
ジョルジ・アザール
レバノンの廃棄物管理システムは最近増加しているくず鉄泥棒の新たなターゲットとなっている。これはレバノンの前代未聞の経済破綻によって絶望的な状況に置かれた住民によるものと当局は考えている。
一番最近、被害にあったのはベイルートとその近郊を請け負う二つのごみ廃棄場の一つで、悪質なくず鉄泥棒により操業を停止せざるを得なくなった。
首都郊外のジェイデーに建つごみ廃棄場は、住民たちがくず鉄や、その他の市場で高値で売れるだろう価値ある廃棄物を漁る格好の場となっている。
何十年もの間、レバノンは自国で管理できる以上の廃棄物を生み出してきた。問題は2015年に頂点に達し、ごみが道を埋め尽くし、効果的な廃棄物管理戦略を考案できずにきた政府を糾弾して大規模なデモが勃発した。
このごみ廃棄場は、地域特有の廃棄物問題の一時的な対策として2018年に建てられたが、その後、数えきれないほど拡張を続けてきた。政府が持続可能な廃棄物管理計画をまとめられずにきたためだ。
そのかわり、歴代の政権はどれもごみをうず高く積み上げ続けることを選び、最終的にごみの山は20mの高さにまで及んだ。
廃棄場を管理する地元の請負業者のプロジェクトマネージャー、トウフィック・カズモーズ氏はアラブニュースの取材に対し、操業休止に追い込まれる前、廃棄場には一日1200トンのごみが運び込まれ、拡張を続けていたと話した。
「これは確実にごみ問題に対する持続的な解決策ではない。だが、くず鉄泥棒たちが状況を悪化させたおかげで廃棄場は『閉店』せざるを得なくなった」と、カズモーズ氏は言う。
毎日、何百人もの人々が廃棄場に不法侵入していたため、会社は先週、建設と操業の両方を休止しなくてはいけなくなった、と彼は語る。
カズモーズ氏によると、くず鉄泥棒たちはダンプカーがすべてのごみを廃棄している間、辛抱強く待ち、それからビニール袋を手に廃棄場に入ってくるという。
重機があちこちにあるというのに、泥棒たちと従業員の乱闘も何度か勃発した。
「端的に言って、関係者全員にとって安全ではない仕事環境だ」と、カズモーズ氏は話す。
廃棄場が休業し、廃棄物管理会社ラムコがごみの収集を中止したことで、メトン地区とケソラワン地区では道路沿いにごみが積み上げられている。
「ごみ収集を中止したのは、廃棄する場所がないからだ」と、ラムコのワリッド・ボウ・サアド社長はアラブニュースに語った。
「国内保安部隊とレバノンの諜報機関が廃棄場一帯を封鎖するためパトロールを送り込んでいる」にもかかわらず、カズモーズ氏がくず鉄泥棒のために廃棄場を休業せざるを得なくなったのは4月からこれで二度目だ。
現在、セキュリティーの強化について内務省に掛け合っていると彼は語る。
「今日から地区の職員が現場に配置される予定になっているが、また将来的に同じ問題に直面するだろう」と、カズモーズ氏は指摘した。
地中海の小国であるレバノンでくず鉄泥棒が横行し始めたのは、急上昇する失業率とドル不足のためだ。現地通貨は90%ほどの価値を失ったが、一方で日用品その他の商品の価格は跳ね上がった。
「鉄が目的だ」と、カズモーズ氏は言う。「国民は本当に苦しんでいて、お金を得るためのどんな方法でも必死で探している」
レバノンでは鉄の商品価値が上がっており、やけくそになった住民によりマンホールの蓋や送電塔の鉄製の支柱部分までが盗まれた。
ベイルートのマルワン・アボウド市長は2月、AFPニュースに対し、マンホールの蓋が盗まれたのは「最近、とても高価になった鋳鉄でできているため」という考えを語った。
マンホールの蓋は最大重量60㎏にもなり、くず鉄として売られれば最大100ドルほどを稼ぐことができる。現在の闇市場の相場では約150万レバノンポンド、もしくは現在の最低月収の二倍と同等になる。
切羽詰まった状況に置かれた泥棒たちは、すでに欠陥のあるレバノンの電力供給網をも狙い、国の4つの発電所とベカー周辺地域をつなぐ55mの送電塔が崩壊する結果となった。
鉄の支柱を盗まれて失った送電塔は、冬にレバノン全土を吹き渡る強風には太刀打ちできなかった。
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