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GCCは「新たなベニス」になれる:元イギリス政府顧問

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30 Jan 2023 02:01:32 GMT9
30 Jan 2023 02:01:32 GMT9

アラブニュース

  • 欧州の貿易政策の専門家であるポール・マクグレイド氏は、今こそGCCとイギリスの自由貿易協定(FTA)を結ぶ時である理由を説明する
  • 国内政治がイギリス米国間のFTAを妨げている一方、インドは保護主義や政治をめぐる分断と格闘していると同氏は主張する
  • イギリス国民は「ブレグジットは間違いだった、コストは上がったのにメリットは僅かだ」と感じていると同氏は言う

ドバイ:湾岸協力理事会(GCC)圏はその戦略的な位置と急成長する経済によって新たなベニスになれると、元イギリス政府顧問でイギリスと欧州の貿易政策の専門家であるポール・マクグレイド氏は述べた。GCCとイギリスが3回目の自由貿易交渉を始める準備を進める中での発言だ。

同氏は、イギリスが米国やインドと自由貿易協定(FTA)を結ぶ試みは失敗すると予測する。一方、GCCとのFTA交渉は、中国とロシアをめぐる政策が双方で異なるにもかかわらず、うまくいく可能性があると見る。

また、同氏は世論調査を引用しつつ、今のイギリス国民は「ブレグジットは間違いだった、コストは上がったのにメリットは僅かだ」と感じていると主張する。

マクグレイド氏によるこれらの発言は、アラブニュースの時事トーク番組「フランクリー・スピーキング」に出演した際になされたものだ。この番組では、トップの政策立案者やビジネスリーダーに話を聞くことで地域のニュースを深く掘り下げている。

同氏は、GCCとイギリスの貿易協定が何を伴うか、年末までに協定が具体化するか、GCCの指導者らは過去12ヶ月の政治的混乱にもかかわらず貿易に関するイギリス政府の約束を本当に信用できるか、といった話題について語った。

「GCC地域は今後も中国との間に強い繋がりを持ち続けるだろう。中国におけるエネルギー需要は高く、増え続けている。(しかし、)GCC地域が欧米との間にも引き続き強い繋がりを持つ(ことを望んでいる)」

「現状は難しい綱渡りであり、今後数十年間でより厳しくなるだろう。しかし、GCC地域は戦略的に非常に強力な位置にある。既にイギリスや欧州では、GCCとの関係は戦略的パートナーシップであり無視するわけにはいかないという認識が強くなっている」

イギリス政府は先月、GCCとの重要な貿易協定締結に向けて本腰を入れて取り組んでいると述べた。しかし、2022年にイギリスが経験したジェットコースターのような政治的混乱や、同国がもはや前世紀のような製造大国ではないという事実から、なぜGCC諸国が未だにこの国との貿易協定に関心をもたなければならないのか、またイギリスが約束を守ることを信頼してよいのかと疑問視する声も多い。

マクグレイド氏は次のように語る。「これは当然の疑問だ。常に自らを誇り政治的安定とビジネス優遇的な規制を売りにしてきた国であるイギリスが、6年間も非常に不安定な状態に陥っているのだから。しかし、ジェットコースター的な混乱はあったものの、ブレグジットに伴う混乱のピークは過ぎたと考えている」

保守党政権と第一野党である労働党はブレグジットがうまくいくよう取り組んでいると主張しているが、その本意は、健全な財政、欧州とのより安定した規制関係、ネットゼロのような大きな分野でEUが行っていることをイギリスが大筋で追随するという予測可能な関係といったあたりにある。

「このことは投資家にある程度の信頼感を与えている」と、同氏は「フランクリー・スピーキング」の司会者ケイティ・ジェンセンに語る。

「イギリスは自らを大西洋や太平洋の真ん中に引きずり込もうとしているわけではない。地理的にも規制面でも、欧州と非常にしっかりと結びつくことになるのは明らかだ。そのことは、今後についてある程度の信頼感や安定感を与える。そしてイギリスは投資を必要としている。2016年のブレグジット国民投票以降、投資は急激に落ち込んでいるからだ」

元イギリス政府顧問でイギリスと欧州の貿易政策の専門家であるポール・マクグレイド氏。ケイティ・ジェンセンが司会を務める「フランクリー・スピーキング」にて。(写真:AN)

欧米は中国からのデカップリングを進める中で湾岸諸国との強力な関係を必要とすると専門家は指摘する。マクグレイド氏は、ウクライナ戦争によって人々の注意が湾岸諸国との戦略的パートナーシップの重要性に再び向けられたと見る。「貿易協定は一部の地域ではメリットになるだろうが、それだけではなくより幅広い関係が求められている」

