イラク・サラロ:イラク北部の寂れた村サラロを見下ろすように、トルコ軍の3つの前哨基地がそびえ立っている。これは昨年、数日に及ぶ砲撃を経て、住民に避難を余儀なくさせた侵攻の一端を示している。
これらの前哨基地は、トルコが過去2年間にイラク領内に新たに構築した数十の軍事基地のほんの一部に過ぎない。トルコは、僻地の地形の険しい地域に潜むクルド人武装勢力に対する数十年に及ぶ攻撃を強化している。
サラロのアブドゥルラフマン・フセイン・ラシード村長は12月、砲弾の薬莢や破片が散乱する村を訪れた際に、「トルコが初めてこの地区にやって来た時は小型の携帯テントを設営していたが、春にはレンガとセメントで前哨基地を構築した」と述べた。
「ドローンやカメラを休みなく毎日24時間稼働させている。何が起こっているかを、連中はすべて把握している」と、国境から5キロの山岳地帯で頭上をドローンが音を立てて飛ぶ中で語った。
シリアへの侵攻やダーイシュとの戦闘と比べてほとんど世界の注目を集めていないが、トルコはますます人口が減少するイラク・クルディスタンの国境地域を横断してイラク領内に進撃している。エスカレートすると、外国勢力が大手を振って介入してきたこの地域がさらに不安定化する危険がある、とアナリストは述べている。
クルド当局者によると、イラク領内の新たな基地が継続的に攻撃を受けた場合、トルコはより深く巻き込まれる可能性がある。また、トルコのプレゼンスの高まりは、イランを大胆にさせ、イラン政府が国内の混乱を煽っていると非難するグループに対するイラク領内での軍事行動が拡大する可能性もあるという。
クルドの軍事組織ペシュメルガの元事務局長ジャバル・マンダ氏によると、トルコは2019年までイラク領内に前哨基地を29カ所構築していた。その後、クルド労働者党(PKK)が自国領に攻撃を仕掛けるのを阻止しようとして、その数は急増したという。
同氏は、「トルコ軍とPKKの戦闘が激化した後、年々前哨基地が増加している」と述べ、推定で現在は87カ所あるとした。その大半は国境地帯の長さ約150km、幅約30kmの帯状の地域に存在しているという。
あるクルド当局者は、匿名を条件に、トルコは現在イラク領内に前哨基地を約80カ所有していると述べた。別のクルド当局者は、この2年間に少なくとも50カ所が構築され、トルコのプレゼンスはより恒久的になりつつあると述べた。
イラク領内の基地についてコメントを求められたトルコ国防省は、イラクでの作戦は、攻撃を受けた場合の自衛権を加盟国に認めている国連憲章第51条に沿ったものだと言及した。
同省は声明で、「イラク北部でのテロとの戦いは、イラク当局との連携と緊密な協力の下で実施されている」と表明したが、クルド当局者が挙げた数字に関する質問への回答は含まれなかった。
長らくバグダッド政府の直接統治下にないイラク北部におけるトルコのプレゼンスは、1990年代にイラクの元指導者サダム・フセイン氏が、トルコ軍をPKKとの戦闘のためにイラク国内に5キロ進撃させたことに遡る。
以来、トルコは大きなプレゼンスを築いており、その中には国境から80キロイラク寄りのバシカにある基地1カ所が含まれる。同基地に関して、トルコ軍はイラク軍に訓練を施しダーイシュと戦う態勢を整えさせる国際ミッションの一部だった、とトルコ政府は表明した。トルコは、イラク当局との連携を通じて、民間人の犠牲を回避するよう努めたとも表明している。
NGOの連合体「越境爆撃に終止符を(End Cross-Border Bombing)」が8月に発表した報告書によると、2015年から2021年までに少なくとも98名の民間人が死亡したという。同様の民間人死者数を発表している国際危機グループは、2015年から2023年までに1,180名のPKK民兵が死亡したとしている。
イラクのクルディスタン地域政府(KRG)当局者によると、トルコとPKKの間の停戦が破綻した2015年以降、紛争によって少なくとも800の村が無人の地になり、家を追われた人は数千名を下回らないという。
