
フランク・ケーン
ハミングバード・テクノロジーズのCEO、ウィル・ウェルズは私たちの食べ物をスーパーの棚に並ぶレタスに至るまで綿密に調査している。
「ヨーロッパに住む人がレタスを買うとしたら、それはほぼ確実にハミングバードによって精査されたレタスだろう」と、ウェルズはアラブニュースに語った。昨年からは、おそらくサウジ農業・家畜投資会社(SALIC)もそのレタスをしっかり調査済みだろう。
昨年、サウジアラビアと世界の食糧・農業投資の最適化を委任されているパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)傘下であるSALICは、700万ポンド(910万ドル)の資金投入によりハミングバード最大の投資者となった。
この投資は、最先端デジタル技術を農業と食糧生産に応用する現在急成長中の分野である農業技術に深く関連するものだったが、それに加えて、世界の食糧安保とサウジアラビアの自給率を上げ持続可能な食糧安保を目指す計画のためでもあった。
4年前の起業当時、ウェルズはハミングバード社を「私のベイビー」と呼んだ。ドローンや衛星で高画素のマップを作成し、農業従事者が農作物のストレスを予想したり、病害や害虫、雑草を見つけたりして収穫量を最大化することができるソフトウェアを開発している。
「たとえば農企業に『ブラジルで育てられている大豆をすべて見たい』とか『インドのサトウキビをすべて見たい』と言われたら、1000分の1秒で見せることができる」と、ウェルズは言う。
「植物用のMRIスキャンだと考えてもらえばいい。衛星データやロボット、ドローンを使って、農作物の問題を農業従事者が気づけるようになっている。その結果、化学療法ではなく免疫療法が可能になる。宇宙から何億、何百万ピクセルもの農地を分析することで、農業に使用する化学薬品を減らし、作物の供給を増やし、デジタル食糧供給チェーンをすべてモニタリングできるんだ」と、ウェルズは語った。
ウェルズはロンドンのオフィスで、科学者を主とした65名から成るチームとともに、人工知能(AI)技術を活用し、上記のような問題を防ぐべく何億ピクセルものデータを分析している。彼が開発したこの技術はまた、炭素強度の高い農法を最小限に抑えるための農業技術を計測し評価することで、より持続可能な食糧生産の実現も支援している。
「我々は持続不可能な農業から持続可能な農業への変化をもたらすことができる。このような技術は点と点をつなぐ」と、ウェルズは言う。
「農業・食品分野における問題解決のためにソフト、ハードともに膨大な量の技術が開発されてきたことは強調しておきたい。気象観測装置や土壌センサー、自動運転トラクター、ロボット収穫機、部分噴射式除草機など様々だ。ハミングバードの役割は、ちょうどMRIスキャンと同じように、それらの技術すべてにはたらきかけることだ。地上にあるすべての技術をつなぎ、統合する」
ハミングバードはロンドンのインペリアル・カレッジとその他の技術団体の科学者たちによる研究に基づいて開発され、初期に欧州宇宙機関や英国の投資家・起業家であるジェームズ・ダイソンなど著名な投資家からの支援を受けている。
北米、南米、ヨーロッパ、ロシア、オーストラリアなど、世界中に事業やクライアントを持つ。
サウジアラビアとのつながりは、SALICがハミングバードの技術をウクライナやオーストラリアへの大規模投資を含む国外の農地での農業プロジェクトに使用したことがきっかけだった。
略歴
出身: 1983年ロンドン生まれ
学歴: エジンバラ大学修士課程
職歴
「SALICはもともとは顧客だったが、ハミングバードの技術をとても気に入って支援してくれることになった」と、ウェルズは語る。資金調達最終ラウンドでの700万ポンドの投資により、SALICは2000万ポンドを超える企業価値のあるハミングバードの主要投資家となった。
だが、ウェルズはより大きな野望を抱いている。「農業のためのAIビジネスで、近年、健康技術やフィンテックで見られるようなユニコーン企業となることは可能だろうか。我々の技術の潜在市場は限りなく大きい」
「我々は数十億ドルの農薬市場を破壊し、数十億ドルの炭素市場を開放しようとしている。AIとデータサイエンスはあらゆる方法で食品と農業の分野の向上に貢献できる」と、ウェルズ。
「ハミングバードは毎年、二倍、三倍の勢いで成長し、急スピードで拡大している。毎月、何百万ヘクターという農地を分析し、どの市場にも数億ドルの効率性が見られる。この条件下でユニコーン企業となるのに特効薬的な打開策は必要ない。AIと農業をともに専門としている人はかなり少数だ」と、ウェルズはつけ足した。
