
カリーン・マレック
ドバイ:昨年2月、UAEは中東諸国として初めて火星への無人探査ミッションを成功させた。UAEのこの小さな一歩は、アラブ世界にとっての大きな飛躍となった。あるNASAの科学者によると、中東は宇宙開発において計り知れない可能性を秘めているという。
2020年7月、火星の大気を調査するために日本の種子島宇宙センターから打ち上げられたUAEの探査機「ホープ」は、今年の初めに目的地に到着した。このミッションはアラブの若い世代を刺激し、彼らは宇宙工学分野でのキャリアを現実的な選択肢のひとつとして捉えるようになった。
「MENA(中東・北アフリカ)地域の若者には多くの可能性があります」。カリフォルニア州にあるNASAジェット推進研究所(JPL)のチーフエンジニア、モハメド・アビド博士はアラブニュースの取材に対し語った。「ミッション全体を通じ、多くのアラブの若者が、プロジェクトやプログラムの事例を目の当たりにして、自分たちにもなにかできる、と感じています」
「中東出身者だからできないんだ、という考え方はただの幻想であることがわかったのです。それは実現可能であり、若者にとっては重大な発見であり、このことは私にとっても共通のテーマなのです」
大学を含め、各種教育機関で宇宙技術に関わる職業に就くための指導を行っているアビド氏は、「ホープ」のミッションが達成されて以来、この分野への関心が急上昇していると語る。
「彼らの多くは強いモチベーションを持ち、宇宙に関わる方法を追い求めています」とアビド氏は語る。「彼らは非常に熱心で、大きな夢を持っています。それは単なる夢ではなく、実現可能な目標です。宇宙は私の時代に比べて、より身近な存在になっています」
チュニジア出身のアビド氏は現在、NASAのペイロード(搭載機器)・チーフエンジニアとして、赤い惑星からサンプルを持ち帰る探査機の帰還を監督している。彼は17年間のキャリアの中で、火星探査機「マーズ2020」の副チーフメカニカルエンジニアなど、複数のトップレベルの役職を経験している。
幼い頃から宇宙に魅せられていたアビド氏は、自分がNASAで働くことになるとは夢にも思っていなかった。「ここは誰でも入れる場所ではないと思っていました。チュニジア出身の自分ではなく『誰か特別な人間』のための場所だと思っていたんです」と話す。
アビド氏は、1986年にフロリダ州ケープカナベラルから離陸したスペースシャトルが離陸直後に壊滅的な故障のため空中で分解、7人の乗組員全員が死亡したチャレンジャー号の爆発事故を鮮明に覚えているという。
アビド氏が宇宙工学に興味を持ち、懸命な努力を続けたのは、二度とこのような悲劇が起こらないようにという想いがある。
「1980年代後半にNASAのスペースシャトル・チャレンジャー号の事故をニュースで見ました」。彼は語る。「その時、私は本当に宇宙の仕事をしたいと決心し、それが私の目標となり、夢となったのです」
彼は南カリフォルニア大学の航空宇宙・機械工学科で博士号を取得、その後同大学で講師を務め、後に「Spacecraft Sensors」という教科書を出版した。
学期の合間には研究所でのインターンシップに参加し、素粒子物理学から量子論まで幅広く学んだ。「これは、自分の経験を多様化し、さまざまな分野への理解を深める上で、非常に素晴らしい機会でした」とアラブニュースに語った。
では、いつかNASAのようなところで働きたいと夢見る若者たちに、アビド氏はどんなアドバイスをしているのだろうか。
「自分が情熱を持って取り組めることを見つけること。その分野を理解し、学習の機会として活用することです。経験を積み、専門分野から踏み出し、幅広い知識を身につけるのです。私が今日NASAで働くことになったのは、この点が非常に大きかったと思います」と彼は語った。
「私の最終的な目標は常にNASAのセンターのいずれかに入ることでした。しかし道は決して一直線ではありません。自分の道を見つけ、最終目標を持ち続け、集中力を切らすことなく、チャンスを最大限に生かすことが必要なのです」
