
ジュマナ・カミス
ドバイ:昨年末から中国・武漢市で致死的なコロナウイルスの大流行が世界に拡大し始めて以来、人類のほとんどはワクチンなしでパンデミックの打撃に対処するほかなかった。
この危機が人々の生活に影響を与え、政治的・地理的な境界を引き裂いた一方、紛争地域に生きる避難民や行き場を失った世界の人々ほど脆弱さが示されたグループはほとんどない。
同時に、失業率の急上昇が予想され、世界中の16億人の「非公式経済」就業者の生活に影響が及ぶ可能性がある中、何十億人もの人々の健やかな暮らしが危機に瀕している。
国際社会にとって、現世代の記憶の中でもこれ以上の最悪の事態に直面したことはほとんどなかった。
「パンデミックは世界の数多くの問題を悪化させる―戦争、人種的不平等、経済的不平等、男女不平等、貧困、他にもたくさんある」と、作家・政治リスクコンサルタントのケリー・アンダーソン氏はアラブニュースに語った。
中東のいくつかの国は、紛争、干ばつ、政治不安、環境悪化により、すでに社会経済発展に遅れをとっていた。
しかし、パンデミックの出現により、それら各国は直ちに最新の人類共通の敵、新型コロナウイルスに立ち向かわなければならなかった。
危機の拡大を受けて、国連のアントニオ・グテレス事務総長は3月に世界的な停戦を呼びかけ、当事者に武器を置くよう促した。
グテレス事務総長は切実に訴え、警告した。「今は、武力紛争をロックダウンし、我々の命が懸かった戦いにともに集中すべき時だ」
グテレス氏は、どんな紛争においても最も高い代償を払わされるのは通常女性や子供、障がい者、疎外された人々、避難民、難民などの脆弱なグループだと指摘した。こういった人々は今、パンデミックのために「壊滅的な損失」を被る危機にさらされていると同氏は述べた。
それから4カ月、グテレス氏の訴えは、同氏が想定していた人々の生活に何らかの違いをもたらしただろうか?
アンダーソン氏は、停戦は重要なツールだが、その後のアクションが必要だと考えている。予備的な停戦は「不可欠」だが「一時的な」アプローチであり、「紛争の解決策ではない」と同氏は語る。
「パンデミック関連の停戦は、世界でもかなり脆弱な場所におけるウイルスの影響を軽減するための時間を買うのに役立つ。しかし、パンデミックも、紛争の原因と結果も、両方とも停戦よりも長く続く可能性が高い」
より長期的な解決策(決定的な停戦など)を開発するためには、国際社会はこの瞬間を利用して、より「固定化した問題に対するより協力的なアプローチ」を構築する必要がある、とアンダーソンは言う。
言い換えれば、一時的な休戦は、紛争に対するより永続的な外交的解決策を追求する機会がもたらされるに過ぎない。
「人道支援を提供する絶好の機会であり、コロナウイルスの拡散に備え、緩和を試みる機会でもある」とアンダーソンは語る。
「銃を置」き、「平和のために声を」上げようというグテレス氏の訴えは、世界中に響き渡った。長引く紛争に巻き込まれた11カ国が停戦に合意し、170の当事者が6月の時点で同アピールを支持した。
表面的には、彼らはすべての銃を置き、数十年ぶりの世界的パンデミックに対して一致団結しよう、という国連トップの呼びかけを支持したようだった。
しかし、グテレス氏自身が後に述べたように、同氏の停戦の呼びかけへの支持は一部の国では名目上のものであり、「多くの国において、宣言と行動の間にまだ距離があった」。
世界で最も不安定な地域の一部、主に中東と北アフリカでは、この停戦アピールははかないものとなったことが示された。
敵対者間の空爆や衝突の報告がリビア、イラク、イエメンから殺到した一方、戦争で荒廃したシリアでは医療状況がさらに悪化した。
世界最悪の人道危機に苦しむイエメンでは、国連が認めた政府を支持するサウジ主導の連合軍が提案した2週間の停戦が7月9日に発効した。
