
広島: 自動車メーカーのマツダがくしゃみをすると、誰もが風邪をひく、とマツダの故郷である広島の人々は言う。最近では、自動車部品メーカーの山口裕二氏が深刻な寒波が迫っていることを懸念している。
「マツダが自動車の生産を減らせば、当社の受注も減少する」と山口氏は述べた。山口氏の創業110年、ナンジョウ・オート・インテリアは、マツダ向けにドアパネルなどの部品を製造し、売上高の90%以上をマツダに依存している。
「重要なのは、生産量が減少しても利益を維持できるかどうかだ」
東京から南西約800キロに位置する製造業の拠点・広島の経済エンジンであるマツダは、米国からの自動車輸入関税25%に直面している。これは、インフレと弱い経済に苦闘する有権者にとって、失望的な見通しだ。
日曜日に実施される参議院選挙では、最も親しい同盟国であり、重要な貿易相手国である米国から関税の延期を勝ち取ることができなかった石破茂首相の政権基盤が弱まる見通しだ。
マツダ創業者、松田十次郎の曾孫である山口氏は、「もはや日本政府には期待していない」と語った。「失望は過ぎ去り、ただ物事を受け入れるようになった」と語った。
広島やその他の自動車製造地域の人々が関税による避けられない影響に備える中、山口氏は、政府が流れを変えることはほとんど期待できないと述べた。
ドナルド・トランプ大統領は関税措置を緩和する意向をまったく示しておらず、日本に対する関税引き上げもほのめかしている。
マツダは、5月の米国での販売台数が前年同月比18.6%減、6月は6.5%減と、日本の自動車メーカーの中で米国関税の影響を最も受けている企業のひとつだ。
マツダの米国販売の大部分は輸入車だが、日本にとってこの業界全体の重要性は、いくら強調しても過言ではない。
日本は、半導体や家電製品で世界的な優位性を失った後、自動車産業を成長させ、昨年は米国への輸出額約 1,450 億ドルの約 28% を占めた。
調査会社テュケ・データバンクの7月調査によると、日本の自動車サプライチェーンには6万8,000社以上が存在し、自動車工業会(JAMA)はこれらの企業が560万人(労働力の約8%)を雇用していると指摘している。
「サプライチェーンは一度壊れると再構築は困難だ」と、帝国データバンク広島支店の調査責任者、土川英樹氏は述べた。同支店は、同地域に2,000社を超える自動車部品メーカーが存在すると推計している。
「自動車は核心的な国家産業だ。政府の支援は不可欠だ」
ロンドンを拠点とする自動車アナリストのジュリー・ブーツ氏は、関税措置によりマツダを含む中小の日本自動車メーカーが、大手競合他社に米国市場シェアを奪われる可能性があると指摘した。
広島に本社を置き、組み立て工場を保有するマツダは、関税の不確実性を理由に、通期業績見通しを公表していない。
マツダは声明で、関税の影響を克服するため、サプライヤー、ディーラー、従業員の保護を最優先課題とする旨をロイター通信に伝えた。
同社は短期的に重大な影響を予想していると述べ、政府の対抗措置を求めるなど、可能なすべての措置を講じていると付け加えた。
「残業なし、飲酒なし」。不確実性が時間とともに有権者の怒りをさらに深めるかどうか、または野党が有権者の不満を背景に石破氏の支持をどれだけ削れるかは不明だ。
自動車業界には、日本の停滞と成長を繰り返す経済成長期に磨き上げられたコスト削減の既定路線に戻る以外に選択肢はないようだ。
残業がないということは、飲酒のための余分なお金がないということだ、とマツダの従業員が主な客層を占める町のバーのオーナー、54歳の佐々木浩二氏は述べた。
最近の数ヶ月で客数が減少し、常連客の一部は訪問回数を減らすことを謝罪していると彼は述べた。
7月のある夜、佐々木氏のバーで飲んでいたのは、マツダで長年勤める45歳の社員、清水敏之さんだった。彼はマツダが既に従業員の残業と出張を削減したと述べた。
「以前は若手社員を出張に連れて行っていたが、今ではよく一人でいく」と、32歳のマツダ社員、市川明さんは述べた。また、このような出張で得られる貴重な経験を若手社員が得られなくなったと付け加えた。
マツダは関税対策チームを設立し、毎週広島で会議を開いていると、匿名を条件に語った同社関係者が述べた。
しかし、マツダは米国での労働力不足により、同国唯一のトヨタと共同運営する工場の生産能力を拡大できず、関税対策の手段に制約を受けていると、同関係者は付け加えた。
マツダは、1000億円のコスト削減の一環として、残業削減と出張の見直しを実施していると述べた。必須の出張は継続するが、同行スタッフの必要性を評価していると述べた。
同社は関税を監視するチームを設置し、サプライヤーやディーラーと協力していると述べた。米国市場への供給拡大の鍵は、労働力不足の対応とサプライチェーンの強化にあると付け加えた。
現時点では、部品サプライヤーの山口氏は、関税対策の具体的な措置を検討していないと述べた。
「ビジネスでは長期的なビジョンが必要だ」と山口氏は述べ、2020年に損失を計上したが、コスト削減ではなく効率向上に注力した結果、翌年に黒字転換した新型コロナウイルスパンデミックの状況を例に挙げた。
「2025年に投資しなければ、機会を逃す可能性がある」と述べた。
ロイター