
ロンドン:1週間の一時停戦は、パレスチナ領域の飛び地で現在包囲下にあるガザ地区のパレスチナ人たちにとって、つかのまの休息期間となった。しかし、状況は依然として絶望的なまでに深刻であり、12月1日の戦闘再開後に壊滅的な状況が発生する可能性も低くない。
米国のアントニー・ブリンケン国務長官は、一時停戦でハマス側が拘束している人質とイスラエル側が収監しているパレスチナ人の交換が実現したこと踏まえ、ガザ地区において軍事作戦を再開する前に、パレスチナ市民の安全を考慮する必要があると11月30日にイスラエルに伝えた。
しかし、イスラエル当局者らは、ガザ地区とヨルダン川西岸地区の恐らくは両方でハマスとの全面的な戦争を継続すると確言している。恒久的な停戦が実現しない限り、さらなる戦闘の危険がつきまとうため、再建の希望は無に等しい。
ハマスによる10月7日の凄惨な襲撃への報復としてイスラエルが軍事攻撃を開始して以来、ガザ地区は未曾有の規模の破壊を受け、その住民は退避し苦難に耐えている。
国連の統計によると、イスラエル軍の容赦ない空爆で非常に多くの建造物が瓦礫と化し、46,000戸以上の家屋が倒壊し、さらに少なくとも234,000戸が損傷を受けた。
ガザ地区の220万人の人口の内、北部住民の大多数を含む4分の3が、この激烈な攻撃により、自宅からの退避を余儀なくされた。
パレスチナ領域の飛び地であるガザ地区では、15,000人近いパレスチナ人が殺害され、その40%が子供だった。さらに6,500人が行方不明かまたは破壊された建造物の下敷きになっていると考えられている。
ノルウェー難民評議会の中東担当メディア・アドバイザーのアーメド・バイラム氏は、「ガザ地区北部は、人々が生き延びられたことを奇跡だと感じている被災地なのです」とアラブニュースに語った。
「破壊と人的損失は、ガザ地区で私たちがこれまでに見聞したレベルを遥かに凌駕しています。2014年の直近の大規模紛争と比較すると、今回の戦闘では最初の2週間でより多数の人々が死亡しました」
バイラム氏は、推定では「170万人が退避を余儀なくされています」と述べ、「数十万人が、他に行き場が無いという理由で、ガザ地区北部に残っています」と付け加えた。
7日間の一時停戦にも関わらず、パレスチナの公的機関や人道支援団体は、正確な死傷者数を把握出来ておらず、ガザ北部から退避出来ていない人々の数はそれよりもさらに曖昧なままとなっている。
「ガザ地区北部に残っている人々の数を推測することは非常に困難です」と、オックスファムの政策責任者であるブシュラ・カリディ氏はアラブニュースに語った。「私たちが聞いたところでは、20万人から50万人の間の人々が依然として残っているとのことです」
カリディ氏は、推定180万人が南部への退避を余儀なくされ、「そして、退避している人々と元々の住民はすべて、この…何と言うのでしょうか、ガザ地区全体の半分の面積に押し込められています」
イスラエル軍の空爆とハマスのロケット弾攻撃が7週間継続した後、両者は一時停戦に合意し、その後、当初4日間だった停戦期間は延長された。カタールの仲介による最初の合意には、イスラエルで収監されている150人のパレスチナ人とイスラエル人の人質50人の交換が含まれていた。
イスラエル軍は、10月13日、ガザ地区北部の住民に対して、安全のためにただちに南部へと退避するよう命じた。
ガザ地区で活動中の現地メディアと非政府機関は、包囲下のガザ地区には安全な場所などなく、イスラエル陸軍やイスラエル国防軍が指定した「人道回廊」さえ安全ではないと伝えた。
パレスチナ人家族らは、最も大切な所持品を小型車やピックアップトラックに詰め込んで、南部へと急いだ。自動車を確保出来なかった人々は、激化する戦闘の中、街路に点在する遺体を見せぬよう子供たちの目を覆い、イスラエル軍の銃撃から身を隠しながら徒歩で移動した。
民間人にとってガザシティから退避する唯一の経路は、ガザ地区全体に伸びる南北の幹線道路であるサラハ・アルディン通りだけだった。
イスラエルは、11月10日、ガザ北部のパレスチナ人が指定された経路を通って避難できるよう空爆を毎日4時間停止することに合意した。
その結果、数万人のパレスチナ人が、ガザ地区南部最大の都市であるハーン・ユーニス東部の国連が運営する学校やその場しのぎの仮設テントに避難した。
