
ドバイ:イランとアメリカは激化する代理戦争を繰り広げており、それは中東のいくつかの国家にまたがって展開している。どちらも直接対決を望んでいるようには見えないが、忠誠心が分断された脆弱なアラブ諸国が最大の代償を払っている。
本格的なガザ紛争に加え、中東のいくつかの地域で低強度の紛争が激化しているため、これが中東専門家の一致した見解のようだ。
昨年10月7日以来、イランの支援を受けた民兵は、イスラエル・ハマス戦争におけるアメリカのイスラエル支援に反発し、シリア、イラク、ヨルダンの米軍基地や資産に対して170回以上の攻撃を仕掛け、アメリカの報復を促した。
一方、イエメンではイランの支援を受けるフーシ派が紅海やアデン湾の商業船舶や軍用船舶への攻撃を繰り返しており、同様にアメリカとイギリスによる民兵への報復攻撃を促している。
米国とイランが国家間の直接対決に巻き込まれる可能性は低いとアナリストは見ているが、イスラエルによるガザでの軍事作戦が続く限り、イランの代理勢力による攻撃は発生すると予想される。
専門家の中には、イランはバイデン政権が地域のエスカレートを恐れていることを敏感に察知し、ガザでの戦争の行方に影響を与える手段として、この脅威を利用しようとしていると考える者もいる。
ワシントンにあるアラブ湾岸諸国研究所のシニアフェロー、アリ・アルフォネ氏は、「イランはイスラエルやアメリカに対し、国際海運に対する代理攻撃を直接命令したり、間接的に奨励したり、黙認したりすることで、この状況を利用している」と考えている。
こうしてイランは、「恐怖に怯えるバイデン政権がイスラエルへの圧力を強め、ハマスが全滅する前に戦争を終わらせることを期待している」とアラブニュースに語った。
しかし、この代理戦争はシリア、イラク、ヨルダン、イエメンの主権領土で繰り広げられている。これらの国々のアラブ人の命は消耗品として扱われていると言うコメンテーターもいる。
「この攻撃は、一方ではアメリカとイスラエルが、他方ではイランが、血みどろの駆け引きをしていることを示唆していると思います」と、Asharq Al-Awsatのジャーナリスト、アヤド・アブ・シャクラ氏はアラブニュースに語った。
イスラエル・アメリカ陣営とイラン陣営という2つの陣営の間に、”生き残り戦争 “や “排除戦争 “があるとは思えない。まるでバザールのように、血で血を洗う駆け引きが行われている。イラン人はアラブ人の体を使ってアメリカ人と戦っているのた。
しかし、この駆け引きは手に負えなくなる可能性を秘めている。
1月28日、シリアとイラクの国境に近いヨルダンの辺境施設、タワー22に駐留していた米軍がドローン攻撃を受け、米兵3人が死亡、34人が負傷した。
ジョー・バイデン米大統領は、ドローン攻撃はイランに支援された民兵がイラクから仕掛けたものだと述べ、アメリカの好きな時に好きな方法で報復すると宣言した。
2月3日、米軍はイラクとシリア全土の7カ所で、イランに支援された民兵組織やイスラム革命防衛隊が使用する指揮統制本部や武器貯蔵所を含む85の標的に対して空爆を開始した。
これに続いて2月7日、バグダッド東部を無人機で攻撃し、ヨルダンでの米軍攻撃に責任があるとみなしたイラクの民兵組織カタイブ・ヒズボラの司令官アブ・バキール・アル・サーディを殺害した。
イランはもちろん中東の民兵組織との関係を否定している。例えば、イランの国連大使アミール・サイード・イラバーニ氏は、1月29日の国連安全保障理事会への書簡の中で次のように述べている: 「イラク、シリア、その他の地域を問わず、イラン・イスラム共和国の支配下で直接的または間接的に活動する、あるいはイラン・イスラム共和国のために行動する、イスラム共和国やイラン軍に属するグループは存在しない」
「したがって、イラン・イスラム共和国は、この地域内のいかなる個人または集団の行動にも責任を負わない」
共和党議員の中には、イランに対する直接攻撃を許可するよう、たとえそれがエスカレートの火種になる危険性があったとしても、政権に要求する者もいた。また、バイデンの対応が遅すぎる、敵に予兆を与えすぎると非難する議員もいた。
選挙期間中ということもあり、バイデンはまた新たな中東戦争に引きずり込まれることを警戒し、アメリカの報復範囲を限定しようとしているようだ。
