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チュニジアが新型コロナの波に飲み込まれた理由

(AFP)
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27 Jul 2021 12:07:29 GMT9
27 Jul 2021 12:07:29 GMT9
  • パンデミック対策の不手際に対する国民の怒りは、アンナハダ政権に向けられている
  • ワクチン接種の遅れ、安全基準の不遵守、デルタ型拡大が要因

ジュマナ・アル・タミミ

ドバイ:ドバイ在住のパラリーガルであるハスナ・ウォルシャファニ(Hasna Worshafani)さんは、新型コロナによる航空規制のせいで、チュニジアに住む両親を1年以上も訪ねることができずにいた。

そして規制が解除され始めた矢先、この北アフリカの国の新型コロナ症例数がすさまじい勢いで増加したため、旅行を再延期せざるを得なくなった。

2人の子供の母であるウォルシャファニさんは、アラブニュースの取材に対し、「イード・アル・アドハーの祭日を両親と過ごす予定だったが、母国の状況がひどく、新型コロナの症例数が急増しているため、状況が少し落ち着くまでは旅行を延期する」と語った。

チュニジアは新型コロナの第3波で壊滅的な被害を受けたアフリカ5国の一つだ。人口1,169万人のチュニジアでは、昨年3月のパンデミック宣言以来、18,600人以上の死者が報告されている。

日曜には、首都チュニスをはじめとする各都市に数百人のデモ隊が集結し、パンデミック下の政府の経済・政治的な失策を批判し、退陣を求めた。カイス・サイード大統領は同日中に議会を停止し、ヒシャム・メシシ首相を解任することを発表した。

チュニジアの病院は酸素、スタッフ、ICUベッドの不足に苦しんでおり、サウジアラビア、UAE、フランス、エジプトなどから緊急医療品やワクチンの提供を受けている。

チュニジア当局は、迅速なワクチン供給にも失敗した。症例数がアフリカで最も多い国の一つであるにも関わらず、ワクチン接種を完全に終えているのはわずか100万人以下(人口の約8%)だ。

新型コロナ症例数の増加にはいくつか理由があるが、国民の多くは、経済、社会、健康問題の悪化は、2019年に政権についたイスラム主義のアンナハダ(議会の最大政党)のせいだと考えている。

アナリストによれば、このイスラム主義の政権が選挙期間中に「民主主義」や「多元主義」という言葉を口にしても、医療制度の崩壊や不安定な経済状況による国民の不安や懸念は解消されないだろうという。

アナリストは、日曜夜に行われた大統領選の発表を祝う喜びのシーンや、複数都市でアンナハダの事務所襲撃が企てられた報道を分析し、「チュニジアのイスラム主義者は政治的な風向きを見極めてから行動するだろう」と語っている。現在、大量の失業者と国家サービスの低下により、民主主義に対する国民の支持は低下している。

アンナハダは、2019年の大統領選挙では左派と共にサイード氏を支持したが、パンデミック以降その関係は悪化している。今回の新型コロナ第3波における失策の主な原因は、大統領、首相、議会議長の長期的な行き違いにあると見られている。

ちょうど1年前に政府のトップに任命されたメシシ氏は、閣僚の辞任やサイード大統領との対立により混乱した内閣を統括してきた。チュニジアの病院が新型コロナ症例数の急増に襲われたため、今月は保健相を解任した。しかしこの措置は「不十分である上に遅すぎる」というのが大方の見方だ。

多くのチュニジア人にとって、この現状は苦い記憶を呼び起こすものだ。2011年の反乱後も、アラブ世界でも極端な過激派の動きに対するアンナハダ連立政権の対処は、不可解なほど遅かった。

AST(Ansar al Shari’a in Tunisia=チュニジアのアンサール・アル・シャリーア)は、2011年以降の囚人恩赦によって急速に仲間を増やした。しかし政府は、このアルカイダ系グループを厳しく取り締まろうとはしなかった。そして2013年、左派政党「人民戦線」のリーダーであるショクリ・ベライド氏とムハンマド・ブラヒミ氏が暗殺されると、チュニジアの世論はさらに二極化した。

