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レバノンの金融危機におけるスタートアップの悲喜こもごも

レバノンの銀行が個人と組織の貯蓄を差し抑えることを決めたため、多くの住民が生活資金を失った。(ロイター/資料)
レバノンの銀行が個人と組織の貯蓄を差し抑えることを決めたため、多くの住民が生活資金を失った。(ロイター/資料)
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16 Jan 2022 08:01:56 GMT9
16 Jan 2022 08:01:56 GMT9
  • 嵐を乗り切れなかった新興企業もあるが、他国に事業を移すことで命綱を見つけ、生き残ろうとしている企業もある

メイサー・アッジャン

ベイルート:レバノンの財政難は2019年10月の抗議行動から始まった。そのとき、静かな座り込みがエスカレートして全国的な反政府革命になった。

間もなく、ドルに対するレバノン・ポンドの価格が急落した。公式レートはなお1ドル1,500ポンド相当だが、通貨の価値は90%以上失われ、現在は約30,000で取引されている。

一方、レバノンの銀行は、個人と組織の貯蓄を差し抑えることを決めた。その結果、多数の住民が生活資金を失い、おびただしい組織、家族経営企業、スタートアップが撤退した。

「この危機のために35万ドルのお金を失いました」。子どもの教育関連のスタートアップ、ザ・リトル・エンジニアの創業者であるラナ・クマイテリー氏はアラブニュースに語った。「私の汗と血と涙でできたプロダクトを失いました。すべて奪われたのです。でも諦めませんでした」

絶望の中でかろうじて幸運だったのは、2019年末までに、ある取引先から多額の送金を受け取る予定だったことだ。レバノンの自身の銀行口座の現金にアクセスできなくなったクマイテリー氏にとって、唯一の解決策は、後にフリーゾーン会社になるオフショア会社をUAEに迅速に設立し、取引先がそこに安全に送金できるようにすることだった。

「UAEへの送金で私と私のチームは救われました。そうでなければ、今頃はいくつもの取引先に多額の借金をしていたでしょう」とクマイテリー氏は言った。

レバノンのスタートアップではクマイテリー氏のような話は珍しくない。同じく教育関連で、青少年にテクノロジーの訓練コースを提供するスタートアップ、チェルパの創業者たちも、金融危機の発生時に一部をUAEに移転した。そこでフリーゾーン会社を設立し、滞在許可を取得することができた。

「銀行にお金を差し押さえられたのは最悪で、イライラすることばかりでした」と共同設業者のバッセル・ジャラレッディン氏はアラブニュースに語った。「わずか300ドルを手にするためだけに銀行に並んで何時間も無駄にしたものです」

オンラインプラットフォームのミント・バセル・マーケット、カムカリマ、ウーヌーサも、少なくとも一部の機能をUAEに移したスタートアップの一例に過ぎない。

テック企業大手のアラブネットは、レバノンの複数の危機がスタートアップのエコシステムに及ぼす影響について、スタートアップ60社と関係企業15社を対象に調査を実施した。まだ公開されていないその報告書によると、スタートアップの約半数が本社や事業の一部をレバノン国外に移したことが明らかになった。アラブネットのオマール・クリスティディスCEOがアラブニュースに説明した。

銀行に資金を差し押さえられただけでは足りないかのように、スタートアップは2019年末にも壊滅的な打撃を受けることになった。国の中央銀行であるレバノン銀行(BDL)がサーキュラー331を停止したのだ。

2013年後期にBDLが発表したサーキュラー331はレバノンの企業とテック市場に4億ドル以上を投入する仕組みだ。さらに多くの改革を促し、銀行にスタートアップへの投資強化を奨励するため、2016年には上限が6億5,000万ドルに引き上げられた。国内企業からは「聖杯」として歓迎されていた。

スタートアップコンサルタント、ワムダのエリアス・ブスタニ元CEOは、6年間、そのメリットが感じられたと語った。バブルが発生してスタートアップの評価が異常に高騰し、テックセクターの給与に影響を与えるという懸念があったにもかかわらずだ。

「このサーキュラーはBDLの取り扱いで、それによって各銀行は自社の株式を使用し、スタートアップや、スタートアップに投資するファンドに投資するためにBDLの助成を受けることができました」。ベイルートのミドルイースト・ベンチャーパートナーズ(MEVP)の創業者兼CEOであるワリド・ハンナ氏は言った。

