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どうすれば政府はパンデミックの財政支援を利用して世界を変えられるか

東京の慶應大学の経済学教授で元日銀政策委員会審議委員の白井さゆり氏。
東京の慶應大学の経済学教授で元日銀政策委員会審議委員の白井さゆり氏。
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28 Jun 2020 09:06:53 GMT9
28 Jun 2020 09:06:53 GMT9

アンソニー・ローリー
アラブニュースへの特別寄稿

東京:世界経済が新型コロナウイルスのパンデミックに襲われて息も絶え絶えに横たわるなか、各国の政府や中央銀行は、世界経済を生かし続けるために、財務流動性という名の大量の輸血を行っている。だが、私たちは、どのような形で、どのような状態に経済を復活させたいと望むべきなのだろうか。

多くの人々は、おそらく、恵まれない人々や環境のことなどお構いなしに、快適な生活、人によっては快楽的な生活をエンジョイし、いつでも、どこへでも思いのままに旅行し、生涯消費に明け暮れる習慣を再開できるように、物事が再び「正常」な状態に戻ってほしいと願っているのだろう。

だが、そうはいかない。環境問題の専門家やモラリストだけがそう言っているわけではない。経済や金融の現状を熟知している専門家も、同じことを言っている。東京の慶應大学の経済学教授で元日銀政策委員会審議委員の白井さゆり氏もその一人だ。

「私たちは新型コロナウイルス以前に存在した需要が持続可能かどうかを精査する必要があります」と、東京で開催された日本外国特派員協会の記者会見で白井氏は述べた。

政府は将来の需要がどこにあるかに関する「ビジョンを持つ必要」があり、従来の経済分野ではなく、将来の需要に資金を振り向ける必要があると彼女はいう。

現在、白井氏が注目している重要な分野の一つが持続可能な投資だ。パンデミック前の世界経済は急速に成長していたかもしれないが、彼女や多くの専門家は、その成長が望ましい持続可能な方向には進んでいなかったと感じている。

白井氏をはじめとする多くの人々が、石油やガスなどの化石燃料や原子力に依存するのではなく、再生可能エネルギーの利用を重視する「グリーン」リカバリーを求める声を上げている。これからは医療にもっと資金と労力を投入するべきだという声もある。

また、改革派は、運輸や観光などの分野が必需性の低い他の消費分野と同様に、しばらくの間、低迷に苦しむだろうと指摘している。そのため、そのような分野に長期的な支援を差し向けることにはあまり意味がないと主張している。

以前の政府の補助金の利用目的は経済行動に影響を及ぼすことに限られていたが、今の政府は、さまざまな社会経済的目標を達成するために、異なる産業分野に対して資金を投下したり引き上げたりして飴と鞭を使い分けるという武器を持っている。

この種の刺激策の規模は膨大だ。国際通貨基金(IMF)によると、パンデミックによって最も大きな打撃を受けた企業や家計に対して、すでに約10兆米ドルが供与されたり、承認されたりしている。

米国連邦準備制度理事会、欧州中央銀行、日本銀行などの中央銀行は、金融市場や金融関連企業の崩壊を防ぐために、金利引き下げ、商業銀行の融資に対する規制緩和、直接貸付などの手段を通じて、何兆ドルもの支援を行ってきた。

元IMFのエコノミストである白井氏によれば、この支援は継続する必要があるという。そのような支援と引き換えに、金融当局が、将来に向けて、経済的、社会的に持続可能な活動分野に資金を振り向けたいと望むのは、合理的であり、実現可能でもあるように思われる。

だが、世界経済が現在直面している崩壊の規模を考えると、各国の金融当局は、失業者を吸収し、パンデミックによる企業収益の悪化傾向を逆転させるために、幅広い目的の達成ではなく、自国の経済成長の復活を重視するべきだという強い政治的圧力を受ける可能性が高い。

IMFの最新の世界経済見通しが示しているように、経済の最前線で起きている惨劇は(惨劇が現状を表す一番的確な言葉のように思える)悪化の一途をたどっている。この状況は、経済の低迷が恐れていた以上に長引き、結果的に、対策をてこ入れする必要性が今よりはるかに大きくなる可能性を示唆している。

IMFのチーフエコノミストのギータ・ゴピナ氏はこう言っている。「2020年の不況はさらに深刻化し、2021年の経済回復はさらに遅くなると予測しています。世界の経済成長率は2020年に4.9%低下し(4月の予測では3%の低下だった)、2021年に部分的に回復すると予測しています」

だが、それより悲観的なのは個々の国の予測だ。米国経済は今年、実に8%も収縮すると予測されており、英国経済は10%、日本経済はほぼ6%収縮すると予測されている。ドイツのGDPは7.8%、フランスのGDPは12.5%縮小する見込みだ。

来年は部分的な経済回復が予測されているが、新型コロナウイルス以前のレベルに戻ることはなく、感染の「第二波」が来れば、部分的な回復さえ実現しないかもしれない。アジア経済の見通しも厳しい。特にインドは4.5%の収縮を予測している。これは婉曲な表現で「同時減速」と呼ばれる世界的な出来事だ。主要経済大国の中で中国だけが2020年に1%のプラス成長を予測している。だが、2008年の世界金融危機のときのように中国が世界を不況から救うには、この成長率では足りない。

これらすべての状況から言えるのは、当面の間は世界経済が生命維持装置につながれた状態にとどまることだが、そうなると、いつまで公的支援を続けられるのかという疑問が浮上する。ハーバード大学の研究員であり、元S&Pグローバルチーフエコノミストのポール・シェアード氏が指摘するように、「新型コロナウイルスのパンデミックが引き金となって財政赤字が膨張したことで、多くの人が『この膨大なツケをどうやって払うのか』という疑問を抱きはじめている」

だが、シェアード氏は、「それは間違った物の見方」だと考えている。主要な国内通貨で発行された政府債務は「返済する必要がない」ので、財政赤字に対する懸念のほとんどは時代遅れだ。

「我々はマクロ経済政策の枠組み、特に金融政策と財政政策の関係を見直す必要がある。財政赤字の規模は、経済が完全雇用からどれだけ離れているか、インフレ圧力やデフレ圧力がどれだけあるかによって決定されるべきであって、政府がどれだけ赤字を累積させているかという懸念によって決定されるべきではない」とシェアード氏は提言している。

現在の不況への対処は、IMFのゴピナ氏が言う「世界の総力を結集するべき」問題だ。だが、政府が短期的ではなく、長期的な政策アプローチに向けて現在の機会を利用しない限り、同じチャンスに恵まれることは当分ない可能性がある。

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