
リヤド:サウジアラビアは近年、ファッション業界の目覚ましい発展を目の当たりにし、活気に満ちたダイナミックな、地域のクリエイティブ・ハブとして頭角を現している。今日、人工知能のおかげで、より多くのビジネスチャンスが急速に生まれつつある。
伝統的なエッセンスを現代的なイノベーションと融合させながら、サウジアラビアのデザイナーたちは世界の顧客を魅了し、文化的規範を再定義し、コンテンポラリーファッションを通して王国の豊かな歴史を紹介してきた。
2020年にファッション委員会が設立されたことで、リヤド・ファッション・ウィークのような注目を集めるイベントが始まった。10月のファッション・ウィークと並行して開催された、特に革新的なイベントのひとつが、タサワール展である。
ソーシャルメディアプラットフォームのスナップチャットによって作られたタサワール展(アラビア語で「想像する」という意味)は、5人のサウジアラビア人デザイナーの作品を展示するバーチャルリアリティのギャラリーで、ゲストはバーチャルで服を試着することができるようになっている。
サウジアラビアにおけるスナップチャットのマネージング・ディレクターであるアブドゥラー・アル=ハマディ氏は、この展示会は中東で初めてテクノロジーとファッションの世界を融合させたものだと語った。
「タサワール展では、ゲストはサウジアラビアのデザイナーの5つの部屋を訪れることができ、それぞれの部屋で様々な拡張現実技術の使い方や、デザイナーの物語を知ることができます」とアル=ハマディ氏はアラブニュースに語った。
部屋のフィルターを調整することで、テーマを変えることができ、様々なデザイナーの世界やインスピレーションの源に浸ることができます。
この展示に参加した5人のデザイナーのうち、ファッションブランドHindammeのオーナーであるモハメド・コジャ氏は、この展示の独創的なAIの使い方を賞賛した。「スナップチャットのタサワール展は、AIをファッションに効果的に活用した良い例です。私たちはHindammeという世界を作り出し、ゲストをデジタル空間と物理的空間の両方に引き込みました。Hindammeのデジタル作品を試着できる鏡や、ファッションへの関心を高めるような仕掛けを用意したのです」と同氏はアラブニュースに語った。
しかし、他のクリエイティブ産業と同様に、AIがデザインプロセスにどの程度関与すべきか、またその進出がファッションブランドや文化全般にとってどのような意味を持ちうるかについては懸念がある。
同氏は、AIはリサーチのための貴重なツールになりうると考えているが、「デザイナー自身の本質的なアイデンティティと創造性を損なう」可能性があるため、主要なデザインツールとして使用すべきではないと言う。
「AIは主に、望むものを予測する検索ツールです。つまり、さまざまなテーマを検索すると、AIがあなたのために作成したものが寄せ集められるのです。AIからの提案は面白いですが、それは個人の感情から出てくるものではありません。だからこそ、AIがデザイナーとして、人間の自然な創造性に取って代わることはないと思うのです。しかし、AIはルーティンワークをこなすツールとして使われる場合には素晴らしく、その点では私たちの時間とエネルギーを大幅に節約することができます」と同氏は続けた。
パーソナル・スタイリストでリスト・マガジンの編集者であるダリア・ダルウィーシュ氏も、AIは顧客の体型に基づいてムードボードや 着こなしを作成するのに便利なツールであり、大幅な時間の節約になると考えている。
「ファッションブランドに関して言えば、AIは将来の商品に関するトレンドや顧客の好みを分析するのに役立ちます」と彼女はアラブニュースに語った。さらに「場合によっては、ファッションブランドはバーチャルな試着サービスを提供し、オンラインショッピングをシームレスに楽しむことができるでしょう。AIを活用したビジネスで私が気に入っているのは、Taffi Inc.というオンライン・プラットフォームです。プロのスタイリストだけでなく、AIアシスタントを通じてカスタマイズされたスタイリング・サービスを提供しています。私はAIが世界を、特にクリエイティブ業界を乗っ取るという考えを好ましく思っていません。もしAIが仕事をアシストし、任せるのに役立つのであれば、利用することはとても賢明なことです」と続けた。
ファッション・ジャーナリストのモハメド・ユシフ氏も同様に、業界におけるAIの応用には慎重だ。「AIはエラーの数を大幅に減らすのに役立ちます」と彼はアラブニュースに語り「サステナブルなブランドが、環境に優しく倫理的な観点から、より良い結果を達成するのにも役立ちます」と続けた。
さらに、同氏は「創造的なプロセスに関しては、デザイナーの仕事の核心を失う可能性があるところだと思います。アイデアを出し、生地や色を選ぶのはデザイナーの仕事です。それこそが他との違いであり、単純にブランドのアイデンティティを生み出すものなのです」と続け「クリエイティビティは人間の特性だとも思っています。AIがクリエイティブになれたとしても、人間ほど独創的で影響力のあるものにはならないでしょう」と続けた。
