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イスラエル軍の攻撃を受けるガザ地区で、妊婦と新生児が負傷や感染症、栄養失調の危険に直面

イスラエルによる攻撃後、負傷しアル・アクサ病院に運び込まれた子供。(ゲッティイメージズ)
イスラエルによる攻撃後、負傷しアル・アクサ病院に運び込まれた子供。(ゲッティイメージズ)
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18 Nov 2023 09:11:30 GMT9
18 Nov 2023 09:11:30 GMT9
  • 母たちや新生児たちは、出産を乗り越えた後も、物資不足によって健康や発育が脅かされる危険に晒され続ける
  • 病院の包囲や援助物資の輸送の妨害により、出産中の女性に鎮痛剤を処方することも、未熟児を保育器に入れることも出来ない状況となっている

アナン・テロ

ロンドン:包囲されたガザ地区でイスラエルによる絶え間ない空爆を受けながら生きる妊婦たちや新生児の母たちにとって、素晴らしい喜びと興奮に満ち溢れるはずの時期が現実化した悪夢となってしまっている。

28歳のレイラさん(安全上の理由により仮名)は、死と破壊に満ちている現在の世界に新しい生命をもたらすことに強い恐怖を感じている。「一番心配なのは、自分の赤ん坊を抱いた時点から、死の中に埋もれてしまいそうなその命を愛し始めてしまうに違いないことです」と、レイラさんはアラブニュースに語った。

イスラエルと武装組織ハマスの紛争の最中、レイラさんはガザ地区の他の5,500人の妊婦たちと同様に間もなく出産を迎える予定である。この紛争により、ガザ地区の医療インフラは破壊され、住民たちは栄養価の高い食料や清潔な水を得られておらず、公衆衛生は危機に瀕している。

激しい空爆による病院や診療所の閉鎖、電気や燃料、医薬品の慢性的な不足は、ガザ地区の約5万人の妊婦が直面している最大の試練の一端である。

ガザ市のシファ病院の早産児たち。(マラワン・アブ・サーダ医師撮影、AP)

11月10日現在、包囲下のガザ地区では18の病院と51の初期診療センターが閉鎖されている。このため、現況、稼働している病院と保健センターはそれぞれ60%未満と30%未満となっている。

パレスチナ領域の飛び地であるガザ地区で活動する英国の慈善団体「パレスチナ人医療援助(MAP)」のガザ地区責任者を務めるフィクル・シャルトゥート氏は、ガザ地区の妊婦たちが、「ほぼ完全な人道的災害の最中に、必要不可欠な保健サービスの利用を制限される悲惨な現実に直面しています」と語った。

「毎日180人の女性が出産し、10月7日以来235回に及ぶ医療インフラへの攻撃がありました。危機的な状況です」と、シャルトゥート氏はアラブニュースに語った。その結果、女性たちは緊急時に産科の医療サービスを受けられず、数多くの女性が危険な状況化での出産を余儀なくされている。

「病院が閉鎖されたことで、瓦礫の中の避難場所や住居、街頭で出産せざるを得なくなり、これが感染リスクの増大へと繋がっています」と、シャルトゥート氏は語った。「アルヒロ病院のような産科病院が攻撃を受けているのです」

ガザ地区の病院は紛争の最前線にある。イスラエルの軍事行動が始まって以来、ガザ地区の病院には負傷した民間人が溢れているのだ。この軍事行動は、イスラエル人たちと外国籍の人々合わせて1,200人が殺害され、200人以上が人質として拉致された10月7日のハマスの襲撃への報復として開始された。

ガザ地区全域の約135の医療施設が損傷または破壊された。これらの医療施設は国際人道法で保護されているが、イスラエルは、ハマスが複数の病院を拠点としており、特にガザ地区最大のアル・シファ病院の地下が司令センターとなっていると主張している。

ガザ地区中心部のアフリ・アラブ病院で発生した爆発の後の状況。(AFP)

ハマスと医療スタッフは、ガザ地区の医療施設が武器の保管や人質の監禁、複雑に張り巡らされたトンネル網を用いて戦闘員の移動を行うための拠点としての使用はされてはいないとしている。11月15日にアル・シファ病院を制圧したイスラエル軍は、その主張の裏付けとなる証拠を未だに示していない。

