
ベイルート:レバノンでは国が深刻な経済危機に対処する中、ここ何ヵ月も粉ミルクが不足している。そして人工ミルク20トンが廃棄される様子を撮影した動画がSNS上に拡散されたことで、国民の不満はさらに高まっている。
差別公訴局は、補助金が付くはずの粉ミルクが何週間も店舗や薬局から消えていることから、国家警察軍(ISF)情報部に調査を依頼した。
「世界的危機の時代にあって、価格を統制しようとする社会的連帯や政府の政策のようなものはありますが、しかしレバノン市場で粉ミルクが不足しているというこの時に、目の前でそれが破棄されるのを見るのは容認できません」と活動家のマフムード・ファキ氏はアラブニュースに語った。
「国は、粉ミルクを独占・隠蔽した貿易業者をなぜ起訴しなかったのでしょう。ドルで儲けを上げることに執着する貿易業者たちにとって、国民の存在など念頭にないかのようです」
粉ミルク不足は、経済破綻によってもたらされ、生活必需品を輸入に依存するレバノンの状況が、さらに悪化している食料安全保障問題のひとつに過ぎない。驚異的なインフレで輸入品は滞り、購買力も低下している。
食品・消費者製品・飲料輸入業者組合のハニ・ボザリ会長が「1歳から3歳児向け粉ミルクの補助金が打ち切りとなった」と発表した後に、この動画がSNSに投稿された。
レバノン政府は、庶民の反発を恐れて物資の補助金カットの決定を下すことを避け、この問題を、ドル建て資金の不足を理由とした輸入業者への支払い停止を取りまとめるレバノン中央銀行(BDL)の手に委ねている。
粉ミルクの廃棄について、開発復興委員会(CDR)は次のように弁明している。「2019年と2020年の製品をゴミ処理場に埋め立てる予備処理として、開発復興委員会が運営する廃棄物処理施設で破棄するよう依頼を受けました。この処置は、その持ち主または所轄当局に破棄を義務付けられているすべての物資に適用されるものです」
レバノン国内の食品流通担当企業は次のような声明を出した。「これら賞味期限切れの製品は、廃棄するために期限切れの3ヵ月前に市場から引き揚げられ、定められた手続きや賞味期限に沿って処理されました。これらの製品のほとんどは2018年、2019年、2020年初頭のもので、新型コロナウイルスによる全国的都市封鎖があったために、その破棄許可を取得する手続きに1年以上を要したのです」
ボザリ氏は、中央銀行に言及しながら今回の件を発表した。
「補助金対象品目に含まれている1歳から3歳児向け粉ミルクが、中央銀行のファイルから撤去されました」とボザリ氏は述べた。
「この品目は補助金なしの価格で市場に届けられることになります。1歳未満向けの粉ミルクの価格については、医薬品と同じく補助金が付き、取引業者は価格を決めることができません」
ミシェル・アウン・レバノン大統領がこれに介入し、関係機関や部署に対して、「現在の状況に乗じ、価格を吊り上げて不法な利益を搾取しようとする独占業者等を厳しく追及する」よう呼びかけた。
アウン大統領はさらに、「燃料、医薬品、医療用品、幼児用粉ミルクの危機に対処すべく手続きが取られた」と述べたと大統領府報道局が発表した。
国際労働機関とユニセフは5月の共同報告書の中で、「包括的で十分かつ永続的な社会的保護保証が導入されなければ、レバノン国家が補助している唯一残された社会的支援を停止した場合、貧困層および中流層の生活水準が著しく悪化することになる」と警告している。
ユニセフは過去の声明でも、「最貧困世帯がここ何年も見られなかったレベルの欠乏に直面する恐れがある」と警告していた。
ユニセフのレバノン事務所代表を務める杢尾雪絵氏は、レバノンの最も弱い立場にある市民にとって、今は非常に危機的な時だと述べた。
「多くのレバノン国民が非常に困難な状況にあるこの時に、強力かつ長期的な社会支援プログラムを通して早急に格差を埋めなければ、特殊な脆弱性を抱えて苦しむ人々が支援を受けられないままになってしまいます」と杢尾氏は述べた。
SNSで拡散された動画によれば、粉ミルクの廃棄は火曜日の朝に実施されたとされている。これが市民社会団体のさらなる攻撃材料となり、火曜日午後にベイルート中心街で抗議デモ行進が起こった。
一般労働組合は、木曜日に新政府の樹立を要求するストライキに入る予定だ。銀行員組合を始めとする各種労働組合が続々とストライキへの参加を表明している。
国家救済のための新政府を待つ間にも、給油スタンド付近で車が列を成すという新たな光景が繰り広げられている。給油を切望しながら列に並ぶドライバーたちの間に好戦的な対立も起きている。
補助金が完全に打ち切られることになれば、ガソリン価格の上昇が予測されるとレバノン石油輸入企業組合会長ジョルジュ・ファイヤド氏は述べた。
「燃料輸入業者は月曜日と火曜日に、何百万リットルものガソリンを市場に投入しましたが、これはせいぜい15日間ほどの一時しのぎにしかなりません」とファイヤド氏は語った。
「補助金打ち切りの決定は、資金がないと明言している中央銀行がコントロールできるものではありません。決定は政府がすべきです」