SALICはこれまでも国外への農業投資を積極的に行ってきた。2年前にはウクライナの豊かな農地への最大の投資として、西の穀物や野菜の生産量の多い地域の農地の最大面積を所有する企業の一つ、ムリーヤ(Mriya)を買収し、それまでに買収した農業資産に追加した。
先月、SALICはウクライナで生産した穀物を初めて輸入、販売した。ウクライナでつくられた小麦60,000トンは、ジェッダで積み下ろされた。これは、海外農業投資を支援しサウジアラビアの食糧安保を確実にするための国の戦略の一環だ。
2019年、SALICは20万ヘクタール以上の土地をオーストラリア西部に購入。牧羊地への初の海外投資であり、オーストラリアの最大の農地買収の一つとなった。
ハミングバードの技術は新たな土地の買収の際に生産性を高め、病害を除去するためにも使用できる。SALICはカナダとインドへの展開も視野に入れている。
だがウェルズは、サウジアラビア国内にも「莫大な」機会があると見る。食糧安保は常に国の目標として掲げられており、「ビジョン2030」での石油依存から脱却するための多様化の戦略の一つでもある。
今年の初め、SALICとナショナル・シッピング・カンパニーが提携し、国内の穀物の取引、処理、保管を監察するナショナル・グレイン・カンパニーが設立された。
「事業を拡大し、国内にも農業の存在を確立していきたい。サウジアラビアは国内でより多く果物や野菜を生産したいと考えている、それも地域に根差した持続可能な形でだ。効率的な食糧生産は私たちの専門だ。その専門性をいい形で活用できたらと思う」と、ウェルズは言う。
ウェルズによれば、「ビジョン2030」は「世界中の消費者のニーズに応えるもの」だ。「サウジアラビアだけでなく世界中のどこでも、普通に暮らしている人々、消費者の多くが自分たちの食べているものがどこで生産されているのかを気にし始めている。これは、我々のような企業にとっては非常に大きい。自給自足を可能にするのが我々の仕事だ」
ハミングバードの技術はまた、「ビジョン2030」の中心となる高度技術と知識経済の重要視にぴったりだ。サウジアラビアの北西に建設予定のメガシティNEOMはまさにその技術を使用した典型例だ。
また、より直近の応用として、ウェルズは現在、中東全域のナツメヤシの生産のためのアルゴリズムを開発している。大きな可能性を感じる市場だとウェルズは語る。「だが、最終的にはどの植物でも宇宙から分析できるようになる。砂漠の真ん中であっても、ブラジルの荒野であってもだ。そのため、各地域にパートナーを探しているところだ。特に、植物の病理学が専門の大学教授を探している」
ハミングバードの技術は、気候変動の問題に取り組むための炭素循環型経済戦略の一環として二酸化炭素排出量の減少を目指すサウジアラビアの計画に不可欠でもある。
「我々の技術では、炭素排出量を抑える農業活動を衛星から計測することができる。つまり、農業従事者や農企業がハミングバードのマップを使えば、結果として窒素肥料の使用量や農薬散布量が減るだろう。そうすれば、炭素排出量は低下するか、結果的にゼロカーボンとなる可能性すらある」と、ウェルズは言う。
「種の多様性や土壌の健全性を分析することで、持続可能な農業を行っている農場とそうでない農場を区別することができる。最も大切なのは『グリーンな』結果となることだ」
ある時点でハミングバード社は再度投資家に働きかけ資金調達を図る予定だ。「急成長するスタートアップとして、今後、新たな投資元も探していくだろう。それも過程の一部だ。我々の技術は市場における機会も非常に多い」と、ウェルズは語る。
「『土地の乗っ取り』だという人もいるかもしれないが、我々が事業展開しているのは、このように分析されたことのない何百万ヘクタールもの農地がある地域だ。この分野は今もフロンティア市場なんだ」と、ウェルズ。
SALICとの提携は、ハミングバードをアラブのユニコーン企業に押し上げるきっかけとなるかもしれない。だが、ハミングバードには経済面を超えた大きな野望がある。世界が農業・食品産業に抱くイメージを変えることだ。
「農業・食品産業を気候変動の原因として悪者扱いする人は多い。だが、効率的に持続可能なやり方で食糧を生産する方法はある。その核となるのが我々の役割だ」
「気候変動の責任を負わされたセクターをゼロカーボンにすること。それが我々の目標だ」