現地メディアによると、アル・シファ病院には集中治療室の22人と未熟児36人を初めとして少なくとも650人の患者がおり、それに加えて約400人の医療スタッフがいるという。2,000人以上のガザ地区住民もアル・シファ病院の施設内に退避している。

破壊と物資不足の最中、エジプトとの国境にあるラファ検問所からガザ地区への人道支援物資の持ち込みをイスラエルが制限しているため、ガザ地区の医師たちは麻酔や鎮痛剤無しで帝王切開を行うなど、極端な手段を取ることを余儀なくされている。

「出産中に合併症の危険にさらされる女性もいます。この問題を解決しようにも、(人員も)機材、(または)時間が無いため、(医師たちは)子宮摘出という極端な選択を迫られることがあります」と、アクションエイド・スペインのジェンダーと権利擁護の専門家であるソライダ・フセインーサッバー氏はアラブニュースに語った。

現地メディアによると、ガザ地区北部で唯一産科の医療サービスを提供しているアル・アウダ病院では、11月第2週の週末、医師たちは非常に切迫した状況下で16件の帝王切開を行ったという。

フセイン・サッバー氏は、ガザ地区には専門的な訓練を受けた産科医や看護師が数多くおり、私立や公立の産科病院もあるものの、「現況、通常通りの稼働は出来ていません」と語った。

こうした状況であっても、「避難場所を初め、あらゆる場所で医療従事者たちは…可能な限りのことをしています」と、フセイン・サッバー氏は付け加えた。

米国を拠点とする医療NGOであるメッドグローバルの代表であるザー・サルール氏は、こうした極端な状況で帝王切開を行うことの危険性について、「通常、医師は可能な限り早く分娩させようとします」が、帝王切開を行うには「多層の切開」を行い、その後「多層を縫合」する必要があるのだと解説した。

麻酔を用いない、または、部分的な鎮痛剤すら無しでのこうした手術には非常に強い苦痛を伴う。

「ご想像通り、これは非常にトラウマ的な経験です。心的外傷後ストレス障害となりかねないほどの経験なのです」と、サルール氏はアラブニュースに語った。医療専門家たちは、また、母親たちを出産から3時間以内に退院させるよう強いられています。こうしてさらなるリスクが発生しているのです」

分娩後には多量出血を初め種々の合併症を発症する可能性が高まるため、出産を終えたばかりの母親は通常であれば最低24時間は観察下におかれる。ガザ地区では、今回の戦闘が開始される以前から「(妊産婦の)死亡の2大原因は出血と敗血症だったのです」と、サルール氏は述べた。

「清潔な水と衛生設備の不足によって、感染症や敗血症の危険性がさらに高くなります。こうした患者が合併症を起こした場合に輸血するための血液(さえも)が(ガザ地区の病院には)ありません」

こうした状況では、母子は、出産という試練を乗り越えたとしても、依然として危険に晒され続けることになる。衛生設備や栄養価の高い食物、清潔な飲料水、安全な睡眠場所、その他の快適さのための基本的な設備や必需品の欠乏が健康と発育を脅かすのである。

ハーグでパレスチナ人の子供たちを支援するプラカードを掲げる抗議行動参加者。(ゲッティイメージズ)

授乳中の母親の脂肪酸とビタミンの欠乏は、新生児の免疫系を損ない、感染症や認知発達上の問題を引き起こすリスクがあるとサルール氏は語った。

ガザ地区に留まることを余儀なくされている女性たちの1人であるファティマさんは、生理用ナプキンが入手できないため、清潔な布地を用いておりものを処理している。恥ずかしく、また、プライバシーも十分確保できないので、その布地は埋めたとファティマさんはアクションエイドに語った。

国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、10月7日以降、140万人以上のパレスチナ人が退避している。その多くは病院の外に仮設テントを張って避難所としているが、学校の廊下に入り込んだり、野宿をしたりしている人々もいる。

メッドグローバルのサルール氏は、食料や清潔な水が欠乏しているため、栄養失調状態の妊婦は「早産」の危険性に晒されており、これが胎児や新生児の疾病率や死亡率にも影響を与えているとの警告を発した。