アビド氏は、11月上旬に開催されたカナダ大学ドバイ校主催の技術系国際会議「ISNCC 2021」に招待され、火星ミッションについて講演した。そこで同氏は「アラブの若者が宇宙開発の分野で大きく飛躍することは間違いないでしょう」と語っている。
「アメリカ、中国、インド、ロシア以外の国が火星に到達するということは大きなニュースです。これは、この赤い惑星が多くの国にとってアクセス可能であり、その技術を持つ国々が世界中に存在することを示しているのです」と述べている。
「それは、火星に人を着陸させるという究極の目標を達成するために、他国の貢献と参加の機会を拡大する道が開かれたことを示しています。この道はアラブ諸国にも開かれています。私たちも火星を目指し、それを実現する方法を知ることができるのです」
探査機「ホープ」のミッションはアラブ世界にとって「巨大な技術的成果」であり、UAEは火星に到達した数少ない国のひとつになったとアビド氏は話す。アビド氏によると、このことは中東が正しい道を歩んでおり、人類の進歩に貢献しているという強いメッセージを世界に向けて発信したことになるという。
「蓄積した一連の知識があるということは、前へ進むための足がかりになります」彼は語る。「問題は、その知識を使って何をするかです。これは、次のステップへ進む勢いをつけるために、とても重要なことなのです」
アラブ諸国で宇宙開発を目指しているのはUAEだけではない。サウジ宇宙委員会のCEOであるムハンマド・ビン・サウード・アル・タミーミ博士によると、この分野は王国の石油依存の経済から脱却し、多様化することを目的とした「ビジョン2030」のアジェンダの焦点となっている。
サウジアラビアは、2000年から2019年の間に16個の衛星を宇宙に打ち上げた。サウジ通信社によると、今年3月、王国は2つの衛星を打ち上げた。最初のひとつは地元の大学が開発したものである。
王国の国立研究開発機関KACSTによる同国17番目の人工衛星「Shaheen Sat」と、キング・サウード大学(KSU)の「CubeSat」は、ロシアのソユーズ2キャリアロケットに搭載され、カザフスタンのバイコヌール宇宙基地から打ち上げられた。
KACSTの責任者であるアナス・ビン・ファリス博士は「今回の成果は、サウジアラビアのサルマン国王並びにムハンマド・ビン・サルマン皇太子より、王国の研究・開発・イノベーション部門が受けている大きな支援の賜物です」と述べている。
10月、サウジ宇宙委員会は国際宇宙航行連盟(IAF)に加盟した。
世界的に見ても、宇宙産業の可能性は計り知れない。モルガン・スタンレー社の最近の調査では、宇宙経済は2040年までに1兆ドル以上の価値を持つ可能性があることが明らかになっている。
昨年、UAEは2024年に月面調査のために小型ローバー「ラシード」を送る計画を発表した。このミッションが成功すれば、UAEは月面で探査機を運用した4番目の国となり、アラブ諸国では初となる。
アビド氏は「これらは非常に大きな技術的目標であると同時に、達成可能な目標でしょう。そして、若者たちのモチベーションの源になるでしょう」と語っている。
「学校に通っていて、自分が宇宙の仕事をしたり、ロケットを打ち上げたり、さまざまな惑星を探査したり、その探査をさらに発展させたりすることができると知る。そんな機会を与えられるなら、それは記念碑的な成果であり、その試みは継続する必要があるでしょう」
「それが可能なことは証明されています。そして、できることはまだまだあります。そして、地球を救うかもしれない、次のミッションは、若者たちの想像力にかかっているのです」
「結局人間は探検家なのであり、これらの技術的挑戦はその歩みを助けるための手段となるでしょう」
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ツイッター : @CalineMalek