
フランク・ケイン
ドバイ:世界的なエネルギー市場がかつてない領域に向かっていると専門家たちが警告を発した。コロナウィルス不安の続く中、サウジアラビアとロシアが原油の生産制限に関する協力関係を打ち切った模様で、それによる影響が即座に現れ始めた。
ブレントとウエスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)の原油価格は世界の石油市場の二大基準となっているが、それらが一日にしてほぼ30年ぶりの最大下落を見せた。大手金融アナリストたちは、さらなる下落が近いうちに起こるだろうと警告する。
中東での取引終了時までに、ブレントは1バレル$35.61で、ほぼ22%の下落、WTIは $32.45で23%の下落となり、取引サイクル前半では30%近くの下落を見せていた。
原油価格の下落傾向に加え、コロナウィルス感染が中国中央部を超えて拡散を続ける中、国際エネルギー機関(IEA)は今年の石油需要の予測を大幅に引き下げた。「中国の石油需要が大きく縮小し世界的に人の移動や貿易が大幅に減退するため、今年の需要は2009年以来初めて減少となるはずだ」とIEAは言う。
ダニエル・ヤーギン氏は「ザ・プライズ(The Prize)」の中で世界の石油産業の歴史について著述している。彼はCNBC に「われわれは現在真の混乱期にある。恐怖が今やあらゆる場所に蔓延している」と語った。
米国の投資銀行ゴールドマン・サックスはこう言う:「サウジアラビアが原油を売る際の相対価格について、少なくとも過去20年で最大の値下げに踏み切ったのを契機に、今週OPEC とロシアの石油価格戦争が始まったのは間違いない。これによって石油と天然ガスの市場見通しが完全に変わり、『新たな石油業界の秩序』というシナリオが舞い戻ってくる。そうなれば低コスト産油国が備蓄分からの供給を増やして高コスト産油国に減産を強いることになる」
ゴールドマン・サックスはブレントの1バレル$30という予測を、「あり得る値下げ」として$20近くまで引き下げ、他の世界の専門家たちもそれに同意している。日本の三菱UFG 銀行は「遅延期間」の石油価格を$30未満と予測し、市場は散発的に$25未満のレベルも試すだろうと予測する。
しかし三菱UFG銀行は、「エポック的急下落」にもかかわらず、わずかながらも希望はあると言う。「OPEC とその同盟国が最も適切な戦略に関して同調しなかったのは今回が初めてではない。過去には双方が実行可能なソリューションを打ち出すことができた」
週末のウィーンにおける意外な事の展開によって、市場の反応は悪化した。サウジアラビアと他のOPEC加盟国から提案された一連のさらなる供給制限への参加をロシアが拒否したの だった。
サウジアラビアは直ちに世界中の顧客に対し、サウジアラムコからの修正価格表をもって大幅値下げを通達した。
バンク・オブ・アメリカ・メリル・リンチはこう言う:「サウジアラビアが一方的に世界の石油市場をリバランスする事は予測していた。しかしサウジアラビアはヨーロッパ、アジア、米国向けの価格についてこれまでで最大の値下げを行う事を唐突に決定した。もしサウジアラビアがロシアを交渉の場に引き戻すために価格を切り下げれば、価格はもう少し速く元に戻るはずだ。しかし、もしも市場のシェア争いが米国シェールに対して仕掛けられれば、さらに長期にわたる価格下落が起こるだろう。価格は$10台まで落ち込む可能性がある。」
ゴールドマン・サックスは、1バレル$20では米国シェールや他のハイコスト産油国が「激しい財政逼迫と減産」に直面しかねないと言う。
他の者たちは異なる見解を述べている。
米国のコンサルタントで「サウジ株式会社(Saudi Inc.)」の著者、エレン・ウォールド氏はこう言う:「これは米国のシェール産業を崩壊させようというロシアの陰謀などではない。サウジアラビアとロシアの間の戦略・目標・体質上の根本的な違いであって、分かる人にはわかったはずだ。石油市場には誤解が存在している。彼ら(産油諸国)は高い価格を望んでいるのではない。彼らは皆歳入を増やしたいのだ。歳入増が高価格によってもたらされる国もあれば、販売増によってそれを達成する国もある。ただし一日で30%も価格が下がる場合は無理な話だが。」
専門家の中には、世界の石油市場の混乱が企業のエネルギー部門に大きな揺さぶりをかけるだろうと考える者もいる。BP 、エクソンモービル、シェルといった大手の独立した石油会社はすべて株価の大幅下落に見舞われた。