エルサレム:金色に輝くエルサレムの岩のドームのそばで、警察官の保護の下、ユダヤ人男性3人が歩を進め、胸の高さで両手を前方に差し出して、低い声で祈り始めた。
ユダヤ人には「神殿の丘」、イスラム教徒には「崇高な聖域」として知られる、エルサレムで最も大切な聖地でのユダヤ人の祈りは、かつてなら考えられなかったことだ。だが、この数年、これは静かに新たな常態になろうとしている。長年の取り決めに反する事態は、デリケートな現状に緊張をもたらしており、さらに中東に新たな暴力の波をもたらすのではないかという懸念を引き起こしている。
この地を管理する、ヨルダンが資金拠出するイスラム教の信託ワクフの責任者シェイク・オマール・アル・キスワニ氏は、「今起こっているのは現状維持に対する露骨な、そして危険な違反だ。イスラエル警察は過激派の保護をやめるべきだ」と語った。
丘の上はユダヤ人にとって最も神聖な場所だ。太古に破壊された2つの古代神殿が存在していた場所として崇拝の対象になっている。2千年間にわたって、ユダヤ人は1日3回この地に向かって祈りを捧げている。そして、この地にはイスラム教第三の聖地、アル・アクサー・モスクも存在している。
イスラエルは1967年の中東戦争でこの丘を東エルサレムともども占領し、後に併合した。国際社会のほとんどはこの併合を承認していない。パレスチナは東エルサレムを将来、独立国家の首都にしたいと考えている。
一触即発の事態が起こり得るこの場所は、イスラエル・パレスチナ間の紛争の情緒的な震源地になっている。数十年に及ぶ紛争では、この地を巡って多くの死闘が引き起こされてきた。直近では5月に、投石して抗議するパレスチナ人に対してイスラエルの警察がモスクに立ち入り、これがガザ地区でのイスラエル・ハマス間の11日間に及ぶ戦争と、イスラエルの諸都市での暴動のきかっけとなった。
1967年以来、「現状維持」と呼ばれる緩やかな一連のルールが、この場所の日々の運用を規定してきた。現状に対するいかなる実際の変更も、変更とみなされる事態も、暴力に火を点ける可能性がある。
数十年わたって、ユダヤ人は宗教上の理由からこの場所での礼拝を避けていた。1967年の戦争後に、イスラエルの首席ラビを含め、指導的立場にある多くのラビが、儀礼面での不浄と、古代神殿の至聖所の正確な場所が不確かであることを理由に、ユダヤ人は「神殿の丘の域内にはいっさい立ち入ってはならない」と命じた。
だが、とりわけイスラエルの強硬派、宗教右派ナショナリストの間で、意識が変わりつつある。
エルサレム政策研究センターの上席研究員アムノン・ラモン氏は、この数十年でユダヤ人の祈りの問題は「周縁的な問題から、宗教ナショナリストの人たちにとっての主要な問題に」変化したと語った。その範疇に入る国民の大半は、人数が増えつつある超正統派ユダヤ人同様に、この場所でのユダヤ人の礼拝をある程度までは支持しているようだ。
強硬派の宗教小政党を率いるナフタリ・ベネット新首相は先月、ユダヤ教の断食日ティシュアー・ベ・アーブで騒動を引き起こした。イスラエルは丘の上でのユダヤ人の「礼拝の自由」を守ることを約束する、と語ったのだ。首相府はすぐさま、現状には「いっさい変更はない」と説明する声明を発した。
神殿の丘イェシーバー長のラビ・エリヤフ・ベブル氏は、既に1年以上、毎日この聖地に立ち入っており、ほとんどの日は集団祈祷に必要な10人以上のユダヤ人男性と一緒だと述べた。
同ラビは、「騒ぎを起こさないように、目立たないで行っているかぎり、警察は容認している」と言っている。
AP