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AI革命に伴うリスクは克服可能

サウジアラビアなど中東のいくつかの国は、AIに多額の投資を行っている。(AFP)
サウジアラビアなど中東のいくつかの国は、AIに多額の投資を行っている。(AFP)
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16 Dec 2023 12:12:58 GMT9
16 Dec 2023 12:12:58 GMT9

人工知能(AI)は、疑いの余地なく、私たちの生活や働き方に革命をもたらしている。AIは、世界で最も急速に進歩をしているテクロノコジーの1つであり、2023年には、ヘルスケアや金融、交通、エンターテイメントといった多様な産業での応用が一般化している。とはいえ、以下のようないくつかの重要な疑問や懸念がAIとの関連において浮上してきた。AIの普及は、社会的、技術的にどのような意味を持っているのだろうか?AIの雇用市場への影響はどのとうなものだろうか?そして、AIが引き起こす変化に対して、社会はどのように労働力を整備できるのだろうか?

多くのセクターで、通常であれば人間の知性を必要とするタスクがAIで代替されつつある。AIは、コンピューターシステムがデータを分析・解釈し、状況の変化に適応して、時間の経過と共にパフォーマンスを改善させるようなアルゴリズムとモデルに基づいて構築されている。

AIの応用は、音声認識や画像認識のような単純なタスクの実行から進化し、SiriやAlexaといったバーチャルアシスタント、さらに現在では、ヘルスケアや金融、自律走行車で用いられる複雑なシステムを稼働するまでになっている。

たとえば、ヘルスケアのシステムにおいては、AIのアルゴリズムは、X線撮影やMRI、CTスキャンなどの医療画像を検査・分析し、パターンや異常を検知することで、放射線科医の診断支援に役立っている。これは、医療分野でのイノベーションの奨励、そして、ビッグデータやAIを初めとする新しいテクノロジーへの投資が重要であることの証左となっている。

中東の複数の国がこのAIの分野に多額の投資を行っている。サウジアラビア保健省は、先月、こうした今までにないテクノロジーを用いてデジタル変革を促進させるために、医療技術の大手企業であるベクトン・ディッキンソン社と覚書を交わした。これは、正しい方向への一歩である。

AIの使用にはいくつもの利点がある。まず第1に、効率と生産性の向上を挙げることができる。換言すると、AIシステムは、反復的なタスクを自動化することで、企業等の組織がプロセスを合理化することに役立つというわけである。また、これによって、組織は、人的資源を一層複雑で創造的な取り組みに割り振ることも出来るようになる。こうしたAIによる効率の向上は、製造や顧客サービス、データ分析といった産業界で特に明白となっている。

人々の脳裏に浮かぶ最も一般的な懸念の1つは、AIと雇用の関わりについてである。

マジッド・ラフィザデ博士

第2に、AIのアルゴリズムは、膨大なデータを信じられないほど速いスピードで分析し、人間による分析では不可能な有益な知見の獲得やパターン抽出を行うため、意思決定プロセスの強化、そして意思決定に要する時間の大幅な節約が可能となる。AIのこの機能は、ビジネス戦略から医療診断に至るまで、多様な分野において、意思決定を行う人々が適切な情報に基づいた選択を行うにあたって有用である。

第3の利点は、個々人に最適化されたエクスペリエンスの向上ということに関わっている。例を挙げると、eコマースやテンターテイメント、マーケティングなどの分野では、AIアルゴリズムが、ユーザーの好みや優先順位、行動を調査・分析し、そのユーザーの選択傾向に合わせた製品やサービス、コンテンツを推奨できる。その結果、ユーザーの満足度も向上するのだ。

しかし、こうした利点にも関わらず、AIの開発や導入に伴う懸念や潜在的なリスクも存在する。人々の脳裏に浮かぶ最も一般的な懸念の1つは、AIと雇用の関わりについてである。

問題となるのは、AIや自動化テクノロジーの進歩と歩調を合わせるようにして、特定の職が自動化される懸念があるということだ。これは。一部労働者の失業や不完全雇用へと繋がり得る。例としては、製造業、カスタマーサービス、運送業などの職種の一部は、他のセクターの職種よりも自動化によって発生するリスクが高いと考えられている。しかしながら、AIに関連した分野で、新たな職が創出され得る点に注目することも重要である。

熟考を要するもう一つのAIのリスクは、社会的公平性に関連した問題である。将来、AIはどのように公平性を獲得し得るのか、そして社会にどのような影響を与え得るのだろうか?この問いに答えるためには、AIが人間側から提供されたデータと情報にのみ基づいて稼働することに注意を向けることが重要である。つまり、AIシステムはトレーニングに用いられたデータに内包されたバイアスを受け継ぎ持続させてしまう可能性があるのだ。

従って、入力するデータやトレーニング用データに偏向的な見解や偏見が含まれていた場合、そうしたデータを使って構築されたAIシステムは偏った決定を行うようになり、既存の社会的不平等を強化・固定化してしまいかねない。一例を挙げると、顔認識システムが、特定の人口統計学的グループのデータに基づくトレーニングを受けた場合、他の人口統計学的グループに対しては非効率的に動作し、それが差別的な結果に繋がる可能性があるのだ。

そして最後に、プライバシーとセキュリティの問題に注意を向ける必要がある。AIシステムや技術は、サイバー攻撃を受けたり、悪用されたりする可能性があり、セキュリティ上の重大な脅威となり得る。さらには、AIの実務的応用のために膨大な個人データを収集し分析することは、プライバシー関連の懸念に繋がる。例えば、悪意を持った者がAIシステムを操作して誤った決定へと誘導した場合、経済的、物理的損害が発生し得る。 プライバシーの文脈では、AIシステムが監視に用いられたり、個人情報が不適切に取り扱われ得るという懸念が生じる。

こうしたリスクに対応することは可能ではある。ただし、そうしたリスクの対応にあたっては、適切な考察に基づいたAI技術の開発と使用を確実なものとするために、技術的なソリューションと倫理的配慮、さらには考え抜かれた規制の枠組みの連携が必要であることに留意しなければならない。

端的に言えば、AIは、多種の産業界を一変させ、私たちの働き方や生活を変革し、さらには、平凡なタスクの自動化やほぼ全セクターにおける効率の改善、そして創造的なソリューションの提供を通じてテクノロジーの未来を形成する力を有している。AIに関連する倫理的懸念や危険性は、しっかりとした判断に基づいた振興と導入によって適切な対処が可能である。また、そうした対処により、利益の最大化と潜在的リスクの最小化が達成され得るのだ。

  • マジッド・ラフィザデ博士は、ハーバード大学で教育を受けたイラン系アメリカ人の政治学者。 X: @Dr_Rafizadeh
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