「銀行がファンドとスタートアップに割り当てたお金は100%使用され、使い果たされました。つまり、全額が支払いと投資にあてられたのです。そして今、BDLと(商業)銀行は、サーキュラー331に従ってスタートアップに再投資するつもりはありません。当然、他に優先すべき課題があるからです」

他の優先すべき課題とは、深刻な経済危機への対応や通貨のハイパーインフレの調整などである。

MEVPはアラブニュースに対し、2019年に危機が始まる前にレバノンで稼働していたスタートアップは25社だったと述べた。この数は15社に減り、そのうちの7社は苦境に立たされている。

「レバノンの金融・経済危機は、スタートアップがレバノン以外の市場に投資する能力に影響を与えた」とMEVPは説明している。「レバノン(ポンド)の価値は90%以上失われたため、レバノンのスタートアップが相当の収益を上げるのは不可能になっています」

「以前に調達した資金は銀行で凍結されています。 『ロラー』と呼ばれるこれらの『レバノン・ドル』は、その米ドル価格の19%相当です。これではレバノンの企業が自社の成長のために投資するのは不可能です」

地域のアクセラレーターであるFlat6Labsなどの一部の資金提供元は、レバノンの支社への資金援助を保留している。

「当社は、(サーキュラー331の停止)以前の2019年に資金提供を受けた最後のグループの1社だったのを覚えています」。ギフティングのプラットフォーム、プレゼンテールの創設者兼CEOであるアドナン・アマシェ氏はアラブニュースに言った。「10万ドル強相当の資金を受け取りました」

アマシェ氏によると、他にもスタートアップ6社が3万ドルから10万ドルの範囲で資金を受け取ったという。Flat6Labの担当者のコメントは得られなかった。

危機の終わりが見えない中、レバノンは過去100年あまりで最も深刻な頭脳流出に直面している。最低賃金は月額675,000ポンドにとどまったままで、それは今やわずか24ドル相当である。これにより、テクノロジーをはじめとする複数のセクターで人材が大幅に失われ、スタートアップは不利な状況に置かれている。

MEVPのハンナ氏によると、スタートアップは従業員を確保するにはドルで給与を支払わなければならず、すでに危うい財政にさらに負担がかかっているという。

シフトスケジューリングのスタートアップ、シェデックスの共同創業者兼CEOであるアボ・マンジェリアン氏はアラブニュースに対し、「人材の採用と確保は難しく、コストもかかるが、目的はお金ではありません。この小さなスタートアップで、他にはないような柔軟で視野の広いカルチャーを生み出すことが第一です」と語った。

シェデックスは、まさに経済危機が始まった2019年10月にソフトローンチした。

レバノンの首都ベイルートの両替所の前を歩くマスクをつけた女性。(AFP/資料写真)

「当社は投資で得たばかりのドルで従業員に支払いをします。公平でありたいですし、この状況に便乗したくないからです」とマンジェリアン氏は言った。

チャルパやミント・バセル・マーケットなどの他のスタートアップも、「公平」を期すためにドル建てで支払っている、UAEなどの他国に銀行口座を持つことがその助けになると述べた。

ブスタニ氏によると、従業員を失うことを懸念するスタートアップは、スタッフにUAE、トルコなどの他国から遠隔勤務する選択肢を用意しているという。例えば、ムレックスはレバノンの従業員がフランス支社に移れるよう支援をしている。

2020年8月4日に起きた壊滅的なベイルート港爆発事故は、レバノンのスタートアップにさらなる打撃を与えた。レバノンの起業家が集まるベイルート・デジタル地区のビル群は大きな被害を受けた。シェデックス、シンパティカス、ムードフィットなどのスタートアップのオフィスも例外ではなかった。

シャルジャ・アントレプレナーシップセンターによると、ビルドリンク、FabricAID、コンポスト・バラディ・SAL、バスマなど、市内の他地域の企業も爆発の影響を受けたという。センターは、爆風の影響が大きな負担になっているレバノンのスタートアップ10社に10万ドルを均等に分配する支援を開始した。

将来に目を向けると、レバノン人に回復力があると言うのは控えめな表現だ。頑固で意志の強い人々で、それはスタートアップの創業者たちの何としてでも成功させるという決意を見れば分かる。

信頼できるヘルパーを紹介する高評価のオンラインプラットフォーム、ファインド・ア・ナースの創業者であるフセイン・スレイマン氏は「5月18日から運営しています」と言った。

「何が起きてもやめません。もちろん、グローバルなスタートアップを目指していますが、本社はレバノンに置きたいと考えています。レバノンに住む人々を雇用し、国に利益をもたらせるからです」

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