ガザ地区の年配の住民は、1948年のアラブ・イスラエル戦争で、現在のガザ地区住民の内160万人の直系尊属にあたる70万人のパレスチナ人が追放された事件を意味するアラビア語の言葉「ナクバ」を思い出しながら、歴史が繰り返される様子を目の当りにしている。
ハーン・ユーニスの人口は40万人超だった。ガザ地区は16年間イスラエルによる封鎖下にあり、退避してきた家族がこのハーン・ユーニスに集まるにつれて既に深刻だった人道危機は一層悪化した。
オックスファムのカリディ氏は、こうした退避命令は「強制的な移住に相当するため国際法の重大な違反です。また、強制移住は戦争犯罪に相当する可能性もあります」として、取り消されるべきだと語った。
11月、世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイェソス事務局長の言う「大惨事のための処方箋」に呼応するかのように、イスラエルはガザ地区南部沿岸のアルマワシ・キャンプに安全地帯の設置を提案した。
アルマワシ・キャンプは、カリディ氏によると、14平方kmの面積を持つ、「ロンドンのヒースロー空港ほどの大きさの場所で、彼ら(イスラエル政府の関係者ら)はそこに100万人の人々を押し込んで、人道的な安全地帯ということにしてしまおうとしている」のだという。
カリディ氏はこの提案を「完全に非人道的」と断じ、「絶対に安全地帯などというものは存在しません。歴史的に、安全地帯は、実際の所、人々に危害を加えるために利用されています」と語った。
このような狭い地域において人道支援物資を約100万人の人々へ配布しようとすることは、「ロジスティックス上の悪夢」になるとカリディ氏は指摘した。
「安全地帯に関連したもう一つの懸念は、3万人から5万人の負傷者がいるという事です。その中には重傷者もいるのです」と、とカリディ氏は付け加えた。
「医療物資が不足し、稼働している病院が皆無に近い状態なのです」
カリディ氏は、他の主要な懸念事項として、上下水道や衛生設備が機能していないことを挙げ、胃腸炎や下痢などの感染症の蔓延が加速され得ることを指摘した。こうしたインフラの機能が停止していることは、「爆発物よりも多数の人々を死に至らしめる」可能性に繋がる。
10月中旬以来、ガザ地区では44,000件以上の下痢の症例が発生しており、清潔な水が不足する中、幼児にとってのリスクが特に増大しているとWHOは発表した。
パレスチナ人たちが避難先としているハーン・ユーニスやラファといった都市の状況は、特に冬の天候が到来していることもあり、改善の兆しを見せていない。
「ハーン・ユーニスやラファの避難所では、狭いスペースに人々が詰め込まれてあふれそうになっています」と、ノルウェー難民評議会アーメド・バイラム氏は語った。「病気の乳幼児や大人は、ガザ史上最悪の冬を控えて、全員が伝染病の危険にさらされています」
「全員に行きわたるだけの食料も無く、清潔な飲料水が贅沢品となってしまっています。ガザ地区の人々は、子供たちが食べられるものを調理したり、一日を生き延びるためのパンを焼いたりするためだけに、ドアや学校の机、窓枠など木製のものは何であれ燃やしています」
「このような苦痛を味わなければならない場所がこの時代にあって良いはずがありません」と、バイラム氏は付け加えた。
ハマスとイスラエルの一時停戦により、ガザ地区の住民は、屋外で自宅の残骸をかき分けて暖かい服を探したり、より多くの遺体を回収したりできるようになったものの、イスラエルによる一層大掛かりな攻撃という迫り来る脅威は依然として消え去っていない。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、一時停戦が終了すればハマスに対する軍事作戦を再開すると再三警告している。停戦が終了した現在、イスラエルは地上作戦をガザ地区南部に拡大するものと見込まれている。
11月中旬、イスラエル軍は、ハーン・ユーニスの各所で、住民に退避を命じるチラシをまいた。
バイラム氏は、「ガザ地区内には住民の退避先がもうありません。避難シェルターのいくつかには50人もの人々が収容されています。イスラエルが地上作戦を進めた場合には、ガザ地区が現在(の大惨事)から以前の状態にまで持ち直す見込みは皆無になります」
カリディ氏は、ガザ地区は「イーストロンドンと同程度の広さしかない」ことを指摘し、その境界線はイスラエルによって封鎖され管理されていると述べた。「そのため、国際社会は(恒久的な)停戦とパレスチナ人の自宅への帰還を求めて大きく声を上げ続けてきたのです」と、カリディ氏は語った。