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アートで文化の架け橋を。『Global Art Daily』誌編集長インタビュー

創刊者、編集長、キュレーターのソフィー・マユコ・アルニ氏とサルマン・アル・ナジェム氏の絵画。(提供)
創刊者、編集長、キュレーターのソフィー・マユコ・アルニ氏とサルマン・アル・ナジェム氏の絵画。(提供)
『Global Art Daily』は、2刊が日本で印刷された。同誌は限定的に世界中で発行されている。(GAD)
『Global Art Daily』は、2刊が日本で印刷された。同誌は限定的に世界中で発行されている。(GAD)
「All Girls Are Spicy」 と題されたGAD誌2号のフロントページ。(スクリーンショット/GAD) GAD誌創刊号のフロントページ「Street Futures」。(スクリーンショット/GAD)
「All Girls Are Spicy」 と題されたGAD誌2号のフロントページ。(スクリーンショット/GAD) GAD誌創刊号のフロントページ「Street Futures」。(スクリーンショット/GAD)
「All Girls Are Spicy」 と題されたGAD誌2号のフロントページ。(スクリーンショット/GAD) GAD誌創刊号のフロントページ「Street Futures」。(スクリーンショット/GAD)
「All Girls Are Spicy」 と題されたGAD誌2号のフロントページ。(スクリーンショット/GAD) GAD誌創刊号のフロントページ「Street Futures」。(スクリーンショット/GAD)
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27 Aug 2021 02:08:42 GMT9
27 Aug 2021 02:08:42 GMT9

カーラ・シャハルー


2021年現在、他国の貢献や技術革新に全く依存することなく、本当の意味で独立している国家は存在しない。これはグローバリゼーションの概念を表す分かりやすい事実である。グローバル化は、現代を象徴する特徴であり、その影響はファッションからアートにまで及んでいる。

グローバル化に伴い、新たな国々がアート市場での存在感を高め、新たにそれぞれの知名度を獲得している。アメリカやEUが現代美術の主なトレンドを維持している一方で、アラビア湾や日本から現れた新しいアーティストたちがこの分野を急速に拡大し、多様性をもたらしている。

『Global Art Daily』の創刊者であり編集長であるソフィー・マユコ・アルニ(Sophie Mayuko Arni)氏は、アラブニュース・ジャパンの独占インタビューに応じ、この出版物の背景にあるインスピレーションや、国や文化を超えた観察を含む多元的なアートの世界について、特にUAE(アラブ首長国連邦)と日本のアートに関する共通点や相違点に焦点を当てて語った。

雑誌『Global Art Daily』は多国籍な視点から現代アートの出来事を伝えている。国際的なアートフェアやビエンナーレの開催、ソーシャルメディアを利用した国境を越えた交流、アーティストやキュレーターの流動性の加速など、今日のアート業界は地域ごとの視点では捉えきれないと、アルニ氏は考えている。彼女は、アラビア湾岸やアジアの新進の美術評論家からの投稿を促進することで、アート界の既存の中心地以外にも、新しい世代の美術評論家を送り出したいと考えている。

外交官と人道主義者の娘として、また日本人とスイス人のハーフであるアルニ氏は「サードカルチャーキッズ」という言葉を体現している。というのも、彼女は幼少期のほとんどを海外で過ごし、両親が築いた多文化の影響を受けたからだ。

「国際赤十字社で働き、現在は国連で働いている父の仕事についていく形で、私は幼いころから旅をしながら育ちました。子供の頃は4年ごとに違う国で過ごしました。私はスイス人と日本人のハーフですが、中東、東欧、アフリカの間で育ったのです」とアルニ氏は語る。

「幼い頃は、すべてが混乱していました。なぜ友達がここに残っているのに自分だけ出ていかなければならないのか、なぜ新しい習慣や伝統を学ばなければならないのか、理解できませんでした。これだけの旅をしていると、自分のアイデンティティに関する疑問が山積みになってくると考えるでしょう。ただ、子供の頃は、自分がその中にいると気づかないものです。しかし、18歳になって大学に進学すると、自分はどこの国の出身なのか、どの国のアイデンティティに属しているのかという疑問が湧いてきました。これは私にとって、とてもとても難しい質問でした」とアルニ氏は語った。

