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ロマンチックな愛のテーマがアラビア文学と詩に与えた影響について

7世紀のケイスとレイラのストーリーは部族間の恋愛物語。(提供画像)
7世紀のケイスとレイラのストーリーは部族間の恋愛物語。(提供画像)
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14 Feb 2023 05:02:50 GMT9
14 Feb 2023 05:02:50 GMT9
  • 詩は、アラビア語圏の叙事詩的な愛の物語のいくつかを大切に包摂し護る役割を担ってきた
  • 詩の重要性は、サウジアラビアが2023年を「アラビア詩の年」に指定したことに反映されている

ラワン・ラドワン

ジェッダ:ロマンチックな恋愛は、最近数十年のアラビア大衆文学の爆発的な盛り上がりの中で繰り返し取り上げられているテーマだが、アラビア語詩の伝統では文字として後世に残された初期の作品の時代からこのテーマが存在している。

文字の登場のはるか以前からアラビアの部族では、口承詩を用いて重要な情報を共有することが一般的だった。アラビア語詩の人気は、人々との感情的な結びつきから生じており、この地域の生活の複雑さの反映である。詩は「アラブの本」なのだと、古い諺にある。

欧米の読者の大部分にとって世界の「文学」とは、小説や短編小説、民話、戯曲、詩、さらには異文化におけるそれらに近似したもの、つまり「想像力に依拠した文学」を広範に意味する。

アラビア語で文学を意味する「アダブ」は、さらに複雑な意味を持つ言葉で、欧米的な意味の文学に加えて、文化や礼儀、品位、人間性をも内包し、文芸という文脈に限ってもこうした要素は英語における文学という用語の構成要素と共存している。

アラブらしさを備えた現代アラビア文学は、数世紀にわたる発展と試行錯誤を経て今日の形に至った。アラビア文学は5世紀に隆盛し、紀元7~13世紀のイスラム黄金期に最高潮に達したが、多くの先イスラム期の詩人の多くは6世紀に名声を博した。

古代サンスクリット語で書かれた「パンチャタントラ」は8世紀にアラビア語に翻訳された。(提供画像)

こうした歴史的な業績を称え、サウジアラビアは2023年を「アラビア語詩の年」に指定した。サウジアラビアの文化大臣バドル・ビン・アブドゥラー・ビン・ファルハーン王子は、歴史を通してアラブ文化の中で価値と重要性を享受してきた詩を讃え、アラビア半島の地がアラビア文学の傑出した才能を受け容れてきたことを確認し、この指定を発表した。

「サウジアラビアの詩人の創造性は歴史的な深みを持った正統的な文学的体験の延長戦上にあります」と、バドル王子は述べた。そして、バドル王子は、現在サウジアラビアとして知られている土地は、「古代から、イムルル・カイスやマイムン・イブン・カイス・アル・アーシャ、アル・ナビガ・アル・ドゥビアニ、ズハイル・ビン・アビ・サルマ、アンタラ・イブン・シャダード、タラファ・ビン・アル・アブド、アムル・ビン・クルスーム、ラビード・ビン・ラビアといったアラビア文学史上最も重要な詩人たちを愛情を持って受け容れてきました」と付け加えた。

散文と詩の両方が「アダブ」には含まれる。愛の詩を意味する「ガザル」は、長い歴史を有し、ある時は優しく慎み深く、ある時は率直な表現から成る。文学史家や批評家たちは、アラビア語詩の70%は恋愛に関するものだと確信している。

愛の物語は、ロマンティックな表現と鮮やかな感性を伴ったものが主流だ。詩は、事実と創作が混在するアラビア世界で最も壮大な物語を大切に包摂し護る役割を担ってきた。

先イスラム期の最古の愛の物語の1つでは、アラブ王と黒人奴隷の息子で戦士詩人のアンタラ・イブン・シャッダードと彼の最愛のアブラ・ビント・マリクとの間の禁断の不滅の愛と結婚までの苦難が語られる。

アラビア半島の中央部に生まれたイブン・シャッダードは、勇敢さと意志の強さで知られていた。しかし、彼が従妹のアブラ・ビント・マリクを結婚相手に求めた時、彼のそれまでの勇敢な行動や英雄的資質は無視され、彼の叔父は贈り物として1,000頭の希少な「鳥ラクダ」やそれ以上のものを要求したのだった。

