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アラムコとADNOC シェルの判決で勢力拡大を見込む

ルブアルハリ砂漠のアラムコ・シェイバー油田にある天然ガス液(NGL)施設に立つサウジアラムコの従業員。(ロイター)
ルブアルハリ砂漠のアラムコ・シェイバー油田にある天然ガス液(NGL)施設に立つサウジアラムコの従業員。(ロイター)
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02 Jun 2021 06:06:59 GMT9
02 Jun 2021 06:06:59 GMT9
  • 原油価格の上昇と大手石油企業の衰退が相まって、欧米だけでなくアジアでも需要が減り始めるまでは、欧米からロシアやサウジアラビアなどの国々へ大規模な富の移転が起こるだろう

ロンドン:先週、環境保護団体が西側の大手石油企業に対して大勝利を収めた。この判決は、サウジアラビア、アブダビ、ロシアの石油生産の中心地にとって意外な後押しになった。

法廷と経営陣らの敗北によって、ロイヤル・ダッチ・シェル、エクソンモービル、シェブロンの各社が二酸化炭素排出量の迅速な削減を強く迫られていることがさらに明白になった。そして、サウジアラビア王国の国有石油企業サウジアラムコ、アブダビ国営石油会社、ロシアのガスプロムとロスネフチなどの企業にとっては朗報である。

欧米以外の企業とOPECにとっては事業の伸長を意味するからだ。

エネルギー・アスペクト社のコンサルタント、アムリタ・セン氏は「石油とガスの需要がピークに達するにはほど遠い。引き続き供給が必要だが、国際石油企業はそのために投資することはできなくなる。つまり、国営石油会社が役割を果たさなくてはならない」と述べた。

オランダの裁判所がロイヤル・ダッチ・シェルに二酸化炭素排出量の大幅削減を命じる判決を言い渡し、環境活動家は大きな勝利を収めた。事実上、同社は石油とガスの生産量を削減しなくてはならない。シェルは控訴する見通しだ。

同日、米国の石油企業の上位2社であるエクソンモービルとシェブロンは、気候変動への対応が遅いと非難する株主との攻防に敗れた。

「欧米はいわゆる『敵対する政権』に供給を頼ることになりそうだ」と、ロシアのガスプロム石油・ガスグループの幹部は冗談まじりに語り、国が完全にまたは大部分を所有する世界のエネルギー企業に言及した。

サウジアラムコ、ADNOC、ガスプロムの各社からはコメントを得られていない。ロシア政府が最大の株主である大手石油企業のロスネフチも返答を拒否した。

あるサウジアラムコの社員は、今回の判決により、OPECでは増産が容易になると述べた。

そして「アラムコにとって素晴らしいことだ」と語った。

シェルをはじめとする西側の大手石油企業は、過去50年間、不安定な中東やロシアのエネルギー供給への依存を減らすことを目指し、急激に拡大してきた。

同じく欧米のBPやトタルなどの大手エネルギー企業は、2050年までに二酸化炭素排出量を大幅に削減する計画を勧めている。しかし、各社は、地球温暖化防止のために国連が提示している目標を達成するため、さらに努力をするよう投資家から圧力をかけられている。

サウジアラムコはサウジの上場企業で、ほぼ国営企業でもある。政権が国内の再生可能エネルギー使用量を大幅に増やすことを目指しているものの、同社は二酸化炭素排出量削減に関して同様の圧力にはさらされていない。

ガスプロムは、天然ガスの需要が今後数十年のうちに伸び、エネルギー消費において再生可能エネルギーや水素よりも大きな役割を果たすと予測している。

欧米の大手石油企業が世界の生産量の約15%を管理している一方で、OPECとロシアが約40%のシェアを占めている。

米国の小規模な民間のシェール企業などの新興生産元が需要の高まりに対応したため、このシェアは過去数十年、比較的安定していたが、最近は、これらの企業も同様の気候関連の圧力を受けている。

1990年以降、世界の石油消費量は、アジアのシェアが最も成長し1日あたり6,500万バレルから1億バレルに増加している。

中国やインドなどは石油消費の削減を約束していないが、その国々の1人あたりの消費量は依然として欧米諸国のレベルの数分の1に過ぎない。中国は石炭消費を大きく削減するためにガスへの依存を強めるだろう。

欧米のエネルギー政策の諮問機関である国際エネルギー機関は、先月、今後始める石油とガスの開発を元から廃止するよう世界に強く訴えた。しかし、需要を減らす手段については明確な見解を示さなかった。

欧米の大手石油企業は、活動家、投資家、銀行から二酸化炭素排出量削減の圧力を受けつつ、多額の債務の中で高配当を維持しなくてはならない。石油企業の配当金は、さまざまな年金基金に多大な貢献をしている。

リーガル & ジェネラル社のニック・スタンズベリー氏は、「世界の石油産業が生産量をパリ協定の目標に合わせていくことが肝要だ。ただ、政策、需要側の変化、世界のエネルギーシステムの再構築と足並みをそろえる必要もある」と述べた。同社は貯蓄者、退職者、機関に代わり、1.3兆ポンド(1.8兆ドル)の資産を管理している。

「1企業に判決で強制しても、(それに効果があるとしても)結果的には価格が上昇し、利益が失われるだけではないか」。世界有数のファンドマネージャーであるリーガル & ジェネラル社は大半の大手石油企業に資産を保有している。

リスクコンサルティングを行うベリスク・メープルクロフト社によると、環境問題に関連する訴訟は過去20年間に52か国で行われており、そのうち90%が米国と欧州連合だという。

アラムコの幹部は「欧米では、規制や判決に対する懸念からエネルギー投資がピークを迎えるだろう」と述べた。アラムコは年間配当金としては最高額の750億ドルを支払っている。

IEAは過去5年間、大規模な石油不足と石油価格の高騰を予測してきた。2014年から2017年の石油価格暴落に続く投資不足が理由である。

原油価格の上昇と大手石油企業の衰退が相まって、欧米だけでなくアジアでも需要が減り始めるまでは、欧米からロシアやサウジアラビアなどの国々への大規模な富の移転が起こるだろう。

かつて大手石油企業に勤務していた中東の生産業者の幹部は、環境・社会・ガバナンスのパフォーマンス基準にふれ、「石油とガスはこれからも生産される。違いはESGの重視度が低いだけだ」と、述べた。

ロイター

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