Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter
  • Home
  • 中東
  • 苦境にあえぐレバノンの病院、戦闘激化で医療崩壊の可能性を恐れる医師たち

苦境にあえぐレバノンの病院、戦闘激化で医療崩壊の可能性を恐れる医師たち

2023年11月13日、レバノン南部マルジャユンのマルジャユン病院で透析治療を受ける患者。(ロイター)
2023年11月13日、レバノン南部マルジャユンのマルジャユン病院で透析治療を受ける患者。(ロイター)
2023年11月10日、レバノン南部テブニンのテブニン政府系病院で、患者を介助する医療スタッフ。(ロイター)
2023年11月10日、レバノン南部テブニンのテブニン政府系病院で、患者を介助する医療スタッフ。(ロイター)
Short Url:
16 Nov 2023 01:11:33 GMT9
16 Nov 2023 01:11:33 GMT9
  • マルジャユン病院は1日20時間発電機で稼働しており、その燃料代として月2万ドルを支払わなければならない
  • 燃料がなくなれば、病院は閉鎖される

マルジャユン、レバノン:イスラエルとの国境を一望するムネス・クラケシュ医師のオフィスからは、レバノン近隣の町に着弾する砲弾や空爆の轟音が聞こえてくる。こうした空爆の頻度が増すにつれ、彼の小さな病院のスタッフは神経をとがらせている。

「ここ1ヶ月ほどで、すでに爆発で負傷した51人を治療する必要がありました。そのうち17人が死亡、あるいは到着時に死亡が確認されている。これ以上増えれば、私たちの手には負えない」とクラケシュ医師は述べた。

レバノン南部にあるマルジャユン病院の院長を務めるクラケシュ医師によると、同院はこの地域の30万人近い人々に医療サービスを提供している。病院には14床の救急ベッドがあるが、スタッフ不足と明らかな燃料不足のため、運営に苦慮しているとのことである。

同院では1日20時間発電機で稼働しており、その燃料代として月2万ドルを支払わなければならない。「政府からの援助はもうありません。この病院の資金でやりくりして一週、一週をつないでいる。燃料が底をつけば、病院の一部のスイッチだけを切ることはできないので、この病院は閉鎖される」と、クラケシュ院長は述べた。

さらに何十件もの公立病院が同じように不安定な状態にある。2019年のレバノンの経済危機以来、これらの病院は平時にかろうじて対応できるのがやっとの状態である。

そして今、10月7日にイスラエルとパレスチナ過激派組織ハマスによるガザ地区での戦闘が勃発して以降、イスラエルとレバノンの南部国境で激化する紛争が、医療部門を新たな危機へと追い込んでいる。医師たちは、今回の中東地域での紛争が医療崩壊を招くのではないかと危惧している。

ハマスと同盟関係にあり、イランを後ろ盾とするレバノンのヒズボラは、イスラエル軍にロケット弾を発射し、それに対抗するイスラエル軍が国境沿いの地域を空爆・砲撃しており、紛争拡大の懸念を煽っている。

多数の死者を出した2006年のレバノン侵攻以来、同地域では最も死者の多い暴力の応酬となっており、すでにヒズボラの戦闘員70人以上、レバノンの民間人10人、イスラエル人10人(ほとんどが兵士)が死亡し、レバノンの町や村には砲弾が毎日のように着弾している。

マルジャユンの丘の上にある同院では、さらにひどい人道的危機をこれまで経験してきている。数百人が死亡した2006年のイスラエルによるレバノン侵攻では、医師たちはイスラエル軍の空爆の中患者を避難させており、また1980年代のイスラエルの侵攻では、レバノン南部が他の地域から孤立させられた。

しかし今回の紛争では、再び大規模な戦争が起きた場合はおろか、現在の戦闘レベルの激化に対処する設備すら整っていないと、クラケシュ院長や他の病院の医師たちが口をそろえて言う。

レバノンは近年、度重なる災難に見舞われてきている。2019年の財政破綻と2020年のベイルート港での壊滅的な化学物質爆発事故で、国家は崩壊状態にある。

政府の資金は枯渇し、何千人もの医師や看護師が国外に流出し、病院への予算は削減された。

「病院が攻撃対象となることは想定内」

マルジャユン病院も例外ではない。多くのスタッフが、より大きな都市や国外へと去っていった。

「外科医、整形外科医、婦人科医が4、5人いたが、今は各科1人ずつで、交代要員もなく、1人で長時間のシフトをこなしている」と、クラケシュ院長は言う。

レバノン保健省はもはや予算が要求に追いつかないとして、最悪の事態を想定し、国立病院に外傷治療用具一式を今週緊急配布した。また、赤十字国際委員会は、マルジャユンなどの病院に燃料を供給したと発表している。

ナバティエ近郊の私立病院の外科医であるムーサ・アッバス医師は、「もし戦闘が激化すれば、緊急援助にも限界があるだろう。病院は週に40〜50人の負傷者を受け入れることができるだろうが、それ以上になるとレバノンのどの病院でもまともに対応するのは無理だろう」と、語った。

財政危機後のレバノン人の国外脱出は、少なくとも国内に留まる医療従事者が以前より減少したことを意味するとクラケシュ院長は言う。しかし、患者が殺到すれば、救急治療室と受付に通じる狭い車道が渋滞するほどになるだろう。

クラケシュ院長は、レバノンが財政危機に陥る数ヶ月前のまだ政府からの資金が利用可能だった時期に病院を改装し、新しい設備を導入している。腎臓透析装置を購入し、患者を治療するスペースを確保するため、ランドリールームを離れに移した。

彼はそれがすべて空爆で消えてしまうかもしれないと懸念しており、ガザで医療従事者が保護されていない状況を恐怖のまなざしで見てきている。

ハマス当局の発表によると、包囲されたガザ地区ではイスラエルの空爆により、25の病院が機能停止に陥ったとのことである。より身近なところでは、先週レバノン当局がイスラエル軍の砲弾が国境近くの小さな病院を直撃したと発表している。

「私たちはイスラエルが病院を攻撃することだけを心配しているのではない。攻撃は想定内だ。先日(ガザ地区)で起きたことが、次は我々に起こる可能性があるのだ」と院長は語った。

ロイター

特に人気
オススメ

return to top