文化を跨ぐことで帰属意識が問われるという考えは、特に目新しいものではないかもしれない。頻繁に転居、現地のインターナショナルスクールに入学したことで、アルニ氏は、習慣や言語が融合した、遠く離れた国の仲間同士が育むミニチュアの世界に触れ続けた。このことで、ハイブリッドな、あるいは「第三の」文化の形が彼女の中に形成された。世界規模で多様性に富み、非常に共感的なその概念は、しばしばそれを体験していない者への説明が難しくもあった。

このような理由から、アルニ氏は繰り返されたこの体験を解き明かすことを試みた。世界のアート界を掘り下げ、中東のアートシーンの幕を開け、多角的な視点からの展覧会レビューや、世界での地位がかつてないほど細分化され、重要なものとなっている若手アーティストの経験を紹介するという方法だった。

スイスのジュネーブにある高校を卒業した後アルニ氏は、画家で絵画の指導もしている母親の影響もあり、アート、ファッション、ファインアートに強い関心を持つようになった。2012年、アルニ氏はUAEに移り、アブダビにあるニューヨーク大学アブダビ校(NYUAD)に入学、美術史を専攻した。アルニ氏によると、アラブ首長国連邦への移住を決めた理由は、次世代のグローバルリーダーを育成するという大学の使命と、大学内に多文化環境が存在することに感銘を受けたからだそうだ。

「大学に入学する前、UAEとアブダビについてもっと知ろうとしたことを覚えています。というのも、国やこの地域についてあまり知らなかったので。ネットで調べるうちに、将来の計画に関する一連のプレゼンテーションやビデオを目にして、この国のビジョンに惹かれるようになりました」アルニ氏は語る。

「そして、この街が多くの可能性を秘めていると実感しました。資源に恵まれ、政策もこの世界に新鮮な野心を持っているように感じられました。私はヨーロッパが好きで、住んだことのある場所はすべて楽しかったのですが、湾岸にしかない新しさ、特に文化的なシーンでは何かを起こすための白紙のような感覚があると感じました」とアルニ氏は付け加えた。

文化の中心地であるアブダビでの生活に刺激を受けたアルニ氏は、学部生時代に独立した雑誌『Global Art Daily』」を創刊。雑誌は世界のアート界のローカルな声を広く紹介し、UAE、中東、アジア、ヨーロッパ、アメリカ、ラテンアメリカの現代アートに光を当てることを目的としている。

アラブ世界のアートを学び、世界のアートへの情熱を育んだアブダビでの4年間は、アルニ氏にとって「とてつもなく意義のある体験」だったという。

「アブダビでの4年間、アラブ世界のアートに触れ、レバントや湾岸地域のアーティストについて多く学びました。NYUADのカリキュラムでは西洋の美術史の物語を解体し、『グローバルアート』とは何か、に焦点を当てていました。これらはすべて、美術館のキュレーターが心に抱く課題でもあります。例えば『ポリセントリック(多元的)な、つまり地理的に複数の視点が表現されている現代美術史をどう編纂(へんさん)するのか』のような」アルニ氏は語る。

アートの世界が徐々に収束し、融合されていくのに合わせて、アルニ氏は、文化的多様性に触れ続けた自身の多文化的アイデンティティをアートに活用、異なる文化的アイデンティティ間のナビゲーションを助け、また彼女の持つ異文化的な文脈の視点で捉えた観察結果を提供することにした。

創始者であり、編集長であり、キュレーターでもあるソフィー・マユコ・アルニ氏とサルマン・アル・ナジェム氏の絵画。(提供)

「『グローバル・アート』 という言葉を頻繁に目にし続ける中で、自分が見たものを記録できるブログのようなものを作りたいと思いました。というのも、授業で多くの展覧会に行き、展覧会のレビューを書いていたからです。またその頃、現代アートや同年代の、同国人やUAE在住の新進アーティストにも興味を持つようになりました。それで、2015年にこのブログを作って、彼らにインタビューをするようになったのです」アルニ氏は語る。

