
マラケシュ、モロッコ:国際通貨基金(IMF)は10日、中国とユーロ圏の成長予測を下方修正した。また、米経済には「顕著な強さ」が見られるが世界全体の成長は依然として弱く不均一であるとの見方を示した。
IMFは最新の「世界経済見通し(WEO)」の中で、2023年の世界の実質GDP成長率予測を3.0%に据え置いたが、2024年は7月の予測から0.1ポイント引き下げ2.9%とした。2022年は3.5%だった。
IMFのチーフエコノミストであるピエール・オリヴィエ・グランシャ氏は記者団に対し、世界経済は新型コロナパンデミック、ロシアによるウクライナ侵攻、昨年のエネルギー危機から回復を続けているとしながらも、成長傾向は世界でますます差が広がっており、中期的な成長見通しは「あまり良くない」と述べた。
また、見通しは概してソフトランディングを示しているとしながらも、IMFは中国の不動産危機、不安定な商品価格、地政学的な分断、インフレの再燃などに関連するリスクを引き続き懸念していると話した。
新たな予期せぬリスクがイスラエル・パレスチナ紛争という形で浮上したのは、ちょうど190ヶ国の財務高官がIMFと世界銀行の年次総会のためにマラケシュに集まろうという時だった。しかし、IMFの四半期見通しの更新は9月26日に締め切られていた。
グランシャ氏は、この長年の紛争の大規模なエスカレーションが世界経済に与える影響を評価するのは時期尚早だと述べた。「情勢の展開次第で非常に様々なシナリオがあり得る。我々はまだ検討を始めてもおらず、現時点ではいかなる評価もできない」
IMFは、パンデミックによる影響の長期化、ロシアによるウクライナ戦争、分断の拡大に加え、金利上昇、異常気象、財政支援の縮小によって成長が抑制されていると分析した。2023年の世界のGDPはパンデミック前の予測を約36兆6000億ドル(3.4%)下回る見込みだとしている。
グランシャ氏はロイターのインタビューで、「世界経済は底堅さを示している。過去2~3年に経験した大きなショックによって打ちのめされてはいないが、あまり好調でもない」と指摘した。「世界経済の足取りは弱く、まだ全速力には至っていない」
中期的な見通しも良くない。IMFは2028年の成長率を3.1%と予測しているが、これは2008~2009年の世界金融危機の直前に発表した5年予測値4.9%を大きく下回っている。
グランシャ氏は次のように予想した。「不確実性が存在する。地経学的断片化、低い生産性の伸び、人口動態の問題が存在する。これらが全て合わさることで中期的な成長は鈍化する」
エネルギー価格の下落と(それより影響は小さいが)食料価格の下落により、インフレ率は世界的に低下し続けており、2022年の年平均8.7%から2023年には6.9%、2024年には5.8%に鈍化すると予想されている。
食料価格とエネルギー価格を除いたコアインフレ率の低下はより緩やかで、2022年の6.4%から2023年には6.3%、2024年には5.3%に鈍化すると予想されている。労働市場がなお逼迫しサービス価格の上昇が予想よりも根強いためだとIMFは指摘している。
グランシャ氏は記者団との別の会合で、「我々はまだそこに到達していない」としたうえで、IMFは金融当局に対し早すぎる利下げをしないよう警告していると述べた。
労働市場は全体的に極めて好調であり、ほとんどの先進国で失業率は歴史的な低水準にあるが、米国で自動車メーカー労働者が大規模なストライキを行っても、再びの物価インフレの引き金になり得る賃金・物価スパイラルの兆候はあまり見られない。
「賃金が物価に追随し、物価が賃金に追随するという、制御不能なスパイラルの強い兆候は見られない」
IMFは、4月のWEO発表以降に不確実性が大幅に低下したが、2024年については依然として上振れリスクよりも下振れリスクの方が大きいとの見方を示した。成長率が2%を下回る(1970年以降5回しか起こっていない)確率は4月の25%から15%に下がったとしている。
また、金利上昇、財政支援の中止、融資条件の厳格化を背景に企業は事業拡大やリスクを取る意欲を低下させており、投資はパンデミック前よりも一様に減少していると指摘した。
グランシャ氏によると、IMFはインフレ率が持続的に目標に向かって低下するまで金融政策に警戒を続けるよう各国に助言する一方、将来の課題やショックに対処するために薄い財政バッファーを再構築するよう促している。
IMFは、世界最大の経済大国である米国の2023年の成長率見通しを0.3ポイント引き上げ2.1%、来年は0.5ポイント引き上げ1.5%とし、堅調な設備投資と消費の拡大を理由に挙げた。これにより、米国は主要国で唯一パンデミック前の予測を上回った。
これとは対照的に、中国については主に不動産危機と外需の低迷を理由に、2023年のGDP成長率予測は0.2ポイント下方修正の5.0%、2024年は0.3ポイント下方修正の4.2%とされている。
グランシャ氏は、中国には不動産業界の問題を一掃するために「力強い行動」が求められており、当局は一定の措置を講じたがさらなる取り組みが必要だとしたうえで、「さもないと問題が悪化する恐れがある」と警告した。
IMFはユーロ圏について、2023年の成長率見通しを0.7%、2024年を1.2%とし、それぞれ7月予想の0.9%と1.5%から下方修正した。
ユーロ圏と同様にエネルギー価格高騰のショックで大きな打撃を受けているイギリスについては、2023年の成長率見通しを0.1ポイント引き上げ0.5%としたが、2024年は0.4%ポイント引き下げ0.6%とした。
日本については、繰り越し需要、訪日観光客の急増、緩和的な金融政策、自動車輸出の回復などを理由に2023年の成長率予想を2.0%と、0.6ポイント上方修正した。2024年は1.0%に据え置いた。
ロイター