
アトランタ:イランの大統領選挙は来月18日に迫っている。専門家は、今回の選挙は国民に人気の無い候補が、最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師に支持されて最有力候補と据えられた、仕組まれた選挙だとしている。
25日、上級聖職者など12名で構成され、大統領候補を審査するイランの護憲評議会は、改革派・穏健派の候補の大半を失格とした。エブラヒム・ライシ司法府長官とその他数名の無名候補の出馬が許可された。
護憲評議会はライシ氏のほか、以下の6人の立候補を認めた。公益判別会議書記のモフセン・レザーイー氏、元核交渉責任者のサイード・ジャリーリー氏、国会副議長のアミールホセイン・ガージーザーデ・ハーシェミー氏、元副大統領のモフセン・メフルアリーザーデ氏、中央銀行総裁のアブドゥルナーセル・ヘンマティ氏、国会議員のアリーレザー・ザーカーニー氏。
イラン問題の専門家によれば、ライシ氏は1988年の数千人におよぶイランの活動家や政治犯の処刑に関与したとされ、人道的犯罪に関わった疑惑がつきまとっている。それでも、ライシ氏が今回の大統領選挙に勝利する確率は高い。
ヨーロッパに拠点を置く反体制派のイラン国民抵抗評議会(NCRI)は26日、オンライン声明で、ライシ氏は最高指導者の支持により大統領選に勝利するだろうとしたうえで、この選挙を「偽りの選挙」と称した。
NCRIのモハマッド・モハッデッシン外交委員長は「ハメネイ師は自身の好む大統領基準を設定し、ライシ氏はそれに完全に当てはまる。ハメネイ師はお気に入りの候補者の当選を確実にするために、穏健派と強硬派によって選挙選が演じられるのを阻んだ。つまり、今回の選挙は一人芝居というわけだ」と述べた。
ワシントンにある大西洋評議会の「イランの未来イニシアチブ」のディレクターであるバーバラ・スラヴィン氏はアラブニュースの取材に対し、来るイラン大統領選を「ジョーク」と評した。
イラン大統領選候補者(上段左から右に):アミールホセイン・ガージーザーデ・ハーシェミー氏、エブラヒム・ライシ司法府長官、モフセン・レザーイー元イスラム革命防衛隊司令官、モフセン・メフルアリーザーデ元副大統領、アブドゥルナーセル・ヘンマテ中央銀行総裁、保守派の国会議員であるアリーレザー・ザーカーニー氏、サイード・ジャリーリー元核交渉責任者。最後の枠はイラン国旗。(AFP)
そのうえでスラヴィン氏は、「ライシ氏以外の有力候補は出馬を許可されなかったのだから、ライシ氏の当選は保証されたも同然でしょう」と述べた。
そして、ハメネイ師が考えを改めて他の有力候補の出馬を認めない限り、投票率は著しく低下し、政権運営に支障が出るとの見方を示した。
スラヴィン氏は、ライシ氏がハメネイ師に極めて近い立場であることから当選はほぼ確実であるとし、ハメネイ師は自身の功績を不動のものとしようとし、ライシ氏を最高指導者の後継として育成している可能性があると述べた。
大統領選の勝者は、トランプ前大統領時代に米国が離脱した包括的共同行動計画(JCPOA)、いわゆるイラン核合意の再建に向けた米国やヨーロッパ諸国との協議に臨まなければならない。
トランプ政権はイランに対して強力な経済制裁も課したため、イランは深刻な経済・財政状況に陥っている。
米国とイランが暫定合意に達し、旧JCPOAの再建、または新たな合意の枠組みづくりに向かわない限り、欧米諸国との協議がただちにライシ政権下におけるイラン経済の安定につながるとは考えにくい。
しかし、ライシ氏の強硬な政治姿勢を踏まえれば、ライシ政権が米国やその同盟国との核を巡る交渉をどのように進めていくかは不透明だ。