クルド当局者によると、トルコの侵攻は人道問題に留まらない。地域のライバル国イランに、イラク国内での情報活動を強化し、独自の軍事行動をとる白紙委任状を与えることになり、紛争拡大を招く危険がある。
イランは既に、同国での女性に対する規制に反対する抗議デモに関与したとして、クルド人グループの基地にミサイルを撃ち込んでいる。これにより、数百名のクルド系イラン人が立ち退きを強いられ、死亡した者もいる。
イラクの親イラン派民兵もトルコのプレゼンスに対抗する口実を得ており、トルコ軍と非PKKグループとの間で事態がエスカレートする見込みが高まっている、とアナリストは指摘している。
ワシントン近東政策研究所に所属するイラク・シーア派民兵の専門家、ハムディ・マリク氏によると、リワ・アフラール・アル・イラク(イラクの自由民旅団)やアフラール・シンジャール(シンジャールの自由民)などの親イラングループが昨年、ブランド替えを行い、トルコのプレゼンスに対する抵抗勢力であると訴えるようになった。
ワシントン近東政策研究所の報告書によると、イラク領内のトルコ軍施設に対する攻撃は、2022年初めの月平均1.5回から、4月には7回に増加した。アラブセンター・ワシントンのムスタファ・グルブズ非常駐研究員は、「米国政府に深い敵意を抱くグループが作戦行動を強化すれば、米国と2千名のイラク駐留米軍の影響力を低下させるだろう」と述べた。
米シンクタンク・センチュリー財団のバグダッド在住アナリストであるサジャド・ジヤド氏は、「トルコは反対勢力の強さと、これらの施設が将来標的にされる、それも敵対行為が増加すればよりいっそう標的にされるという事実を過小評価している」と指摘する。
イラク北部の政治は分断化されており、バグダッドの連邦政府も地域政府であるKRGも、トルコのプレゼンスに対抗したり、PKKを封じ込めるというトルコ政府の目標を実現したりできるほど強力ではない。
バグダッド政府はトルコの侵攻に不快感を表明しているが、クルド人中心の北部ではほとんど権限を有していない。この地域を支配するクルド民主党(KDP)は、PKKをポピュリズムを標榜する有力なライバルとみなしているものの、対抗できるほどの火力を有していない。
KDPは歴史的にトルコと協力してきたが、軍事的、経済的にはるかに大きな影響力を行使するこの隣国に対する影響力は限られている。
KRGのジョティア・アディル報道官は、「PKKを含むすべての外国武装勢力に、クルディスタン地方をいかなる種類の紛争や緊張にも引きずり込まないよう要請する」と述べた。
「PKKは、トルコがクルディスタン地域の我が領土に侵入した主たる理由である。したがって、我が政府はPKKが立ち去るべきであると考えている。我が政府は、この長年の紛争の当事者ではなく、どちらの側にもつく予定はない」と同氏は述べた。
イラク・クルド地域のマスルール・バルザニ首相は、トルコとPKKの紛争は懸念事項だが、ダーイシュの脅威ほど切迫していないと述べている。
獄中にあるPKK指導者アブドラ・オジャラン氏の思想に影響を受けたイラクの民間抵抗組織「クルディスタン解放運動」の主要メンバーであるハリアム・マフムード氏は、トルコがどれだけ締めつけてきても、抵抗を続けると述べた。
スレイマニヤの南方、ガルミアン地区に住むマフムード氏は、「私たちの考えでは、これは占領であり、抵抗のための戦闘は正当な権利だ」と述べた。
一方、一般市民も犠牲を払い続けている。ラムザン・アリ氏(72)は、2021年にサラロから数キロ離れたヒルレで畑を灌漑していた際に、大きな爆音を聞いた。次に覚えているのは、血まみれで地面に倒れていたことだ。
トルコ軍の砲弾が同氏の土地に撃ち込まれたのだという。トルコ軍がPKKの攻撃に砲撃で対抗する際によくあることだ、と同氏は述べた。
ロイター