2013年8月、政府はASTをテロ組織に指定したが、多くの国民はこれを「馬が逃げた後で馬小屋のドアを閉めた」典型的な例だと感じた。その5年後には、弁護士や政治家のグループが「ベライドやブラヒミの殺害事件には秘密組織が関与しており、治安部隊や司法にも潜入していた」としてアンナハダを非難したが、アンナハダはこれを否定した。

アンナハダ政権は、チュニジアの民主主義の形成期に穏健策ばかりで厳しい対策をとらなかったせいで、今も問題を抱えている。ワシントン近東政策研究所のフェロー(研究員)であるアーロン・ツェリン氏は、ウィルソンセンターの研究論文で「2013年から2019年の間に、何千人もの人々が海外のジハード運動に参加した。…リビアでは、チュニジア人が2015年と2016年に、バルドー博物館、スースのビーチリゾート、そしてベンガルダン(チュニジアとリビアの国境沿いの都市)の鎮圧を企てるという3つの大規模な攻撃計画があった」と発表している。

ただし、チュニジアの新型コロナの大惨事は政治家だけの責任ではない。2020年春、世界の多くの国々と同様に、チュニジアでも完全なロックダウンが実施された。この戦略は非常に有効で、チュニジアの感染症例数は40日間ゼロだった。しかし、6月に国境が再開され、観光客が戻り始めると、症例数が急増した。

北アフリカの官僚たちは、封鎖の緩和や国境の開放を決定するとき、少なくとも3つの要因の影響を考えなかった。1つ目はインドで発生したと言われるデルタ型の感染力の高さ、2つ目は衛生対策や社会差別撤廃の遵守率の低さ、そして3つ目はワクチン接種率の異様な低さだ。

WHOカイロ地域事務所の感染ハザード管理ユニット長であるアブディナサール・アブバカル氏は、アラブニュースに対し、「疫学的状況は国によって異なる。北アフリカ全体を同一に考えることはできない」と述べた。

アブバカル氏によると、ワクチン接種に多大な投資をおこない、成果が出た国もあれば、ウイルス拡散を遅らせるために公衆衛生対策を強化している国もあるという。

しかし、チュニジアでは遵守率の低さがあちこちで見受けられ、デルタ型の感染者も急増している。「実はこれが原因で、この地域の他の国々と同様に北アフリカでも感染者が急増している」とアブバカル氏は語る。

同氏は症例数を減らすため、国民が移動や集まりに関する政府規制を遵守することを望んでいる。

「政府は規制を強化しなければならないが、最も重要なのは、なぜ規制されるのかを国民が理解することだ。それは安全、健康、保護のためだ」。

「人々は規制を遵守し、尊重する必要がある。マスクを着用し、物理的な距離を保ち、手洗いや清掃を推進し、予防接種を受ける必要がある。大きな社会的な集まりや旅行も避けるべきだ」。

アブバカル氏は、チュニジアをはじめとするアフリカ諸国の状況は、必ず収束すると確信しているが、現時点では地域全体の酸素不足を心配している。

「文字通り、どこも酸素不足だ。酸素が足りずに人が死んでいる。今までは優先順位をつけてこなかったが、これからは順位をつけなければならない。使命感と情報さえあれば、これは簡単にできる」。

ドバイ駐在のチュニジア人のウォーシャファニさんは、母国の状況が悪化した理由はとても単純だと考える。多くの家庭が、ロックダウンや渡航禁止に耐えられなくなったからだ。

「昨年のロックダウンは、人々の生活に大きな影響をもたらした。もうこれ以上、経済的な打撃を受けるわけにはいかない」と彼女は言う。

「チュニジアの物価は過去10年で確実に上昇した。もうみんな我慢の限界だ」。

Twitter: @jumanaaltamimi

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