「さらに、これほど多くの国籍の人が集まる大学にいたことは、大きな刺激になりました。少人数のコミュニティの中には約110カ国の学生がいて、全員が(アブダビの)サディヤット島に集まり、大陸を越えたNYUのネットワークの一員であることを実感しました。学生たちはニューヨーク、パリ、上海など、さまざまな都市に留学する機会もあり、その経験をみんなで共有もしました。そこで、学生がこれらの様々な都市を訪れたとき、展覧会のレビューやアーティストへのインタビューを行ってもらうことで、このプラットフォームを拡大することにしたのです」とアルニ氏は付け加えた。


アルニ氏は、自分が置かれているユニークな文化的多様性を活用して、異なるレンズや視点で得られたアートの異文化交流の特徴を含むプラットフォームを成長させた。それは仲間の学生の協力を募ることで可能になったのだ。

「結果として、上海、ブエノスアイレス、ニューヨーク、アブダビを拠点とする投稿者たちが、それぞれのアートシーンについて書いてくれました。そこで私は、アートに関心のある若い人たちの大陸を越えた、真のネットワークを作ることができないかと考えました。私は美術史を専攻していましたが、チーム内の他のエディターは全く異なる分野を専攻しています。例えば、ライターの一人は『Arab Crossroads(NYUADの中東史・文化研修科目)』で学び、現在は中東研究で博士号を取得しています。彼はアカデミックで歴史的な視点を持っていますし、もう一人は映画を学び、出版物のクリエイティブな面をサポートしています」とアルニ氏は語る。

「私にとって『グローバル』とは、2つの意味があります。1つは地理的な意味でのグローバル、つまり異文化間の橋渡しができるかどうかということ。そしてもう1つ、それは『ファインアートの世界だけではない』という意味でのグローバルです。一流の美術館で作品を展示するような伝統的なアーティストだけでなく、インスタグラムでデジタルアートを制作し、音楽やファッションなどさまざまなメディアで活躍するアーティストも増えてきています」とアルニ氏は語る。

「今日のクリエイティビティでは、異なるカテゴリー間のすべてのつながりを見ることが必要です。美術館の歴史を振り返ると、絵画から科学に至るまで、一方では絵画と彫刻、もう一方では装飾美術、と明確に区別されていました。アブダビは、私が求めていた白紙の状態を提供してくれ、非常に大きな刺激を受けました」アルニ氏は語る。

GADはその後、ウェブと印刷による独立したメディアに発展、日本では2刊を発行。GADのウェブサイトに掲載されている電子版は隔年で発行されており、それぞれの都市を中心としたテーマで構成されている。主に新進気鋭のアーティストに焦点を当て、展覧会のレビューやインタビューを掲載しているが、経験豊富な著名なアーティストも参加しており、異なるアーティスト、クリエイティブな分野、都市間の架け橋となることを目的としている。

そして印刷版は、日本最大の書店である蔦屋書店をはじめとするアート専門の書店で販売されている。

東京で印刷された雑誌を創刊したことで一般の人々の注目を集め、グローバルな視点を持ちたい、異文化に興味があるという新進のアーティストたちに、この雑誌のユニークな読者層を見つけることができた。

「私たちは、アーティストへの個人的なインタビューを通じて、非常に深く掘り下げた研究記事を専門としています。私たちは、アートの世界で仕事をしている人、強い情熱を持っている人など、ニッチな読者層に向けて価値を提供していると考えています」とアルニ氏は語る。

GADが他の雑誌と異なる主な点は、特定の地域に縛られない多面的な芸術環境によって表現される文化的多様性と、読者が芸術作品の意味を解釈できるように、分野を超えた教育を受けた寄稿者が執筆した、信頼できる記事を提供するという、編集上の誠実さを大切にしていることである。


GADでの役割に加えて、アルニ氏は『西から西へ:UAEと日本の出会い(East- East: UAE meets Japan)』と題した、彼女がキュレーションを担当した展覧会の一つを紹介した。これは2016年に始まった展覧会シリーズで、NYUADのプロジェクト・スペースで初めて開催された。

2016年10月、NYUADのプロジェクト・スペースにてソフィー・マユコ・アルニ氏がキュレーションを担当した展覧会『East- East: UAE meets Japan』(提供)

この展覧会は、若手アーティストを通じてUAEと日本の架け橋となることを目的としており、日本の急速な近代化と首長国の伝統的な社会の間に類似性を見出すことを目指している。

