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独占記事 : カルロスの追求、日本の努力とカネの無駄

レバノンの針葉樹の山でスキーをする、まだ幸せだった頃のカルロス・ゴーン(ゴーンの家族の友人から提供された写真)
レバノンの針葉樹の山でスキーをする、まだ幸せだった頃のカルロス・ゴーン(ゴーンの家族の友人から提供された写真)
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04 Mar 2020 04:03:24 GMT9
04 Mar 2020 04:03:24 GMT9

レイラ・ハトゥーム

Arab News Japan

ベイルート— 今後2~3カ月以内に裁判が行われる見込みのカルロス・ゴーン氏は、日本当局による身柄引き渡しに向けた努力に揺らぐこともなく、「レバノンにいると安心できる」と話し、家族や友人らと地中海の穏やかな気候を満喫している。

会計上の不正行為のための2018年の逮捕劇、および2019年末の独創的な脱出劇で世界中のヘッドラインを飾った逃亡者、ゴーン日産・ルノー元会長は今、日本を出たときとは大きく違う環境にいる。

そしてかつての自動車業界の大物は、何としてでも日本や他国の牢獄に引きずり戻されないようにする構えだ。

今週初めにゴーンの身柄引き渡しを求めてレバノンに到着した日本の義家弘介法務副大臣は、首都東京からレバノンのベイルートまで、8,984kmの距離を渡ってきたが、それは無駄に終わったと政府関係者や法律の専門家らは話す。

一部では、レバノンと日本間で送還に関する合意もない状態でこのような無駄な訪問をすることは、日本国民の税金の無駄遣いだという意見もある。

2日、Arab News Japanの電話インタビューに匿名で応じたゴーンの友人によると、ゴーンは義家副大臣の訪問について事前に把握していたが、「身柄が引き渡されることがないと保証するレバノンの法律について確信があったため、(訪問を)気にしてはいなかった」という。

レバノン国民として法律で守られていることから、複数のレバノン政府関係者や政治家も、身柄は引き渡さないとゴーン氏に約束した。

レバノンのミシェル・アウン大統領は2日に義家副大臣と会談し、「日本とは最善の関係を持ちたい」と主張しながらも、「レバノンの司法は至上であり、レバノン国民およびレバノンの領土に住む人々に対する権限は絶対的なものだ…」として義家副大臣の要求を正式に断った。

アウン大統領はまた、ゴーン氏の逮捕以降、日本側から十分な協力が得られなかったことについて、「レバノンは逮捕や事情聴取となって以来、ゴーン氏に関して1年以上にわたり日本政府に何度もコンタクトしたが、日本当局から正式な返答は受け取れなかった」と話した。

日本当局は以前、国際刑事警察機構にゴーン氏の逮捕と身柄引き渡しを求めて「レッド・ノーティス」と呼ばれる手配書を発行しており、今回の義家副大臣の正式な要求で、日本政府によるゴーン氏の身柄引き渡し要求をレバノン政府が断るのは2度目となる。

ゴーン氏と直接コンタクトを取っている、家族ぐるみの友人は3日、「日本が彼をレバノンから引き戻すのは不可能で、彼は自分の国で家族に囲まれて安心できている」とArab News Japanに伝えた。

「彼は弁護団と少なくとも週に2回は会って、弁護に必要な書類を揃えています。彼は自身の無実を確信していて、日産や日本政府の主張に対して異議を申し立てることが可能になりました」とゴーン氏の友人は主張する。

この友人はまた、現在ゴーン氏はメディアに直接話をしないよう忠告されている状況だと説明した。

「疑わしきは罰せず」を原則とする司法制度において、レバノン検察のガッサン・ウベイダト長官はゴーン氏から単に事情聴取をしただけで、日本側が法的書類を提出するまで彼を釈放とした。その頃には、ゴーン氏が容疑について有罪であるか、またそれがレバノンにおいて罰すべき犯罪かどうかを決断するための裁判が設定されることになる。

ゴーン氏の妻キャロル氏も同じ状況にあり、日本政府は東京からの「ミッションインポッシブル」な逃亡劇を手助けしたとして、国際刑事警察機構を通してレッド・ノーティスを発行した。

ゴーン氏がレバノンに入国したときに同国の法相を務めていたレバノンのアルバート・セルハン元法相・治安判事によると、「レバノンの法律はゴーン氏をレバノン国民と認めているため、彼には個人の法的保護が与えられていて、自国での公正な裁判が保証されている。

またレバノンと日本の間に犯罪人引き渡しの合意がなく、彼が罰すべき罪を犯したと疑われたり訴えられたりした場合、法律ではレバノンで裁判を行うことになっている」という。

一方、ゴーン陣営は楽観的で、ゴーン氏がこれまで日本では不可能だったと繰り返してきた公正な裁判がレバノンで行われることで、彼の無実が証明されると考えている。

1月、ベイルートの会場を埋め尽くすほどの記者が国内外から集まった、日本脱出後にゴーン氏が行った記者会見で、彼は日本の不公平な司法システム、彼に対する厳しい措置、彼に批判的な世論の形成、そして正式な告発や犯罪の証拠がない状況で繰り返された逮捕を繰り返し指摘した。