しかし、合意のわずか数日後、子供7人と女性2人が死亡した事件により、国連の訴えに逆らう新たな報復攻撃合戦の幕開けとなった。
パリに拠点を置く移民統合研究所のシニアアドバイザー、ローラ・ペトラシュは、イエメンは戦争で荒廃した同国でコロナウイルス患者数が増加しつつあることにより、一時停戦を「緊急」に必要としていると語る。
同氏は停戦を、紛争を終わらせる「絶好の機会」のみならず、COVID-19の流行を封じ込めるものと見る。
「イエメンでは病院や診療所の50%未満しか機能しておらず、ほとんどが有資格のスタッフ、薬、またしばしば電気も足りない状態になっている」と同氏はアラブニュースに語った。
国連の停戦の呼びかけにより戦闘行為に歯止めをかけることができなかったもう一つの国は、リビアである。
7月4日、トルコの支援を受けた部隊により陥落したばかりであったトリポリ郊外の基地、アル・ワイヤへの夜通しの攻撃により、軍事装備が破壊された。
ペトラシュによるとこの攻撃は、トルコと同盟関係にある国家合意政府(GNA)および、東に拠点を置く敵のリビア国軍の両方が公には国連の停戦呼びかけ歓迎していたにもかかわらず、行われた。
大部分において停戦が持ちこたえているように見える場所の一つに、シリアのイドリブ県があるが、状況は依然として「脆弱」なままであるとアンダーソンは述べた。
「イドリブは(7月に)初めてCOVID 19の感染を確認しており、戦争によって避難民となったシリア人で過密状態となっている同地域でのウイルス拡大の可能性について深刻に懸念されている」と同氏は付け加えた。
国連は、戦争で壊滅的な被害を受けたシリアの公衆衛生インフラは、紛争とパンデミックの影響に対抗するために100億ドルの援助を必要とすると見積もる。
「さらなる戦闘は、すでに悲惨な状況を悪化させ、パンデミックに対処するための取り組みを損なうだけだ」とアンダーソン氏は述べ、人道支援が通過できるよう主要な国境を開けておくことが極めて重要であると付け加えた。
ガザ地区では1カ月以上にわたって不気味な落ち着きが広がっており、包囲されたパレスチナ領の同地区におけるいつもの紛争状態から急激に脱している。
「公式の停戦合意はなかったが、イスラエルとパレスチナは紛争を一旦脇に置き、COVID-19と戦うために共同で努力した」とペトラシュは述べた。
しかし、イスラエル政府が占領地域を一部併合するという脅威に対する緊張が続く中、西岸地区の検問所への攻撃が報告されている。
パンデミックが発生して以来、世界で戦闘行為が減少している地域があるにもかかわらず、紛争状況に置かれた子どもたちの状態が引き続き懸念の原因となっている。
パンデミック中の停戦は、遵守された場合、2億5000万人の子どもたちの命を救うと予測されている。
「戦争において(国際的に)認められた行動基準を守ることを戦闘員が絶対的に拒否したため、現在『人的荒廃症候群』として知られる深刻な損失を被った世代が増えるだろう」と、シャルジャ・アメリカン大学のキンバリー・グリーソン准教授はアラブニュースに語った。
「残念ながら、リビア、シリア、イエメンでの紛争は、外国人戦闘員の激しい流れを伴う。COVID-19はまだ大きく広がっていないように見えるが、コロナウイルスの流行がわかっている国から戦闘機が飛んでくることで、地元の人々は簡単に感染しうる」
グリーソン氏はまた、近年中東で見られるように、戦闘員が戦争地域の医療施設を標的にする慣行の影響についても懸念する。
「このような紛争が1日また1日と長引き、COVID-19や紛争により医療従事者が1人また1人と死亡することで、将来の景気回復にますます重荷となっていく」と、氏は述べた。