「バイデン政権は、ヨルダンでの3人のアメリカ軍兵士の殺害に厳しく反応することで、イスラム共和国のハッタリを部分的にかわした」
「アメリカ人の命が失われたことへの報復は正しい対応だったが、アメリカはイスラム共和国に、将来イランの領土を含むかもしれないアメリカの報復について、推測させておいた方がいいのかもしれない」
イランも同様に、自らの活動による潜在的な反撃を念頭に置いている。しかし、地域全体に張り巡らされた代理民兵のネットワークを通じて活動することで、テヘランはイスラエルやアメリカの標的への攻撃への関与を否定しつつ、利益を得ることができると考えている。
「ルホラ・ホメイニ師がイスラム革命の輸出を宣言した1979年以降、イラン人はIRGCを結成した」
イランの都市で戦うよりも、アラブの都市でアメリカやイスラエルと交渉戦争をするほうがいいというのは、ほとんど公然の秘密だった。
「彼らは最終的にベイルート、バグダッド、ダマスカス、サヌアを占領し、いまやイラン人ではなくアラブ人が犠牲を払う大虐殺を通じてアメリカ人やイスラエル人と交渉している」
とはいえ、アナリストによれば、ドナルド・トランプ前大統領の政権が2020年1月、イラク駐留米軍への攻撃計画を阻止するためとされる、コッズ部隊司令官カセム・ソレイマニの殺害を命じたときのように、イランは時に手を出しすぎ、より攻撃的なアメリカの反応を招くことがあるという。
「交渉の限界を思い知らされたのです」とアブシャクラ氏は言う。「たとえば、カセム・ソレイマニの暗殺は、そのようなことを思い出させ、大きな衝撃を与えた。アメリカもイランも『交戦規定』を尊重している」
今回のアメリカの報復は、確かに影響を与えたようだ。国防総省は2月12日、10月18日以来、イラク、シリア、ヨルダンで186人の米国人死傷者が出たと発表した。日後の2月13日には、米軍への攻撃はこれ以上なかったと発表した。
「ワシントンはまた、イランを直接攻撃することを急いではいないだろう。イランは、西側諸国がどのような役割でも『利用』できる大きなプレーヤーであることに注意することが重要だ」とアブシャクラ氏は言う。
「ワシントンが認めようと認めまいと、イランはスンニ派過激派の台頭に対する非常に重要な防波堤である。イランはまた、核武装したパキスタンに対する潜在的な対抗手段でもある。イランは、湾岸における中国の膨張に対する重要な防波堤である」
「イランを破壊する戦略的利益を持つ者はいない。アメリカも、ロシアも、インドも、イランの役割や影響力を無視することはできない。バイデン政権を批判する人々は、イランとの直接対決をためらう姿勢は、10月7日のハマス主導によるイスラエル南部への攻撃への対応で示された」と言う。
イスラエルがガザで報復作戦を開始したとき、アメリカは10月7日の攻撃の背後にイランがいるという証拠はないと言った、とアブシャクラ氏は言う。それから1、2週間も経たないうちに、アメリカは紛争が拡大することを望まないと言った。
「限定的なものにしたかったのだ。アメリカは、レバノンやイラクのイラン民兵との関わりを望んでいない。イランが手の内を明かしすぎて傲慢にならない限り、現在の戦闘はイランのアラブの付属組織に限定されたものにとどまるだろう」
アメリカもイスラエルも、親イラン派のイラク政権も、イラン自身も、直接対決には関心がない
イランはアメリカとの直接対決で得るものはほとんどなく、そのため自国に有利なように地域情勢を傾けるために代理勢力に活動を委託している。
同様に、イランがアメリカと直接衝突して得るものはほとんどない。その代わり、イランは自国に有利なように地域情勢を傾けるために、その活動を代理勢力に委託することができる。
イスラム共和国は10月7日にすべての目的を達成した。ハマスのイスラエル侵攻は、イスラエルの不死身神話を打ち砕いた。
イランはイスラエルに仕返しをした。イスラエルは長年、シリアでイランと同盟国の拠点を空爆し、イラン国内で作戦を展開してきた。
パレスチナの人々、さらには戦火に巻き込まれたアラブ地域の住民の利益は、地政学的な目標からすれば二の次なのだ。
「ハマスやパレスチナの市民の運命は、イスラム共和国にとっては何の関心もない」
「それゆえ、イスラム共和国はガザでの戦争を拡大させることには関心がない」とワシントンのアラブ湾岸諸国研究所のシニアフェロー、アリ・アルフォネ氏は言う。