他方、MAPのシャルトゥート氏は、産科の医療サービスの利用が増々困難となるにつれて、「母体の死亡数が増加し、ストレスによる合併症が急増し、栄養不良が深刻化し、小児期の生存に悪影響を与えることになるでしょう」と注意を喚起した。さらに、「燃料が無いと、新生児ケアに依存している未熟児は生命の危機に直面することになります」と、同氏は述べた。

シャルトゥート氏は、「アル・アウダ病院の産科医療は危機に瀕しています。医師たちからは、家屋への空爆により早産が急増しているとの報告がありました。母親が瀕死の状態で横たわり、早産が起きてしまうという胸が張り裂けるような危機が発生しているのです」と付け加えた。

アルシファ病院では、新生児治療室が機能停止となり、11月14日に3人の未熟児が死亡した。同病院の責任者によると、保育器用の電気と燃料の不足により、他に少なくとも36人の未熟児の生命が危険に晒されているという。

ガザ地区では、死傷者の70%以上が女性と子供で占められており、その内4人に1人が再生産年齢の女性であるため、妊産婦医療のサービスを利用可能な状態にすることが極めて重要なのだとシャルトゥート氏は語った。

食料や燃料が欠乏する中、パン屋でパンを買うために列を作って待つパレスチナ人たち。(ロイター通信)

「ガザ地区では、母親たちと新生児たちの生命を守るために緊急の支援が必要とされています」と、シャルトゥート氏は述べた。そして、「妊娠中の女性たちや乳児たちにとって、停戦は必要不可欠なのです」と、同氏は付け加えた。

シャルトゥート氏は、「すぐにでも燃料や援助物資、専門家による医療を提供する必要があります。そうしなければ、私たちは感染症に脅かされることになります。迅速に行動しなければ、大規模な飢餓や治療可能だったはずの死、医療システムの崩壊がすぐに起きてしまうのです」と述べた。

「人道的破滅を阻むためには、ガザ地区への入口を複数開設することが非常に重要です。私たちの呼びかけは明確です。壊滅的な危機を避けるために今すぐ行動してください」

MAPは、出産や女性と乳児の治療を支援するために用いることのできる医薬品や医療消耗品など多様な物資をガザ地区に提供してきた。「私たちMAPは、ガザ地区におけるパートナー組織であるアード・エル・インサンと協力し、確保していたすべての医薬品と食料を栄養失調の子供たちとその家族たのために放出しました」と、シャルトゥート氏は付け加えた。

セーブ・ザ・チルドレンとアクションエイドも、同様に、即時停戦と人道回廊の開設を求めている。

「そのためには、ラファ検問所の開通とイスラエル占領軍による国際人道法の順守を促し、援助物資のガザ地区への輸送と同地区からの民間人の救出についてのイスラエル側の応諾を得るために、一元化され調整された呼びかけと政治的な圧力が必要です」と、アクションエイドのフセイン・サッバー氏は語った。

ハマスが運営する保健省によると、11月14日時点で、少なくとも11,320人がガザ地区内で殺害され、内4,650人以上が子供、3145人以上が女性であるという。総計で198人の医師たちも死亡している。

11月初め、アントニオ・グテーレス国連事務早朝は、ガザ地区が「子供たちの墓場」となっており「人間性の危機」が発生していると述べた。

ガザ地区北部からパレスチナ人たちが立ち去る中、自らの子供の顔を煙から守るために覆う母親。(ゲッティイメージズ)

セーブ・ザ・チルドレンは、「この人道的大惨事において、民間人、とりわけ子供たちは、現在進行している武力行使の最も大きな代償を払わされ続けています」と、アラブニュースへの声明の中で述べた。

「子供たちが壊滅的な速度で殺害され、家族全員が戸籍簿から抹消され、生存した家族が自分以外皆無という人々が子供を含めて増えつつあります」

学校や病院に対する攻撃は、「子供に対する深刻な侵害行為であると国連に看做されており、国際人道法違反になり得ます」

NGOのセーブ・ザ・チルドレンは、「継続的で組織的な攻撃」の終結を呼びかけ、「病院や学校が戦場となることがあってはなりません。そして、子供たちが標的化されることもあってはならないことです。しかし、ガザ地区では、病院も学校も子供たちも毎日攻撃されています」

「たとえ戦争の最中であろうとも、人間性の基本的な原理は有効であり何に対しても優先しなければなりません」

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