペースが含まれる。
PIFの発表では、ニュー・ムラッバは、徒歩15分圏内にユニークな生活・仕事・娯楽体験を提供し、独自の内部交通システムを設けることが計画されている。また、リヤドのキングハリド国際空港から車で約20分の距離にある。
サステイナビリティ(持続可能性)はプロジェクトの中核的な大原則であり、リヤドの変革と都市再生のもう一つの重要な側面でもある。ニュー・ムラッバでは、生活の質を高め、健康的で活動的なライフスタイルを奨励し、地域社会のつながりを深めるために、ウォーキングやサイクリング向けの緑地が整備される。
博物館、技術・デザイン大学、80以上の娯楽・文化施設、多目的劇場も建設される。
ニュー・ムラッバは、リヤドの将来的な開発計画の数々に追加された。開発計画は、2022年10月末に開催された国際会議Future Investment Initiativeで、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子殿下により詳細を明かされた。
「ネオ・ルネッサンス」をテーマとする同会議で、皇太子殿下は「真の成長はこの都市から始まる。産業、イノベーション、教育、サービスなど、あらゆるセクターがその範囲内だ」と述べた。
「リヤド・ルネッサンス」を掲げるこの開発計画は、リヤド市王立委員会のファハド・アル・ラシードCEOが実行に移す。
計画は一筋縄ではいかない。だが、リヤドは歴史的に、急速な都市開発という課題を幾度となく乗り越えてきた。
建築専門家のサレハ・アル・ハスール氏は学術誌『Scientific Research』で、「リヤドは過去50年間に人口50万人足らずの町から700万人の大都市に成長した。その変貌のスピードと規模は、他にあまり例がない」と指摘している。
全世界の建築家、特にサウジアラビアや中東ですでに活動している建築家らは、重力に逆らうような飛躍的なリヤドの開発計画についてしばしば考察してきた。
国際的な建築・デザインスタジオであるOMAのパートナー、レイナ・デ・グラーフ氏はアラブ・ニュースに対し、「サウジアラビアの最新世代のプロジェクトは、あまりのスケールと野心に判断を狂わされます」と話した。
「愚行か先見の明か?的外れなのか、正鵠を射た行動なのか?…いずれにせよ、無視することはできません」
これまでにも同様の疑念は、アラブ世界で唯一万博を開催した都市であり、輝かしい首長国であるドバイにも投げかけられた。当時、ドバイの人口は10年間で倍増の途上にあり、それはアラブ首長国連邦の50年の歴史の中で初めてのことではなかった。
サンフランシスコを拠点とする世界経済フォーラムのスマートシティと都市変革の専門家であるジェフ・メリット氏は、2021年2月にアラブ・ニュースに対して、「このような急速な都市拡大はありえないことではないが、他の世界都市の経験から学ぶことも必要だ」と述べている。
リヤドの都市開発計画は画期的だが、課題もある。それは人口の急増も少なからず理由になっている。
「私が特に懸念しているのは、このようなプロジェクトがリヤドの都市景観に与える影響です」とElsheshtawy氏は言う。
「基本計画にあるように、ムカーブはより大規模な開発プロジェクト、ニュー・ムラッバの一部です。開発地区の住宅地や商業地は、ムカーブという巨大なアイコンが近くにあることで恩恵を受けます」
「プランナーは、この地区が富裕層のための飛び地と認識されないようにし、また、都市全体と調和させなくてはなりません。この地区とムカーブが幅広い層の人々に開かれ、また、単なる利益追求のための商業的な事業とならないようコネクションを確立する必要があります。
したがって、開発には手頃な価格の住宅を含めるべきです。また、ムカーブはリヤド市民全員に開放され、利用可能であるべきです」
Elsheshtawy氏は、ムカーブの規模を鑑み、その影響を緩和するために更なる視覚・知覚面の調査が必要だと考える。
「その規模は、おそらくピラミッドに匹敵するほど巨大なものです」と同氏は言う。「しかし、ピラミッドは都市の周縁にあり、住宅地の中にあるわけではありません。そのため、そのマッスを調整し開放することで、ムカーブが得体のしれないモノリスのように、圧迫感を与え、圧倒することがないようにするべきです」と述べた。
それでもなお、Elsheshtawy氏は、ムカーブがサウジアラビアを代表するランドマークになると確信している。
「ムカーブというプロジェクトの非常な大胆さは、その途轍もない規模も相まって、観光客の流れを安定的に呼び込むでしょう。」と同氏は述べ、また、これが「地域経済にも貢献し、サウジアラビアの経済多様化のための青写真であるビジョン2030に即したものとなります」と付け加えた。