
ベイルート:イスラエル占領下のゴラン高原で起きた大規模なロケット弾攻撃は、イスラエルとイランに支援されたレバノンの武装組織ヒズボラが本格的な戦争に突入するとの懸念に拍車をかけている。
イスラエルは日曜日、ヒズボラがイスラエル占領下のゴラン高原のサッカー場で、12人の子供らをロケット弾攻撃で殺害したと非難し、ヒズボラに対して徹底的に報復すると発表した。 ヒズボラは、10月7日のハマスの奇襲攻撃によるガザ戦争以来、イスラエルやその併合された地域で、最も多くの犠牲者を出した、マジュダル・シャムスへの攻撃について、いかなる関与も否定した。
これがイスラエルとヒズボラの敵対関係の背景である:
なぜ戦っているのか?
ヒズボラは、パレスチナの武装組織ハマスがイスラエル南部を奇襲攻撃し、ガザ戦争の火種となった、翌日の10月8日にイスラエルと交戦を開始した。ハマスと同盟関係にあるヒズボラは、イスラエルの攻撃を受けているパレスチナ人を支援するために攻撃を行っているという。
ガザ戦争は、イランの支援を受けた武装勢力を地域全体に引き寄せている。ヒズボラは、「抵抗の枢軸」として知られるイランの支援を受けたネットワークの中で、最も強力な構成勢力であると広く見なされている。
2023年1月2日、シリア国境近くのゴラン高原に設置されたイスラエル軍のM109 155mm自走榴弾砲 (AFP=時事通信)
ガザでの停戦が実現しない限り、ヒズボラはイスラエルへの攻撃を停止しないと繰り返し述べている。ガザに関連してはいるが、この紛争には独特の構図がある。イスラエルとヒズボラはこれまで何度も戦争をしてきた。最後の戦争は2006年であった。
イスラエルは長い間、ヒズボラを国境における最大の脅威とみなし、ヒズボラの兵器庫の増大とシリアに築いた足場に深く警戒してきた。
ヒズボラのイデオロギーは、イスラエルとの対立によって定義されている。1982 年、レバノンに侵攻したイスラエル軍と戦うために、イランの革命防衛隊に設立されたヒズボラは、長年ゲリラ戦を繰り広げ、イスラエルは2000年にレバノン南部から撤退した。ヒズボラは、イスラエルをパレスチナの占領地に建国された非合法国家とみなし、その消滅を望んでいる。
これまでの影響は?
現在の紛争は、すでに双方に被害をもたらしている。何万人もの人々が国境の両側で避難を余儀なくされている。イスラエルの空爆は、レバノン南部でヒズボラが活動する地域を攻撃し、シリア国境近くのベカー渓谷を攻撃した。イスラエルは時折他の地域も空爆しており、特に1月2日にはベイルートでハマスの上級司令官を殺害した。イスラエル軍の攻撃により、レバノンのヒズボラ戦闘員約350人と、医療関係者、子供、ジャーナリストを含む民間人100人以上が死亡した。
イスラエル軍は土曜日の攻撃後、ヒズボラの攻撃で死亡した民間人の死者数は10月以来23人に上り、少なくとも17人の兵士が死亡したと発表した。ヒズボラは土曜日の攻撃の責任を否定した。
イスラエルでは、多くのイスラエル人の避難が大きな政治問題となっている。政府関係者は、学生たちが9月1日からの新学期に合わせて帰宅することを願っていたが、にらみ合いが続くなか、その可能性はますます低くなっている。
どこまで悪化するのか?
相当悪化するだろう。こうした敵対行為の激しさにもかかわらず、これはまだ比較的抑制された対立と見られている
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は12月、ヒズボラが全面戦争を始めたらベイルートは「ガザの二の舞になる」と警告した。
ヒズボラはこれまで、戦争を拡大する意図はないことを示す一方で、いかなる戦争でも交戦する構えであり、これまでに行使した戦力はごく一部に過ぎないと警告してきた。イスラエルが戦争を拡大するような動きを見せれば、同国は「壊滅、破壊、避難」を強いられるだろうと、ヒズボラのナイム・カセム副指導者は、6月のアルジャジーラとのインタビューで語っている。
過去の戦争では大きな被害が出ている。2006年、イスラエルの攻撃は、ヒズボラが支配するベイルート南部郊外の広範囲を壊滅させ、ベイルート空港を破壊し、道路や橋などのインフラを直撃した。レバノンでは100万人近くが避難した。イスラエルでは、ヒズボラのロケット弾から逃れるために30万人が避難し、約2000棟の家屋が破壊された。
ヒズボラは、イスラエル全土を攻撃できるとするロケット弾を含め、2006年当時とは比較にならないほどの兵器を保有している。10月以降、イスラエル軍の無人偵察機を撃墜し、自爆ドローンをイスラエルに向けて発射し、より高性能の誘導ミサイルを発射するなど、その兵器の進化ぶりを証明している。
イスラエル軍は過去に何度かレバノンに侵攻しており、レバノンを拠点とするパレスチナ武装勢力の鎮圧を目的とした1982年の侵攻では、ベイルートまで侵攻した。
エスカレーションは避けられるのか?
停戦と、イスラエルの人質返還に合意するための交渉が難航している現在、ガザで何が起こるかによって、状況は大きく変わるだろう。ガザでの停戦が実現すれば、レバノン南部の緊張が急速に緩和される可能性がある。
ヒズボラをテロリスト集団とみなすアメリカは、紛争緩和を目指す外交努力の中心を担ってきた。ヒズボラは、レバノンに有利な合意には最終的に応じる姿勢を示しているが、イスラエルがガザ戦争を停止するまでは協議はできないと述べている。
イスラエルはまた、北部の治安を回復する外交的解決を望むとしながらも、その目標を達成するための軍事攻撃も覚悟していると述べている。
ヒズボラとの外交的接触の中心人物である、米国高官アモス・ホッホシュタイン氏は、2022年、レバノンとイスラエルが争っている海洋境界線をめぐって、予想外の交渉を成立させた。同氏は5月30日、ヒズボラとイスラエル間の和平は期待していないが、この合意は戦争のきっかけを取り除き、レバノンとイスラエルの間に公認された国境を定められる可能性があると述べた。
フランスが2月にレバノンに提出した合意案には、ヒズボラの戦闘員が国境から10キロ撤退することや、陸地の国境をめぐる紛争を解決する交渉が含まれていた。
ロイター