有名ファッションデザイナーが亡くなった後でも、AIによって永続的な 『デジタルレガシー 』を作ることができるのか、と問われたユシフ氏は懐疑的だった。「ファッションをプログラミングすることは、賢明なアイデアだとは思いません。アイデンティティを保つことは重要ですが、もしクリスチャン・ディオールがこのようなことをしていたら、今のジョン・ガリアーノの作品を楽しむことはできなかったでしょう。ココ・シャネルやカール・ラガーフェルドも同様です。二人とも、ファッションの最新事情に合う形で創業者のスタイルを守り、同時に彼ら自身の創造性を発揮しました。ファッションの未来は予測できないのに、なぜデザイナーがブランドの未来を決めなければならないのでしょうか?もしかしたら、そのスタイルがそのうち通用しなくなるかもしれません。今日私たちが知っているブランドの多くは、斬新な感性を持ったデザイナーを雇わなければ、忘れ去られていたでしょう。グッチやトム・フォードのことを考えてみてください」と同氏は結んだ。
それでもなお、新進・既存のファッションデザイナーがテクノロジーを試し、作品の一部に取り入れるのを止めることはない。
6月6日にリヤドで開催されたWWD(Women’s Wear Daily)グローバル・ファッション・サミットで、米国のファッションデザイナー、ノーマ・カマリ氏は、彼女のブランドが今年10月にAIの助けを借りて制作したフルコレクションを発表し、過去のカマリのデザインをどのように解釈するかを実験すると発表した。
同氏は「ノーマ・カマリのコピーのようなものではなく、新しくて、微調整できるし、遊び心を加えることもできる。でも、最終的には120歳まで生きるつもりだから、私がバトンを渡さなければならなくなった時には、うちのスタッフもそれを使えるように訓練しておくわ。私のように考え、私のように行動し、コレクションを作るときに思い描くことを実践するよう教えこんでいるのです」と続けた。
とはいえ、カマリには懸念もある。「AIはクリエイティブな人間ではないし、それを置き換えるのは難しいけれど、クリエイティブな人間をサポートし、可能性を広げることができます」と同氏は結んだ。
多くのデザイナーは、ファッション業界にAIを応用した場合の最大の強みは、リサーチアシスタントとしての役割であることに同意しているようだ。Adhlalのブランド・デザイナーであるラカン・アル=シェフリ氏は、AIの大きな利点のひとつは、クリエイティブなプロセスをスピードアップさせることだと考えている。
「これまでクリエイターは、異なるデザイン分野にわたるムードボードや視覚イメージを作成するために、Pinterest、Shutterstock、Pexels、ソーシャルメディアのようなプラットフォームに頼ることが多かったのです」と彼はアラブニュースに語った。「AIを使えば、制作プロセスの初期段階で、精度の高い視覚イメージを作成することができます。例えば、メンズウェアを専門とするファッション小売業者のためのブランド・アイデンティティをデザインしている場合、ブランドの物語を、マーケティング・キャンペーン、ソーシャルメディア、ウェブサイトなどのためのまとまりのある視覚イメージに変換したいと思います。ストーリーの準備ができたら、Midjourney(AIジェネレーター)で指示を書くだけで、数多くの視覚イメージが生成されます。これによって、インスピレーションを求めて膨大なビジュアル・ライブラリーを何時間もかけて探す代わりに、数分でインスピレーションを集め、ムードボードを作成することができるのです」と同氏は続けた。
アル・シェフリ氏は、もうひとつの大きな利点として 「コスト効率 」を挙げた。「フリーランスのデザイナーにとって、外部ツールやストックイメージサイトは高価であり、プロジェクトの予算を超えることもしばしばです。しかし、AIを使えば、無料または適正価格の無制限のビジュアル要素にアクセスできます。Midjourneyは、OpenAIのDALL-Eに似た、自然な言語説明から画像を生成するAIであす。私の意見では、利用可能な最高のAIビジュアル生成プラットフォームです。使いやすい複数の機能があります。私のお気に入りのひとつは『/blend 』機能で、古いビジュアル・スタイルを現代の作品とブレンドして、新しいスタイルを素早く生成することができます。ほぼ毎日Midjourneyを使用しており、クリエイティブ業界のすべての人に強くお勧めします」と同氏は述べた。
ファッションデザイナーの間で人気を博しているもうひとつの生成AIは、Krea.aiだ。「Krea.aiは、生成されたビジュアルをより自由にコントロールできる素晴らしいアート駆動型のウェブベース・ツールです。商業グラフィックよりもむしろビジュアル・アートに理想的です。私は何時間もこのツールを使って実験しています」と同氏は述べた。
テキストと画像から高品質でリアルなビデオを作成するLuma Labsとその Dream Machine もまた、クリエイティブな 制作プロセスを一変させた。「Luma Labsはビデオと動画生成に特化しており、私のお気に入りの写真家やアートディレクターの何人かは、これを多用しています。ファッション写真家にとって、非常に有益なツールです」と同氏は続けた。
少なくとも今のところは、ファッションデザイナーはAIアルマーニやロボ・ラバンヌに取って代わられることを恐れるべきではない。むしろ、これらのツールを使って仕事を効率化し、スピードアップさせることができるのだ。
「総合的に見て、現状のAIはアーティストやデザイナーのクリエイティブな 制作プロセスを向上させる素晴らしいツールです」と同氏は結んだ。