過去1年間を通し、日産はゴーン氏に関する証拠や書類を同氏の弁護士である弘中淳一郎弁護士に共有することを拒んできた。弘中氏はゴーン氏に対する日本政府と日産による裁判を併合させることで日産の告発書類を入手しようと努めましたが、実現しませんでした。これによりゴーン側は適切な弁護を準備することができませんでした。

しかしレバノンでは状況が逆で、原告側、被告側共に書類を提出しなければないため、それを基に訴訟や弁護に向けて準備をする。

ゴーン氏の友人はさらに、「彼は日本を出国した方法に関する罪についても気にしていません。彼にとっては、鉄のカーテンと呼ばれたソ連から西欧に逃げ、一度も裁判にかけられることがなかったロシア国民と同じだと考えているようです」と付け加えた。

おそらく、この点に関して彼が平然とした態度でいられるのは、レバノンに合法的に入国しているからだろう。

アウン大統領とアッバス・イブラヒム公安総局長官によると、ゴーン氏は「フランスのパスポートとレバノンのIDカードを持って」空港から「合法的にレバノンに入国した」という。

日本を出てベイルートに着くまでの状況や経緯について、アウン大統領は、「いまだに明らかでない」としているため、今後の調査はレバノンの司法に委ねられている。

ゴーン氏に近い人々は、彼が「今後2~3カ月の間にレバノンでの裁判が始まると見ていて、日本の司法当局には権利はあるが、出席しないと考えている」と話す。

しかし日産は、裁判を見守るため独自の弁護団を送り込む可能性はあるという。日産とは連絡が取れていない。

その一方、司法筋によると、ゴーン氏はルノーと日産に対して立場を逆転させる構えで、「損失した利益や弁護士費用の他、給料、退職金、不当解雇の慰謝料など、数千万ドルを求めて訴える」計画だという。

3月9日に66歳となるゴーン氏は、アジアでは日本、欧州ではフランス、そして以前は米国と3か国で、会計上の不正行為の罪で告訴されている。米国については、昨年当局との合意に達し、決着した。

最近になり、日本当局は裁判を待つ保釈中の身での不法出国に対し、罪を追加するとした。

だがそれは今のゴーン氏にとって最も小さな問題である。

フランスの消息筋は、同国ナンテール市当局が、背任罪と横領などの不正行為でゴーン氏を訴える準備が整ったとArab News Japanに確認した。

「この申し立ては確実なもので、一部の弁護士らの話によると、金融ではなく刑事事件として扱われるとのことです。」

ここでフランスと日本の当局が、レバノンによる判決を受け入れるのか、それともゴーン氏の訴訟取り下げを拒むのかが、本当の法的な問題となる。

代償付きの自由

かつてルノー・日産・三菱アライアンスを率いった男は、寂しい男ではなくなったが、まだまだ安心できる状況ではない。

ゴーン氏の支援執行委員会のコーディネーターであるイマド・アジャミ氏が2019年10月にArab Newsに対し、ゴーン氏が、「後をつけられているのではないか」と恐れていたと話した当時と状況は似ている。東京の高級住宅街である港区で、「彼は後をつけられているという考えに執着するようになった」という。今また同じシナリオが彼の頭の中を巡っているだろう。

ゴーン氏は、日本人記者数人が彼の自宅近くのアパートに部屋を借り、鷹のように彼を見張っていることを知っている。

「ゴーン氏はこれについて何度も文句を言っていますが、日本人たちは何の違法行為もしていないので、まったく何もできないのです」と友人は話す。

だが、東京で日本当局によって強いられていた隔離生活とは違い、ゴーン氏は、「レバノンで普通の生活をしています。彼は体重も増え、レストランでの気軽なランチやディナーを楽しんでいます。また、シャレーを建てる計画のシダ―マウンテンでスキーをしたり友人に会ったりしています」と、家族ぐるみでゴーン氏と付き合いのある別の友人は言う。

2019年10月に書いたときとは違い、彼はもう、友人がめったに面会にも来なかった孤独な男ではない。

ゴーン氏はレバノンで再びスターとなったのだ。

レバノン人たちは彼を取り巻きたがり、まるでセレブのように扱う。

彼は2018年の逮捕以来、ずっと会いたがっていた妻と子供たちに囲まれている。

だが、ゴーン氏ができないことが1つある。旅行だ。

フランスと日本で積みあがる数々の罪、国際刑事警察機構の手配書、またプライベートジェット機で誰にも気づかれずに国内の空港を経由したことについて彼を追っているトルコ当局などが、彼をレバノンに拘束している…「別にそのことで彼が気を揉んでいるわけではありませんがね」と彼に会った人々は言う。

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