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カルロス・ゴーンと「コスト・キラー」の孤独な生活

2019年6月24日、公判前整理手続きで東京都の東京地方裁判所に到着する元日産会長カルロス・ゴーン氏(AFP)
2019年6月24日、公判前整理手続きで東京都の東京地方裁判所に到着する元日産会長カルロス・ゴーン氏(AFP)
2019年4月3日、東京の弘中惇一郎弁護士の事務所を出るカルロス・ゴーン氏(AFP)
2019年4月3日、東京の弘中惇一郎弁護士の事務所を出るカルロス・ゴーン氏(AFP)
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20 Oct 2019 09:10:57 GMT9
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Leila Hatoum、ベイルート

東京都港区の高級住宅街の青々とした公園の中で、野球帽とサングラスをかけた男性が散歩する様子がよく目撃される。

彼の家は近くにあるものの、家族が誰もここに住んでいない時は孤独だ。彼は時々近くのカフェで友人と会ってはいるが、そのような時でも、誰にも気づかれないよう、顔を覆って身元を隠さなければならない。

この1年で、3つの大陸での会計不正をめぐる告発を受け、世界的なニュースの見出しになった日産とルノーの元会長、カルロス・ゴーンは、状況の劇的な変化に適応しようともがいている。

「彼はつきまとわれることを恐れています。追いかけられていると思い込んでしまっています」と、ゴーン氏の支援実行委員会のコーディネーター、Imad Ajamiがアラブ・ニュースに語った。

65歳のゴーン氏の裁判と拘留については、長い記事が書かれ、ほとんど彼のことを知らないような人が書いた書籍までが出版されるに至っている。しかし、日本でゴーン氏と時間を共にしたある友人や、ある近い親類、複数の元同僚のおかげで、アラブ・ニュースは、彼の劇的な逮捕、拘留、それに続く保釈の後の彼の日常生活の詳しい全貌を知ることができた。

拘置所から釈放されるとまず、ゴーン氏は苦労の末、東京で賃貸の宿泊先を見つけた。

「我々は何とかやっと、渋谷で間仕切りのないワンベッドルームのアパートを見つけることができました。ここのオーナーは日本人と結婚したフランス人女性で、彼に部屋を貸すことに同意してくれました。しかし、狭くて、中に集まるのもやっとでした。たいていは外食をしなければならず、実用的ではなかったのです」と、Ajamiは語った。

4月の2度目の逮捕の後、また、保釈の条件の1つとして、ブラジル生まれのレバノン系フランス人実業家のゴーン氏は、東京都内の住所での滞在を求められた。彼は苦労の末、港区の大きな離れになった部屋を見つけた。

「日課の一環として、毎週か10日ごとに近くのホテルを訪れ、ジムやスパも利用しています」と、何十年も日本に住み、定期的な面会ではゴーン氏に助言を行っているコンサルタントのAjamiは語った。

ゴーン氏には旅行制限が課されているが、何とか首都を離れて友人と京都を訪れ、1日過ごして戻ったりすることもできている。

法律に詳しい情報筋によると、ゴーン氏は「このような旅行をするためには許可を申請しなければならず」、日本国外へのいかなる旅行も「認められない」のだという。

では、ゴーン氏はどうやって大きな家の家賃を払ったり、その他の支出をまかなったりしているのだろうか?

情報筋は、元取締役は「自分のポケットマネー」で支払っており、弁護士が支出の明細を作成し、その後これを裁判所が承認するのだと語った。

「今のところ、日本の当局は彼のどんな要求も拒否していません。これは主に家賃、食費、弁護士費用、その他の支出に関するものです」と、情報筋は話した。

裁判の日程が決まるのを待つ中で、ゴーン氏の日課は延々と続いている。

「65歳にもなれば、自宅や家族から離れて時間を過ごすのは、簡単ではありません」と、ある家族の友人が匿名を条件にアラブ・ニュースに語った。

「彼には支援と愛する人たちの存在が必要です。これはかつて世界のトップにいて、突如130日間も独居防に閉じ込められた人にとっては、不可欠です。これは彼にとって屈辱的なことでした。間違いは犯していないと信じているので、なおさらです」と、情報筋は語った。

