
フランク・ケイン
ドバイ―国際エネルギー機関(IEA)のエグゼクティブ・ディレクター、フェイス・ビロル氏によれば、世界の石油ビジネスが苦境に立たされている今、3億人の仕事と暮らしが危機に陥っている。
アラブ・ニュースの独占インタビューでビロル氏は、石油業界が「歴史上おそらく最悪の時期を迎えている」とした上で、「そのことは世界経済、金融市場に加えて、雇用に対し多大な影響を及ぼす可能性がある」と述べた。
また、同氏は「数千万の人々が職を失う。一つ例を挙げれば、私たち(IEA)の計算では、精製部門と給油所だけでも約5000万人が雇用されており、彼らは計2億5000万人の家計を支えている。現在のような状況が続けば、彼らのほとんどが失業することになる」と付言した。
コビッド19パンデミックは、かつてない石油需要の崩壊を引き起こし、ここ数週間で2000万バレル以上(通常の消費量の約20%)の需要が失われた。石油の価格は半分に下落した。
ビロル氏は、G20主要国グループのサウジアラビア代表との水面下での話し合いに関わり、現在の供給過剰の水準について話し合うため、今週末にエネルギー担当相の特別会合を開くべく調整を行った。
「私は、この提案をサウジのエネルギー相であるアブドゥル・アズィーズ・ビン・サルマン王子に持ち掛けた。なぜなら、サウジアラビアは長年、市場の安定化要因となってきたからだ。私は、G20の他の19ヵ国と同様、サウジがこの提案に同意することを期待していた」。ビロル氏はこのように述べた。
サウジアラビアおよびロシアが主導するOPEC+傘下の産油国サミットに続いて行われるこの“事実上の”会合では、1日当たり1000万バレルの即時削減が検討される可能性があるとの憶測が出ている。
ビロル氏は、他のほとんどのG20のエネルギー担当相と接触を保ってきた。「私は、1000万バレルというのはよい出発点だが、実際に寄与する水準や量の点から言っても、強力な政治的メッセージを世界に発信するという点から言っても、それだけでは十分ではないと述べた」。同氏はこのように話した。
「たとえ1000万バレルの削減が行われたとしても、なお1500万バレルのストックがある。価格という点で上昇の機運が表れるかもしれないが、その状態は持続せず、それが解決策ともならないだろう」
ビロル氏は、産出量削減への取り組みとは別に、コビッド19危機の真っただ中で世界に対して“政治的メッセージ”を送る必要があると述べた。
「G20諸国は、世界の経済および人口の約80%を占めている。よって、それは非常に強力なメッセージになるだろう」と、同氏は付け加えた。
「私はこれまで、多くのG20代表と仕事をしてきた。G20のやってきた仕事を見れば、その役割とは、世界市場における金融および経済の安定を下支えすることだと分かる。だから私の見解では、それはG20とって完璧にふさわしい付託なのだ」
サウジアラビアとロシアは、9日に行われるOPEC+の会合で、ここ数週間の不同意点を脇に置いて、削減水準に同意する用意があることを示唆している。
「ロシアがここで非常に重要な役割を担うのかは分からない。G20の出発の経緯を考慮すれば、私は、ロシアがその方向に向けて、勇気をもって率直に一歩を踏み出すことを期待している」と、同氏は述べた。
供給過剰に取り組む現在の協議で結果を生み出すためのカギとなるのは、世界最大の背産油国である米国の態度だ。同国の石油業界は、歴史的低水準の石油価格によって多くのものを失うことになる。
米国のドナルド・トランプ大統領は、自国の業界に降りかかった問題を解決するために“自由市場”を尊重すると述べてきた。
米国の石油企業は、石油産出量の削減で足並みをそろえようとした場合、大きな法的課題に直面する可能性がある。
ビロル氏は、米国のジレンマについて具体的に述べることを拒んだ。「多くの国々が、削減に参加可能だ。多くの産油国が参加できるのだ。そうした国々は、自国の産出状況に目を向け、最近の進展を踏まえてどれだけ削減できるかを理解している」。同氏はこのように述べた。
「世界の他の国々が、自国の業界の能力や経済発展水準、社会的優先順位に従って参加できる。私はこの大きな問題の解決法を見出すために、すべての国々が協力し合うことを期待している」。同氏はこう付言した。
「また、G20は、需要に対して救済策を講じることもできる。各国にはそれぞれ、採用可能な異なる方法がある。このような重要なメッセージを発信することは、私にとっては石油のみに留まるものではない。さまざまな国が団結し、世界に対して希望を与える行為である。それは、この非常に困難な時期において、地政学的かつ経済的に連帯を示すことなのだ」