
マイケル・グラッキン
ロンドン: 英国のボリス・ジョンソン首相は、今週グラスゴーで開催される国連気候変動サミット、COP26について「人類にとっての転換点 」であると述べた。
残念なことに、いつもは陽気ではつらつとしたなジョンソン氏も、この数日間、地球の気候変動の軌道を根本的にリセットするため拘束力のある目標に世界各国の政府が合意に至ることは「うまくいかないかもしれない」と期待された成果に届かない可能性を示唆した。
COP26は基本的に、2015年に締結された気候変動に関するパリ協定以降、世界各国が5年毎に温室効果ガスの排出削減目標を提出するものである。パリ協定は、世界のほとんどの政府が、世界全体の平均気温の2度以上の上昇を阻止し、理想的にはその上昇気温を1.5度に抑制することを約束した協定である。
このような背景のもと、グラスゴーに集まった120人の各国首脳らは、COP26で温室効果ガス排出量削減に向けた詳細な計画を発表することとなっている。
しかし、国連は、各国政府が提示する温室効果ガス排出量削減状況について、世界の平均気温上昇を1.5度に抑制するという目標達成に必要な排出量には達しないと認めている。
気候変動に関する最新の報告書では、今世紀末までに地球の平均気温が2.7度上昇し、目標の上昇度の約2倍になると警告している。
COP26では、気候変動に関する拘束力のある合意がなされる代わりに、各国政府は経済のグリーン化を進めるという目標を強調するとともに、石炭投資や森林保護など、経済への影響の少ない分野において、合意を目指すことになるだろう。
COP26がパリ協定の期待を大きく裏切ることになりそうな理由は、火曜日にオーストラリア政府が発表した内容を見れば一目瞭然だろう。
世界有数の石炭・ガス生産国であるオーストラリアは、温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロとする目標を発表した。しかし、世界のごく一部の政府と同様に、オーストラリアは、この温室効果ガス排出量の目標を法的拘束力のある法律にするつもりはない。
その代わり、オーストラリアは消費者と企業による温室効果ガス排出量の削減の推進に依拠することになる。一方、オーストラリア政府は環境に優しい新技術のための資金として約150億ドルを投資する。
また中国は世界最大の温室効果ガス排出国であり、世界の排出量の28%を占めている。排出国第2位は米国で、その割合は約15%となっている。しかし、中国の習近平国家主席が今回のCOP26に出席する可能性は低い。
中国は自然エネルギーに多額の投資をしており、世界の太陽光発電容量の3分の1を占め、太陽光発電の最大の競合国である米国の約3倍の容量となっている。さらに中国は、経済成長を維持するため、国内の石炭生産量を急増させている。
また、二酸化炭素排出量が世界第4位で、全排出量の5%を占めるロシアのプーチン大統領も、今回のCOP26への参加を見送った。前向きな点として、世界第2位の石炭消費国であるインドの代表として、グラスゴーで行われるCOP26にナレンドラ・モディ首相が参加する予定となっている。
しかし、主要排出国である中国とロシアの2か国の指導者が不在であれば、気候変動に関して何かしら意味のある進展が得られる可能性は明らかに低くなる。利益相反が増加する現在の地政学的な状況下では特にそうである。
新興国の環境に優しいエネルギーへの移行を支援するための年間200億ドルの不足分について、欧米諸国の政府に補ってもらうという合意も、今となっては望みが薄くなっているようだ。
先進国らは、2009年のコペンハーゲンで開催されたCOP会合において、2020年までに新興国の脱炭素化のために年間1,000億ドルを拠出することに合意してたが、これまでに拠出された額は、800億ドルに留まっている。今週、この1,000億ドルの目標達成は2023年になることが明らかになった。これは、米国が不足分をすぐに補うことを拒否したためでもある。COP26議長で英国政府関係者のアロック・シャルマ氏は、この遅れを「深いフラストレーションの原因」であると述べた。
では、COP26では何が生まれるのか?世界の首脳陣らたちは、国外における石炭採掘への投資をやめることに合意するだろう。G7はすでにこれに署名しており、中国も最近これと同様なことを行うと発表した。現在のエネルギー危機の中で、国内の生産に影響を与えるものではないものの、これは達成可能だろう。
また、世界の森林破壊を減らすための取り組みに対する合意も行われるだろう。地球上の温室効果ガス排出量の3分の1以上を樹木が吸収するため、パーム油や木材の生産、放牧のために森林が破壊されることは、気候変動に大きな影響を与える。
しかし、今年初め、米国の世界資源研究所の専門家であるフランシス・シーモア氏は、一部の国々が過去に行った森林破壊に対する約束を達成できなかったと指摘した。
人類は転機を迎えているかもしれない。しかし、世界の政府はまだその転機を越えられずにいる。