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イラクの考古学的遺産、気候変動の脅威に直面

最古の東方キリスト教会のひとつと言われている教会がある、イラクのアル・アキザー遺跡。(AFP)
最古の東方キリスト教会のひとつと言われている教会がある、イラクのアル・アキザー遺跡。(AFP)
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30 Jul 2022 08:07:59 GMT9
30 Jul 2022 08:07:59 GMT9
  • 砂嵐や気温と塩分濃度の上昇が、遺跡や発掘現場を傷つけ、保護活動を阻害している
  • 異常気象が、かつて緑豊かだった南部の湿地帯など、イラクの自然遺産を傷つけている

レベッカ・アン・プロクター

ドバイ:1月、過去3年間にイラクを襲った干ばつのため、北部のモスルダムの水位が1986年の建設以来、最低のレベルにまで低下した。しかし水が引くと、水面下から思いがけないものが現れた。

見物人が驚いたことに、チグリス川の岸辺に3,400年前のミタンニ帝国の遺跡があっていたのである。

しかし、現在のイラクのクルディスタン半自治区にあるこの集落は、わずか2か月間出現しただけで再び水中に沈んでしまった。考古学者たちは、遺跡が現れている間にできるだけ多く発掘するために急がなければならなかった。

6週間にわたる集中的な作業によって、アッシリア時代初期の楔形文字が刻まれた粘土板が100枚以上発見された。

2021年11月、ディカールのラガシュ王国の首都である古代都市ギルスで発掘を行う、大英博物館とイラクの考古学者たち。(Getty Images)

ドイツとクルドの考古学者のチームは、この遺跡が青銅器時代の紀元前1550年から1350年頃のものであると特定できた。彼らはこの集落が、かつて政治の中心地として賑わっていた古代都市Zakhikuである可能性があると考えている。

間違いなくエキサイティングな発見であるが、水位の低下を引き起こしたこの異常気象は、「文明発祥の地」と呼ばれるイラクの他の地域にある古代の遺跡に被害も及ぼしている。

科学者は、ヨーロッパでの鉄砲水や中東での砂嵐など最近世界中で起こっている異常気象は、人為的な気候変動の証拠であり、炭素排出量を迅速かつ劇的に削減しない限り、さらに悪化して頻度が高くなると考えている。

しかし、こうした異常気象が世界遺産に及ぼす影響については、あまりよく分かっていない。より確かなことは、中東と北アフリカでは、砂漠化、干ばつ、気候変動が恐ろしく混じり合っており、遺跡や発掘現場に被害を及ぼし、保護活動を台無しにしているということだ。

たとえばイエメンでは、16世紀の城壁都市シバームの泥レンガの高層建築が、激しい降雨によって損なわれつつある。シバームはユネスコの世界遺産にも登録されており、1930年代に英国の探検家フレヤ・スターク氏が「砂漠のマンハッタン」と呼んだ。

バングラデシュ南部のユネスコ世界遺産バゲルハットでは、大雨による大規模な洪水で塩水が発生し、市内にある数多くのインド・イスラム寺院の基盤が損傷している。

エジプトでは、高温と豪雨と洪水が、カイロやルクソールやアレキサンドリアなどさまざまな場所にあるモニュメントの古代石造物を傷つけている。

カルナック神殿の修復の専門家であるアブデルハキム・エルバドリー氏は、かつてバラ色だった花崗岩が、この15年間で薄いピンクや薄い灰色にまで色あせてきたとロイターに語った。「ここルクソールのすべての遺跡で、その変化を目の当たりにすることができます」

一方、イラク中央部では、安全保障に慎重な考古学者がなかなか到達できない丘の頂上にある多くの遺跡が、強風によって破壊されている。

ユネスコと、国連環境計画と、憂慮する科学者同盟の調査によると、気候変動は史跡やモニュメントにとってもっとも大きな脅威のひとつになっている。

「気候変動における世界遺産と観光」と題された2016年の共同報告書では、これらの遺跡の気候的脆弱性の高まりと、それが世界の観光産業に与える影響について検討された。国連によると、イラクは世界で5番目に気候変動の影響を受けやすい国である。

イラク南部の町アル・アゼイルを横切る湿地帯から、ひびの入った土のかけらを取り除くイラク人男性。イラク南部の湿地帯はほぼ完全に消滅した。(AFP)

イラクのアル・カーディシーヤ大学の地質考古学者であるジャアファル・ジョゼリ氏は、「気候変動の観点から文化遺産に影響を与える3つの要因があります。砂嵐と、気温の上昇と、塩分、つまりつまり土壌中の塩分です」とアラブニュースに語った。

「ほとんどの遺跡はウルのような砂漠の都市の外にあります。砂嵐は人間などの生物だけでなく、歴史的建造物にも影響を及ぼします。強風によって亀裂が生じて表面が破壊されるのと同じように、粉塵が遺跡の内部に集まり、その構造に影響を及ぼすのです」

さらに、日中の極端な高温と夜間の低温が、古い建造物のレンガを膨張させたり収縮させたりして、亀裂を生じさせる。

そして、塩分濃度の上昇という問題もある。「農民を含め、都市内外の人々は、河川に淡水がなくなるため、地下水に頼ることが多くなっています」とジョゼリ氏は述べている。

「地下水はさらに多くの塩分を含んでいます。地下水を灌漑用水としてだけでなく、生活用水としても利用しているため、あらゆる地表に塩分や塩水が出現するようになっているのです」

