




ドバイ:日本とUAEの外交樹立50周年を記念し、3月2日と4日にそれぞれアブダビとドバイにて、能楽宝生流により両国の伝統芸能の公演が行われた。
能は700年の歴史を持つ日本の伝統舞台芸能で、ユネスコの無形文化遺産にも指定されている。
日本からは能楽シテ方宝生流第20代宗家の宝生和英氏と19人の伝統芸能家らによる公演が、UAEからはナバティ詩とウードの演奏が行われた。
コミュニティ開発省の長官を務めるムギール・カミス・アル・カイリ博士、シェイク・ザーイド・ブック・アワード事務局長のアリ・ビン・タミム博士、磯俣秋男駐UAE大使らが、3月2日にアブダビで行われた公演を見守った。
3月4日にドバイで行われた公演には、在ドバイおよび北部首長国日本国総領事の関口昇氏をはじめ、地元UAE人、日本人コミュニティー、その他各国の外交官らが観覧に訪れた。
ドバイで行われた公演の前半は、UAEの伝統楽器ウードと、シルクロード経由で9世紀頃に日本に伝わった伝統楽器の琵琶による演奏が行われ、観客たちは時空を超えたアラブ文化と日本文化の繋がりを堪能した。
後半は、受賞歴のある詩人で、ドバイで文化と伝統のコンサルタントを務めているハリド・アルブドール氏のナバティ詩の紹介、朗読が行われた。それに続いて、刀匠が刀の精霊の助けを借りて天皇のために刀を打つというあらすじのアクロバティックな能楽の演目『小鍛冶』が上演された。
この公演を演出したのは、これまで数々の国際的な外交行事やイベントに携わってきた、能楽シテ方宝生流第20代宗家の宝生和英氏だ。宝生氏はこれまでに、ミラノ国際博覧会、ミラノトリエンナーレ、日本とバチカンの外交プロジェクトなどに関わってきた。また、2019年にはUAEで能の上演を行っている。
宝生氏は、今回のプロジェクトにはアラブ文化を日本に紹介するという意図もあったと語っている。
宝生氏は次のように語る。「驚くことではありませんが、日本の伝統文化にはアラブの影響が見られます。自分たちの文化のルーツを理解するために、私たちはアラブ文化のことをもっと知る必要があります。私はナバティという素晴らしい文化に出会うことができました。今回のプロジェクトが日本文化をアラブ世界に紹介するだけでなく、アラブ文化を日本に紹介する一助ともなることを願っています」
「私のコンセプトは、非常に古い時代からある原本の能台本に敬意を払いながら、保存と革新を行うことです。そのうえで、劇場やオペラなどのエンターテインメント施設とコラボレーションして、新しいものを作りたいと考えています。今は特に能と詩のコラボレーションに力を注いでいます」と付け加えた。
日本の伝統的な台本を踏襲するのか、それとも斬新な演出を試みるのか、宝生氏は次のように語っている。 「能の公演は、ほぼ9割が古典の台本に基づいて行われています。私の仕事は、先ほど申し上げたように、古典の台本を活用し、現代的なエッセンスを加えることに重点を置いています」
舞台を創造したのは、ニューヨークのカーネギーホールで華道家として初めて公演を行った、辻雄貴氏だ。象徴的なインスタレーション『Tree of Rebirth』には、世界的なパンデミックからの再生というアイデアが込められている。辻氏は、「打ち棄てられた植物でさえも、持続可能な世界のためにアートとして再生させることができます。この、再生という日本独自の精神を世界に伝えたいと思っています」と語る。
今回のイベントを主催した宝生流は、650年の歴史を持つ能楽の流派だ。宝生流は深みのある芸術的なスタイルとメロディックな謡で知られ、歴代の将軍たちに愛され、古来からの能面や衣装などを多数所蔵している。そうした所蔵品の中には、日本の国宝に指定されているものもある。アブダビとドバイで上演された『小鍛冶』では、約300年前に作られたとされる金で覆われた能面「小飛出」をはじめ、白金で織られた特別な衣装などが使われ、観客を魅了した。
この公演は、日本の文化庁、日本アラブ首長国連邦協会、エミレーツ航空、UAE日本大使館の後援で行われた。