彼の裁判に関する文書によると、ゴーン氏は 家族の一部を含め、裁判で名前が挙げられている第三者との接触が認められていない。

父親がシリコンバレーへ送金した時のお金の受取人として、文書の1つに名前が挙げられている一人息子のアンソニーとの接触も禁止されている。

一方で、3人の娘と姉はそれぞれ個別に訪問し、彼の新しい住まいに時々滞在しているが、ごく稀にだという。

またゴーン氏は、妻のキャロルとも、共同生活をしていた渋谷のアパートで7ヶ月前に再逮捕された後、連絡や面会を禁じられている。

夫と同様、多重国籍のキャロルは、レバノンのパスポートを日本の当局に預けている。彼女は後にアメリカのパスポートを使って出国し、日本の法律を破った。

複数の情報筋はアラブ・ニュースに対し、彼女は過去6カ月間の間に夫との面会請求を5回行い、いずれも当局によって拒否されたと語った。

保釈条件の一環として、ゴーン氏はメディアに直接対応したり、その他のソーシャルメディアを使ったりすることを禁じられている。彼の通信手段は、指定のメールアドレスを利用したラップトップと、当局が用意した電話回線に限定されている。

「これらの連絡手段を使う場合でも、午前9時から午後5時の間に弁護士の事務所からしか利用できないので、連絡は制限されています」と、法律に詳しい情報筋は語った。

Ajamiは、ゴーン氏の弁護士は「楽天的です。アメリカの証券取引委員会(SEC)と和解合意に達した今は特にそうです。というのも、これにより、彼は訴訟を1件片付けることができたからです」と語った。

ゴーン氏は、合わせて1億4000万ドル以上の報酬を記載しなかった、虚偽の財務開示を行ったとしてSECが起こした訴訟で、何とか罰金を支払うことで和解した。彼は、有罪を認めずに訴訟を終結させるため、1500万ドルを支払った。

和解の一環として、ゴーン氏は今後10年間、世界のどの企業の取締役にも、会長にも、CEOにも、就任が禁じられている。専門知識を持った男として、この禁止措置は実質的にキャリアの終わりを意味する。

「ゴーンは、自分を消し去り、滅亡させるための陰謀だと信じています」と、Ajamiは語った。

私は過去に、「コスト・キラー」にインタビューしたことがある。これは、日産、ルノー、三菱の世界3大自動車ブランドの再生を支援するために彼が取った大胆な手段から、ゴーン氏に付けられたあだ名だ。

最後に面会したのは、8年前だ。当時、彼は自身の仕事に、そして、何十万人もの従業員と、世界中で販売されている何百万代もの自動車を抱えながら、自身が監督していた自動車メーカー連合に、誇りを持っていた。

現在、かつてルノー・日産・三菱モーターズの連合を指揮した男は、日産と三菱のいずれの会長職からも追放されている。

同じく匿名を条件に取材に応じたルノー内部の関係者は、ゴーンの事件を受けて、3社間の合併の可能性は非常に低くなったと語った。

「フランスとは違い、日本人はそのトップ企業の1つが、ましてや2つが、ある多国籍企業に吸収されることなど認めないでしょう。むしろ、ルノーと日産の連合は続くでしょう。しかし、決して合併にはなりません」と彼は話した。

フランスの情報筋は、ナンテールの警察が、背任や横領を含む不正の罪に関するゴーン氏への捜査を終結させたと話した。「全て近く発表されるでしょう」と、我々の取材に答えた。

訴訟やメディアの喧騒から離れ、また、これまでのような豪華なパーティーが過去のものとなる中、外交官や友人の訪問をかつてのように頻繁に受けることも少なくなり、ゴーン氏が過ごす時間は、ますます孤独になってきている。「この1年で友人の訪問も少なくなり、彼の元を訪れる人は非常に少なくなっています」と、Ajamiは語った。

フランス政府と同様、レバノンの指導部はゴーンの事件に介入しないことに決めた。フランスのエマニュエル・マクロン大統領とゴーン氏は、マクロンが大臣を務めていた当時から緊張関係にあったと考えられている。

一方、レバノンのジブラーン・バシール外務大臣は、レバノン政府が日本の管轄権の仕事には介入しないと語っている。

レバノンは、この後10月の日本の新しい天皇の即位式に出席させるため、大臣1人を含む政府当局者2名を派遣する予定だ。問題は、レバノン国籍を持つゴーン氏と面会するかだ。

レバノンのミシェル・アウン大統領は、ゴーン氏と面会し、支援を伝えるために、最近極秘で日本を訪問したのではないかと噂された。

レバノン大統領府はこの主張を否定し、大統領は面会や内政、外交活動で多忙を極めていると発表した。

世界がゴーン氏をめぐり繰り広げられる法廷ドラマに注目する中、1つ確かなことがある。3つの自動車メーカーを結び付けることで世界の帝国を築き上げた男は、名誉挽回のための闘いを諦めることはないだろう。

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