「湾岸諸国とその投資家にとって、将来に向けて持続可能かつ高技能なモデルを構築するという観点から自国経済に取り入れたい分野において、この関係を言わば作り直すための大きなチャンスが訪れている」

ブレグジット後の保守党政権は、イギリスは世界中の国と貿易協定を結ぶことが可能だと約束していた。しかし、昨年はその目標を達成できなかった。同国は世界の貿易相手国の約60%としか貿易協定を結んでおらず、米国やインドとの交渉は行き詰まっている。

「これらの(貿易)交渉のいくつかは行き詰まっているが、おそらくその一部はいずれにしろあまり現実的ではなかった」とマクグレイド氏は言う。「一部のブレグジット推進派が望んでいたような米国との深い貿易協定は、大西洋の両岸それぞれの国内政治によって妨げられたようだ」

インドに関しては、同氏は次のように語る。「インドは現代的で野心的な自由貿易協定を(どの国とも)結んでいない。国内産業をどの程度保護するかをめぐる国内の分断に苦労している国なのだ。ビザなどの問題についても政治が働いている」

「アラブ世界、特にGCCに目を向けると事情が異なる。この地域とは歴史的に非常に強力な関係があるからだ。どのような貿易協定になるにしても市場アクセスに関して難しい問題があることは明らかだが、関係はおそらくより前向きなものになり、その貿易協定の内容をめぐっても難しい政治的問題はより少ないだろう」

マクグレイド氏は、越境投資の可能性について詳述する中で次のように述べた。「イギリスの経済セクターの多くは弱い立場にある。(しかし、)ヘルステックやデジタルヘルスなどの分野ではファンダメンタルズが非常に強い場合もある。もちろん『アラブ・ヘルス・ウィーク』もあるし、クリエイティブ産業、ネットゼロ技術、伝統的な強み、銀行やその他の専門サービスなどの分野もある」

「これらは湾岸諸国の経済にとって重要なセクターであり、持続可能なネットゼロ経済およびポストネットゼロ経済の構築に向け今後さらに重要性が増す可能性がある。だから、イギリスでは多くが売りに出されており、おそらくその中には同国が過去数年間に受けた経済的打撃のせいで割安になっているものもある。すぐに貿易協定が結ばれるかどうかに関係なく、今は投資するのに非常に良い時だと思う。ただ、湾岸諸国との貿易協定は、例えば米国やインドとの間の貿易協定よりも政治的な意味で容易に結べる可能性がある」

湾岸諸国は戦略的に強力だがイギリスとの関係は双方向的なものである必要があると専門家は言う。湾岸諸国が高技能・高技術の経済国になるうえでイギリスのイノベーションが役に立つ可能性を持つような関係だ。

マクグレイド氏は個人的に、イギリスが貿易・投資関係の多角化を追求する中で、新たな市場やエネルギー供給源などの分野へのアクセスを提供してくれる湾岸諸国が重要になると確信している。

「欧州が従来のロシア産原油・天然ガスの輸入を停止し、中国との関係を見直す(中、湾岸諸国は)重要な存在になるだろう」と同氏は言う。「米国は中国のサプライチェーンからのデカップリングについて公然と語っている。イギリスの口ぶりも同様だ。この点に関しては、イギリスはおそらく欧州主要国よりは米国に近いだろう」

 

元イギリス政府顧問でイギリスと欧州の貿易政策の専門家であるポール・マクグレイド氏。ケイティ・ジェンセンが司会を務める「フランクリー・スピーキング」にて。

「世界情勢がそういったものになるのだとしたら、湾岸諸国はかつてなく重要な存在になる。エネルギーに関してだけでなく、その市場、投資、構築しようとしているパートナーシップといった面でもだ」

「湾岸諸国における野心のスケールを見てほしい。それは、リターンのための投資だけでなく、(湾岸諸国)政府、政府系ファンド、その他の投資家が目指す大規模かつ長期的な持続可能性プロジェクトに向けられている。今でも卓越しているイギリスの革新的技術が湾岸諸国における持続可能なスキルベースの構築に貢献し得るような真のパートナーシップを結ぶ大きなチャンスがあるのだ」

イギリスは、GCC諸国とのFTAには約16億ポンド(19.8億ドル)の経済効果があると推定している。それでは、サウジアラビアやUAEなどの国にとっての最大の利益はどこにあるとマクグレイド氏は見ているのだろうか。

「貿易協定を結ぶのは結構なことだが必須ではない。これらの国は既に世界的に見て非常に開かれた経済国だ。既にイギリスとの間に強力な貿易関係がある。貿易協定が結ばれれば一部の障壁を減らす役に立つかもしれないが、それは最も重要なことではない」