「塩分を含んだ地下水を使えば使うほど、塩分を含んだ地表が露出することになります。人々は排水溝を利用しますが、その排水溝にも塩分が蓄積され歴史的建造物の基礎部分にまで達し、レンガや壁に亀裂を生じさせます」

イラクは最近まで、人為的な気候変動の明白な兆候とみなされている多くの事柄に対して対処されることはなかった。「気温は温暖で、砂嵐はそれほど激しくなく頻度も少なく、淡水があったので地下水を使う必要はありませんでした」とジョゼリ氏は述べている。

気候変動は、イラクの自然にも悪影響を及ぼしている。ユーフラテス川に近いムサンナー県にある、「南部の真珠」と呼ばれるサワ湖のように、湖全体が消滅してしまったのだ。

かつては緑豊かだった南部の湿地帯は、サダム・フセイン氏によって水を奪われ、フセイン政権崩壊後に再び水が戻ったが、今回は気象パターンの変化により再び消滅しつつある。

何世代にもわたってこの地域に住んできたベドウィンのコミュニティは、結果として立ち退きを余儀なくされている。「イラクは、自然景観、遺産、伝統など、すべてを失いつつあります」とジョゼリ氏は述べている。

2021年11月、世界銀行は、イラクの水資源が気候変動によって2050年までに20%減少する恐れがあると警告した。

5月、イラク通信社は、過去20年間に砂塵の多い日が年間243日から272日に増加し、2050年には砂嵐が年間最大300日発生する可能性があると報じた。

イラクの学術研究所タリイの地域ディレクターであるラナ・ハダッド氏はアラブニュースに対し、「私はこの2ヶ月という短期間に、個人的に10数回以上の砂嵐を目撃してきました」と語った。

「砂漠化と砂嵐の増加は、すでに廃墟と化していてまだ修復されていない発掘現場や歴史的建造物の浸食に影響を及ぼしています」

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン考古学研究所の近東考古学のリーダーであるマーク・アルタウィール氏は、気候変動が世界遺産に深刻な脅威をもたらすと確信している。

彼はアラブニュースに対し、「これには、より頻繁な砂嵐、遺跡の風化、時には過酷な豪雨など、遺跡の損傷や劣化につながる事象が含まれています」と語った。

イラクのモスル近郊で、干ばつで固くなった土を点検する農民。(AFP)

たとえば、サーサーン朝時代のペルシア遺跡であるターク・キスラなどのイラクの遺跡はかなり風化しており、その結果、建物が部分的に崩壊しているのだ。

「突然の激しい雨に見舞われた村やさまざまな場所で、モスクや古い家屋が倒壊しています」とアルタウィール氏は述べている。

「砂嵐は我々の仕事を中断させ、おもに視界と機材に影響を及ぼしますが、遺跡にも影響を及ぼすことがあります。考古学者にとっておもな課題は、飛行機や作業にも支障をきたすほどの砂嵐が頻繁に発生するようなイラクのように場所で作業することなのです」

さらなる被害を防ぐために当局ができることはおもに、地下水の過剰利用や地表水の不適切な管理など、差し迫った人為的原因に取り組むことだと、アルタウィール氏は述べている。

「再緑化の努力は必要ですが、植物が生き残るように慎重に行う必要がありますし、植物は砂の飛散を防ぐことができます」とアルタウィール氏は語った。

国際社会にも、遺産を保護する責任がある。憂慮する科学者同盟の気候・エネルギープログラム副部長のアダム・マーカムは2019年、「世界がこれらの遺跡を救いたいなら、各国が財源を共有する必要がある」とTIME誌に語っている。

さらに、建築家や考古学者は、伝統的な職人技や知識を守ることが、こうした遺跡の遺産の修復・復元・維持に最善の方法であることを発見している。しかし今日では、そのようなスキルを持っている人がほとんどいない。

カイロでは、エジプトで唯一のイスラム伝統工芸の専門学校であるジャミール伝統芸術学校では、何世紀も前の伝統技術の保存に情熱を傾ける学生たちが、エジプトの多くの古代遺跡の修復に不可欠と考えられている。

イラクでは、他の多くのアラブ諸国と同様に、史跡やモニュメントが気候変動の危険にさらされている可能性がある。(AFP)

気候変動の影響によって破壊が進むことが懸念される中、彼らは時間との戦いに巻き込まれている。

極端な気候変動が近代的なインフラに打撃を与え、資源を枯渇させ、生活を破壊し、立ち退きや紛争すら引き起こしたことを、現代社会の教訓にすべきである。

「砂漠化した地域にある古代遺跡の位置を見てみると、気候変動が強制移住の重要な要因であり、結果として集落が放棄されたことがよくわかります」とハダッド氏は述べている。

「社会は常に、農業用水や都市部で成長するコミュニティへの水の供給という課題に直面しています。近い将来、水をめぐる争いを避けるために、過去からこれらの教訓を学ぶ必要があるのです」

ジョゼリ氏は、気候変動の明白な影響に対して早急に対処しなければ、特にイラクのような社会において、さらなる暴力につながりかねないと懸念している。

「それはイラク南部の部族間や、国内の他の州との紛争につながるでしょう」と彼は述べている。

「我々の政府は脆弱であり、気候変動の脅威に立ち向かうには強力な政府が必要です。たとえば、今後数年の間にチグリス川やユーフラテス川で水がなくなったり減ったりすれば、人々は水をめぐって争い始めるでしょう」

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