
ファラ・ヘイバ
アブダビ:臨床心理学者のトライヤ・カナファニ医師によると、ガザ地区に暮らす10~19歳のほぼ全員が、安全上の脅威や暴力にさらされることによるPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状を呈しているという。
また、2020年のアラブ青少年調査では、地域15カ国に暮らす若者の約3分の1が何らかの精神疾患に苦しむ人を少なくとも一人は知っていることが示されている。
チュニジア、パレスチナ、ヨルダン、レバノン、イラクでのうつの発生率が高いことが研究で示されていると、カナファニ医師はアラブニュースに語った。
ガザ地区では10~19歳の97.5パーセントがPTSDを患っている。PTSDとは心的外傷となるような出来事を経験したり、目撃したりした結果発症する精神疾患である。
パレスチナ危機その他の中東の大事件により、精神疾患は増加した。
2021年の世界銀行のレポートによると、世界中で約10億人が精神疾患を抱えているが、うち75パーセント以上が治療を受けることができていない。
「毎年約300万人が薬物乱用により死亡している。40秒に1人が自殺により亡くなっている。精神疾患患者の約50パーセントは14歳までに発症している」と世界銀行は報告している。
WHO(世界保健機関)は2019年のレポートで、紛争地帯に暮らす5人に1人がうつ、不安、PTSD、双極性障害、統合失調症を患っていると推定している。
「過去10年間で戦争その他の紛争を経験した人のうち、11人に1人(9パーセント)は中度または重度の精神疾患を発症する」とWHOは付け加えた。
5月には、トラウマ治療を受けていたパレスチナ人の子ども11人がイスラエルによる空爆により自宅で死亡した。
紛争地帯で連続攻撃を経験しながら治療を受けても効果的なのかと尋ねると、カナファニ医師は「戦時下の子どもたちに行う特定の種類の介入や治療は、特に対処能力を身に付けることを助けるようなものについては、ある程度の効果があることが研究で示されている」と述べた。
攻撃が続く中で暮らす子どもたちは常に暴力に怯えるようになり、長期にわたる不安感やストレスへの生理反応に苦しむと医師は付け加えた。すでに身に付けている対処能力を支援し、役立ちそうな他のツールについて教えることが有益だとカナファニ医師は言う。
家族カウンセリング発達財団(Family Counselling and Development Foundation)による2017年の研究によると、イエメンでは、約5人に1人が国内で長引く紛争により精神疾患に苦しんでいる。
「イエメンではメンタルヘルスのケアはまだ珍しい。精神疾患は汚名を着せられ、人口当たりの精神科医の割合も不足している。存在する数少ないメンタルヘルスサービスもパンデミックにより閉鎖している」と、国連人道問題調整事務所が提供する人道情報サービスのReliefWebは声明で述べた。
イエメンはさらに、内戦によるインフラ損壊にも苦しんでいると、ヘリオット・ワット大学ドバイのキリン・ヒリアル心理学准教授はアラブニュースに語った。
「レポートでは、国内の全医療施設のわずか51パーセントしか完全に機能していないことが示唆されている」とヒリアル准教授は付け加えた。さらに准教授は、精神医療サービスも限られていると言う―地域の多くの国でも、精神疾患は不名誉とされている。
シリア危機は紛争が始まった2011年以来、約207,000人の民間人の死傷者を出している。Statistaの2021年のレポートによると、うち約25,000人が子どもだったという。
同じく2017年の国際赤十字の年次レポートによると、240万軒以上の家屋が損壊し、工業生産能力の67パーセントが失われ、医療施設の45パーセントがもはや機能せず、教育施設の30パーセントが破壊されたという。
これにより、シリア人の89パーセントが極貧状態に陥った。同国の深刻な事態により、危機下を生きる人々は心理的ダメージの高リスクにさらされている。
「2018年にはシリア領域で働く精神科医はわずか80人しかおらず、シリア内では精神分析医の訓練も免許授与も行っていないと報告されている。しかし、WHOその他のNGOが医療従事者の訓練を助けることにより、医療従事者のコミュニティ内で精神科・精神分析サービスを提供することは可能だと捉えている」とヒリアル准教授は語った。
地域の戦争や過激派による攻撃はこれらを目撃する者だけでなく、毎日ネガティブなニュースにさらされるソーシャルメディアユーザーにも影響を及ぼしている。
殺戮、拷問、爆撃等の報告がソーシャルメディアを支配している。ユーザーは毎日どれほどのネガティブな情報を消費しているか、それが精神状態にどう影響しているかについても無自覚かもしれない。
カナファニ医師はパレスチナについて、ソーシャルメディアが同国で起きていることの真実について認知を広める重要なツールになっていると言う。
「このような無数のコンテンツを見る人の多くが被るネガティブな結果として、サバイバーズ・ギルト(生存者罪悪感)や精神疲労がある。パレスチナに住んでいない人でも、これらのコンテンツを見ると無力感、不正義感、苛立ちを強く感じる。このような感情は根強く残るため、精神的な燃え尽きにもつながる」
世界中で起こるネガティブな出来事の詳細を読んだり見たりすることは多くの人にとってつらく感じられるかもしれないと、ヒリアル准教授は語った。このようなコンテンツで他者の苦しむところを見た人は、無力感に苛まれることがあるという。
アメリカの医療施設・教育機関であるクリーブランド・クリニックによる2020年のレポートでは、ソーシャルメディアでの「ドゥームスクローリング」はネガティブな思いや考え方をもたらし、精神衛生に影響を及ぼすことがあると発表している。
「ネガティブなニュースを消費することは、恐怖感、ストレス、不安、悲しみの増大と関連があることが研究で示されている」
中東における精神衛生に関する資金やリソース、労働力の不足とともに、不名誉なイメージと適切な認知の欠如も治療をためらう要因となっているとカナファニ医師は語る。
カナファニ医師によると、地域で精神科医が最も多い国はカタール、バーレーン、クウェート、レバノンであり、次に多いのがサウジアラビアおよびアラブ首長国連邦で人口10万人当たりの精神科医の数は5人未満だという。
「中東でも精神科施設は確実に増えてきているが、国により増加率は大きく異なる」とヒリアル准教授は言う。
たとえばUAEでは精神科医療サービスの増加がみられると、准教授は付け加えた。