「より広い視野で見るならば、特にイギリスのイノベーションがサウジアラビアやUAEといった国の長期的戦略目標の実現に貢献できるセクターに目を向けるべきだ。医療テクノロジー、ヘルステクノロジー、デジタルヘルスなどの本当に強い分野に目を向ければ、イギリスの市場において多くのイノベーションが起きている。それを支えるのが、約6000万人をカバーする大規模な国民医療サービスがあるため独自のデータセットがあることだ」

マクグレイド氏は、クリエイティブセクターもイギリスの世界的な強さの大きな源であり、一部の湾岸諸国が多額の投資をしている観光や文化などの分野にとっても重要なものになり得ると見る。「教育などの分野は伝統的に強く、既にイギリスが湾岸地域に進出している分野だ」

「専門サービスや銀行・金融サービスなどは明らかにそうだ。しかし、法律・会計サービスやある種の経営コンサルタントなども湾岸地域で設立され存在感を増している」

マクグレイド氏は続いて、もう一つの大きな分野と呼ぶものに言及した。「それはネットゼロ関連技術だ。ネットゼロを実現しつつ、それを持続可能なものにするとともに、炭化水素への依存を超えて、高い成長率、豊かさ、高い技能を持った経済を構築することに貢献する技術だ」

ケイティ・ジェンセン。(写真:AN)

「イギリスにはそれが多くある。湾岸地域の政府系ファンドは既にこれらのセクターのいくつかに投資している。場合によっては、彼らがパートナーシップにおいて求めることは、それらの技能のいくつかを地域に持ち帰り、湾岸地域において豊かな高成長経済を維持するために長期的に必要とされる高い技能・技術を構築するのに利用することであったりする」

しかし、イギリスがGCC全体と具体的な協定を結べなかった場合はどうなるだろうか。その場合、UAE、サウジアラビア、カタールなどと個々に貿易協定を結ぶことを検討するという選択肢はあるのだろうか。

マクグレイド氏によると、実際にそれが起こっているのだという。「イギリスはGCC加盟国のいくつかとの間に、いくつかのセクターに関する個別の協定を結んでいる。今後も続くだろう」

各国政府が何をしようと、これらの経済的ファンダメンタルズは湾岸諸国の(国、政府系ファンド、企業レベルの)投資家にとって魅力的なはずだ。イギリス経済の強みであるいくつかのセクターにおけるイノベーションは、21世紀に向けた持続可能かつ高技能なポストネットゼロ経済を構築するために湾岸諸国が実行すべきこと、あるいは実行すべきであると認識していることに対する一つの答えになり得るからだ」

マクグレイド氏は、GCC諸国のロシアに対する姿勢がそれほど強硬でないことに関しても、イギリスとの交渉の障害になるとは考えていない。「理由は2つある。第1に、ロシアによる侵攻をきっかけにイギリスおよび欧米全体にとっての湾岸地域の戦略的重要性に対する認識が高まっていること。この地域がエネルギー価格や長期的なエネルギー需要に対して影響力を持っているからだ」

「第2に、欧米は中国からのデカップリングを進めるつもりであれば湾岸地域が必要であるということ。湾岸諸国は有利な場所にある。経済的に強力な立場にあるのだ」

「確かに、イギリスと欧米諸国の政府は一般的に、国内では価値観に関するいくつかのアジェンダをめぐって世論や運動団体と常に戦っている。そういったことと湾岸諸国との戦略的関係の必要性との折り合いをつけられるかどうかを常に心配しているのだ。これは今後も問題になるだろう」

同氏は、貿易協定に至るまでの技術的・政治的障壁に言及する中で、双方が特定の問題に関して異なる意見を持っていることを認めつつも、次のように述べた。「それは致命的な問題ではない。協定を結ぶことは可能だ。おそらくより重要なのはイギリス側の政治的意志だ。協定が結べなければ政治的意志の失敗ということになるだろう」

マクグレイド氏は、3年前にイギリスの有権者が下したEU離脱という決定についての自身の意見を率直に語った。「経時的に一貫した調査が示唆するところでは、『ブレグジットは間違いだった、コストは上がったのにメリットは僅かだ』と感じているイギリス国民が増えている」

それにもかかわらず、保守党と労働党はどちらも、貿易協定を根本的に見直すことは不可能だと結論付けたのだという。「5年ごとに貿易協定が見直される。次は2025年だ」と同氏は言う。「労働党が選挙に勝てば、基本的な性格を変えることなく貿易協定の条件を改善しようとするだろう」

ポンド安、インフレ率上昇、貿易・投資の混乱、政治的不確実性、EU単一市場へのアクセス喪失といったブレグジットのコストに関して個人的意見を尋ねたところ、マクグレイド氏はデメリットが大きいことやそれが経済に限られないことは明白だと言う。

「イギリスのソフトパワーの一種の中核である政治的安定性の評判に対する打撃は、ある意味、市場へのアクセスを失ったことの経済的打撃よりもずっと大きい」

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