2016年10月、NYUADのプロジェクト・スペースにてソフィー・マユコ・アルニ氏がキュレーションを担当した展覧会『East- East: UAE meets Japan』(提供)

この類似性を壮観な形で提示した本展は、モダニズムと伝統のバランスを保とうとする両文化のあり方を示すものとなった。

このようなダイナミックなアプローチに伴う二項対立は、日本とUAEの単なる経済的成功を超え、その下に同時に存在する深く埋め込まれた社会的・文化的価値を含めようとする両都市のダイナミックな共通点を示している。また、アルニ氏は、東アジアとアラビア湾の間で、新世代のアーティストが異文化間の対話を行うための道筋を作りたいと考えている。

東京とアブダビの両方のアートシーンに身を置いてきたアルニ氏は、次のように解説する。アーティストたちは、それぞれの文化的な軌跡をたどって、作品の中で世界を表現するための異なる伝統を持っているが、そこには興味深い共通点がある。自国の文化から芸術表現の文化的パターンを暗黙のうちに適用しているアラブ湾岸と日本のアーティストには、急速な発展と伝統両方への愛着からくる類似性が見られると。

アルニ氏は、2016年の『East-East: UAE meets Japan』展に出品されたドバイ在住のアーティスト、アメド・アランジ氏の作品にはそのような共通点が見られると強調した。


アメド・アランジ氏作 『Kibimosht』。NYUADのプロジェクト・スペースにてソフィー・マユコ・アルニ氏がキュレーションを担当した展覧会『East- East: UAE meets Japan』にて(GAD)

アランジ氏の作品は、アラビア湾岸の男性が特別な日に着る伝統的な長いマントであるビシュトと、日本では男女ともに特別な日に着る着物を融合させた「キビモシュト(Kibimosht)」と名付けられた彫刻的な衣服を制作することで、アラブ湾岸と日本の民族の誇りと伝統的な衣装の概念を融合させたものだ。

アルニ氏は、その後UAEで開催された2度の展覧会でも、企業資本主義的な都市化のプロセスのさまざまな側面と、それらの遺産との相互参照的なつながりを通し、2つの国を結びつける展示を続けた。

『East-East: UAE meets Japan』シリーズの第4弾となる『East-East Vol.4: The Curio Shop(キュリオ・ショップ)』は今年6月に東京で開催され、アラビア湾岸地域と日本のアーティスト15名の作品を展示し、両国の架け橋となることを目的とした。

「キュリオ」とは、「好奇心」を意味する19世紀の略語で、19世紀末の日本の港町で初期の外国人入植者向けに日本で販売されていた優れた工芸品を表す。

今回の展覧会では、この2つの地理を融合させた「好奇心の箱」の現代版を、若者の手で「East-East」の文脈で表現することを目的としています」と付け加えた。

アラビア湾や東アジアのアーティストを紹介する展覧会を開催し、西洋以外の地域をアートの規範に取り入れることで、アルニ氏はアートの制作と発表のためのより包括的な基盤を定義することに貢献してきた。

アルニ氏は、アートの世界に起こってほしい変化について、より多様性が必要であることと、ハイブリッドの概念について言及している。

「社会的な動きを考えると、これはすでに起きていることではありますが、私が見たい変化は、より多様性があり、非西洋のアートシーンの間での対話がより表現されることです」とアルニ氏は言う。

私たちは、美術館はこうあるべきだという考えをようやく覆し、アーティストがさまざまな媒体で作品を制作し、絵画だけでなく、映画、音楽、ファッションなど、多様なショーを提供する新しい文化圏に入りつつあります。新しい「現状」は、文化や創造的な分野を融合した、ハイブリットなものであるべきです。

アルニ氏の言う「ハイブリッド」とは、一般の人々が「アート」として解釈するものを再定義し、アートを職業的に専門化された手法とする、伝統的な西洋的解釈で捉えることを変えることが含まれる。

ヨーロッパ中心の美術史的アプローチから脱却し、新しいアート・イニシアチブのモデル作りを牽引しているGAD。同誌は、知識人達の包括的かつ細分化された興味に応え、伝統的な学術的分野と学際的分野の両方の関心を反映しながら、グローバリティが、世界の現代アート制作、アートライティング、超文化的美学に関する伝統的な理解をどのように変えたかを示している。

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