イブン・シャッダードは、探求の途上、アブラへの愛を詩で表現するという方法を獲得したのだった。

ああ、愛する人の住まいよ

雲があなたの上に雨を降らさないのならば、

代わりに私の涙をあなたに降り注がせてください

シャッダードは、叔父の要求を最後に満たしアブラと結婚するまで、何年も詩を書き続けたのだった。

「アンタルとアブラ」の不滅の愛の物語は1,400年間以上も伝え続けられてきたが、その主人公にはそれ以上のものがある。イブン・シャッダードは、8世紀に編纂され金に彫られカーバの壁に掛けられた懸吊頌歌またはアル・ムアラカットとして知られる先イスラム期の詩集に収められた7つの著名な詩の内の1つの作者である。

この詩集には、英雄的資質や高貴さに関する詩が最も多い。

ケイス・イブン・アル・マラワと彼の愛したレイラ・アル・アーミリアの物語は、同様に、7世紀の伝説的叙事詩であり、他部族の女性レイラに夢中になっている男の話だ。

シャフリヤール 王の大臣の娘であるシェヘラザードは、古典「千夜一夜物語」の語り手である。(提供画像)

2人の結婚は禁じられ、ケイスは公の場で詩を書き詠唱することを始めた。両家族の軋轢から結婚を禁じられ続けた彼の周囲に人々は集まり、彼の詩から溢れだす愛情と愛の表現を、畏敬の念を抱きながら聞いた。

結局、レイラは、タイフのタキーフ族のウォード・アルサカフィというより裕福な商人と結婚させられた。残されたケイスは、砂漠に引きこもり、残りの人生を悲しみと孤独の内に過ごした。

引き裂かれた恋人たちは、打ちひしがれた心で、悲しみに満ちて、人生の残された日々を暮らした。

淋しく、苦痛に苛まされたレイラはケイスに再び会うこともできずに亡くなった。レイラの死の報せを受けたケイスは、彼女の墓まで旅をし、そこでやるせなく泣いた。

彼らが私に語りかける「レイラへの欲望を心から断ち切れ!」と

しかし、私は懇願する、ああ、私の神よ、それをますます強くしてください

 私は彼女の美しさのために命を捧げ

私の血は彼女のために存分に流されるでしょう

そして、彼女のために、苦しみの中で蝋燭のように燃え尽きようとも、 この苦しみから逃れ得ることは二度とないでしょう

 愛させてください、ああ、私の神よ、ただ愛のための愛を

そして、私の愛を、今よりも100倍大きなものにしてください

愛の物語のいくつかは口承された身近な架空のストーリーを誇張したものかもしれない。しかし、こうしたラブストーリーの美的、詩的、歴史的価値は時代を超越している。

こうした物語を包摂した韻文は、詩の進化について理解する上での手がかりとなる。世界各地で文学のジャンルが百花繚乱となる中、「ガザル」は、20世紀初頭の近代的な散文形式の導入まで、アラブ文化では主要な文学表現だった。

詩は数世紀にわたって主要な文学形式であり、その中で特に唯一無二の形式を持った「千夜一夜物語」がイスラム黄金期の数年間に登場した。中東の民話をシャフリヤール王に語ったのは王の大臣の娘であるシェヘラザードだったとされている。

毎夜、シャフリヤール王は夜明けまで物語に耳を傾けた。シェヘラザードは、物語の結末を語り終えることをせず、次の夜に持ち越して語り続けた。面白い物語が次から次へと語られ、王は結末を首を長くして待ち、やがて語り手と恋に落ち、彼女を妃としたのだった。

「千夜一夜物語」では、高まる感情を表現するために詩が歌や謎かけに用いられることはそこかしこであるものの、それぞれの物語を次の物語に切れ目なく続けるため、テキストの大部分は散文となっている。詩の多くは二行連か四行詩だが、より長い詩も含まれている。

数千年間、多様な形式の詩がアラビア文学の柱となってきた。こうした物語は時代を超越するだけではなく、広く人口に膾炙し、讃えられてきた。アラビア語の詩は他のアラビア文学の形式の中で、発展と人気の中心であり続けたのだ。

「先イスラム期の詩人、イスラム期初期の詩人、それ以降の詩人と、数千年にわたってアラブの歴史の中で不滅の旅路を辿った詩人たちの国が、私たちの国サウジアラビアなのです」と、バドル王子は語った。

「詩はアラブ民族とその文化と一体です。そして、詩は、歴史家や研究者たちが歴史的な出来事を観察し分析する際に依拠する歴史資料の典拠を構成しています」と、バドル王子は述べた。

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