
ヨルダン川西岸、ラマッラー:パレスチナ自治政府は26日、アルジャジーラ記者シリーン・アブアクラさんの射殺事件に関する調査の結果を発表した。逃げようとしたところをイスラエル軍に故意に殺されたことが証明されたというものだった。
この調査結果は、約2週間前に発表された予備調査の結果と同じであり、大方の予想通りだった。イスラエルはこの報告書を、偏っていて根拠がないとして拒絶する可能性が高い。
アブアクラさんはパレスチナ系米国人で、アルジャジーラのアラビア語サービスのベテラン記者だった。5月11日、イスラエル軍がヨルダン川西岸のジェニン市を急襲していたときに頭部を撃たれた。
目撃者とパレスチナ当局は、彼女はイスラエルに撃たれたと言っている。イスラエルは、イスラエル兵とパレスチナ武装勢力の戦闘中に撃たれたと言っている。(パレスチナ自治区が持っている)弾丸の弾道解析とイスラエル兵の銃によってのみ、射殺した人物を特定することができる、とイスラエルは主張している。
パレスチナのアクラム・アル・ハティーブ司法長官は、ヨルダン川西岸のラマッラーで記者会見を開いて調査結果を発表し、アブアクラさんの近くには武装勢力はいなかったと判断したと述べた。
「唯一の発砲は占領軍によるもので、殺害目的だった」と同氏は述べた。
アブアクラさんは、ヘルメットと「プレス(報道)」と書かれた防弾チョッキを着用したジャーナリスト集団の中にいた。イスラエル軍はそのジャーナリストたちを見ており、彼らがジャーナリストであることを知っていた、と同氏は述べた。
同氏は、逃げようとした彼女をイスラエルが「直接、故意に」撃ったと非難した。同氏はまた、調査のために弾丸をイスラエルに引き渡さないというパレスチナの立場を繰り返した。彼らはイスラエルに「新たなうそを言わせないために」弾丸の画像すら見せないことにしたという。
アル・ハティーブ氏は、目撃者へのインタビューや実地検証、法医学的報告に基づいて調査したと述べた。
イスラエルからの返答はない。
イスラエルは、ジャーナリストを標的にしていなかったと主張し、起こりえた2つのシナリオを提示している。イスラエル軍の車列に無謀な発砲をしていたパレスチナ武装勢力に撃たれたか、近くにいた武装勢力を狙ってイスラエルが発砲し、撃たれたというものだ。イスラエル軍は後者のシナリオで使われた可能性のあるライフルを特定したが、最終判断を下すには弾丸を検査する必要があるとしている。
AP通信が事件を再現したところ、彼女はイスラエル軍に撃たれたという目撃者の証言が裏付けられた。しかし、この再現は、法医学的にさらに分析しなければ、決定的な調査結果にすることできないとされている。
パレスチナ人の目撃者によると、彼女の近くに武装勢力はおらず、衝突もなかったという。この地域で唯一知られている武装勢力は車列の反対側にいたが、彼女がいた場所からは約300メートル(ヤード)離れていた。
車列とは異なり、その武装勢力は照準線に入っていなかった。長い直線道路上で約200メートル離れていた。
イスラエルは、米国も参加するパレスチナ自治区との共同調査を正式に要請し、パレスチナ自治政府に検査のために弾丸を引き渡すよう求めている。しかし米国務省は25日、彼女が死んでから2週間経過したが、どちら側からも正式な支援要請を受けていないと発表した。
パレスチナ自治政府は弾丸をイスラエルに引き渡すことも、何らかの形で協力することも拒否しており、イスラエルに自らの行為の調査を任せることはできないと言っている。人権団体によると、イスラエルは治安部隊によるパレスチナ人への発砲事件の調査をした実績に乏しく、数カ月~数年待たされた後、ひっそりと打ち切られることが多いという。
パレスチナ自治政府は、イスラエルが占領しているヨルダン川西岸の一部を統治している。パレスチナ政府高官のフセイン・アル・シェイク氏は、26日に出された報告書は米国と共有されるだろうと述べた。報告書のコピーは彼女の遺族とアルジャジーラに届けられる予定だという。
パレスチナは調査結果を、国際刑事裁判所を含む国際的な関係者と共有すると言っている。国際刑事裁判所は昨年、イスラエルの戦争犯罪の可能性について調査を開始した。イスラエルはその調査を、イスラエルに偏見を持っているとして拒否しており、協力していない。
強い不信感があるため、アブアクラさんの死に関してイスラエルの調査とパレスチナの調査が別々に進むことになり、どちらの側も相手の出した結論を受け入れる可能性が低くなる。
双方が決定的証拠になりうるものを専有している。弾道解析は、微小な痕跡から弾丸と特定の銃器を照合できる可能性があるが、調査員が両方を入手できる場合に限られる。軍報道官のアムノン・シェフラー中佐はAP通信に対し、イスラエル軍は事件当日の映像を他にも持っていると話したが、調査が進行中であることを理由に、それが何を示しているか、いつ公開されるかについては明言を避けた。
パレスチナ人はアブアクラさんの死を今も悲しんでいる。彼女は有名で尊敬されている放送記者であり、20年前、パレスチナの第二次インティファーダ(反イスラエル闘争)で世に知られるようになった。
51歳の彼女は、イスラエル軍の統治下での生活の厳しい現実(60年経っても終わりは見えない)を記録し、アラブ世界の視聴者に伝えてきた。
ジェニンは昔からパレスチナ武装勢力の拠点であり、イスラエル国内で最近行われた攻撃のいくつかは、ジェニンやジェニン周辺の若者によるものだ。イスラエルは、アブアクラさんが死んだ後もジェニンでほぼ毎日襲撃を続けている。さらなる攻撃を防ぐためだ、とイスラエルは主張している。
イスラエルは1967年の戦争でヨルダン川西岸を占領し、約50万人のイスラエル人と約300万人のパレスチナ人が共存する入植地を建設した。パレスチナ人は、この地域が将来のパレスチナ国家の中心部になることを望んでいるが、和平交渉は10年以上前に決裂し、イスラエルの連立与党である複数の右派政党はパレスチナ国家の樹立に反対している。
パレスチナ自治政府自体は、多くのパレスチナ人から、腐敗した権威主義的な組織で、安全保障問題でイスラエルと連携し、占領を助けていると思われている。アブアクラさんの調査でイスラエルと協力すれば、彼女はジャーナリズムと国是に殉じたと思っているパレスチナの大衆の反感を買う可能性が高い。
AP