ナディア・アル・ファウル
ドバイ:道徳警察の手中にあった22歳のマフサ・アミニ氏の死亡後、イランでは31の州と都市部のほぼ全域に抗議活動が広がっている。アミニ氏は9月13日、テヘランの地下鉄駅で道徳警察(ガイダンス・パトロール(Gasht-e Ershad))の巡視隊に、イスラム共和国の厳格な服装規定に違反したとして逮捕された。
彼女は逮捕後に入院し、昏睡状態に陥って3日後に死亡した。イラン当局は、死因は心臓発作であると主張している。遺族は、彼女に心臓の持病はなかったと話している。
彼女の死は、数々の不満と幅広い社会経済的な懸念に沸き立つ国民に怒りをもたらした。
イランの女性たちは、道徳警察の強引なやり方に辟易しており、アミニ氏を支持して髪の束を切る動画をインターネット上に投稿している。街頭のデモ参加者らは、「道徳警察に死を」、「女性、生命、自由」と唱えている。
女性のデモ参加者が反抗を示す行為としてスカーフを脱ぎ、燃やし、路上で踊る姿も見られる。抗議者に対して、国家警察は催涙ガスで攻撃して取り締まり、イスラム革命防衛隊の有志は彼らを殴っている。これまでに少なくとも41人が死亡した。
イスラム革命時代にアメリカに逃れたあるイラン人男性は、「テヘランではインターネットが遮断されました。私から家族には連絡を取れずにいますが、たまにメッセージが届きます。」とアラブニュースに語った。
名字を伏せて取材に応じたメフディ氏は、さらに「私たちは、今回は政府が譲歩するのではないかと希望を持っています。これは、革命以来最大のデモとなりました。イランで起きていることに誇りを覚えます。」と付け加えた。カーネギー国際平和財団の上級研究員であるカリム・サジダプール氏は、ワシントンポスト紙に寄稿し、アミニ氏殺害への抗議行動を「40年以上にわたってイランを支配してきた祖父の世代に対する、国の孫娘の世代によるもの」と表現した。
イランでは1979年のイスラム革命以来、シャリア法により、女性は公共の場でヘッドスカーフやゆったりした衣服を着用することが義務づけられている。この掟を守らない者は、罰金を課され、または刑務所に入れられる。
イラン当局は、革命後ただちに、女性に慎み深い服装をさせ、この義務的な服装の「誤った」着用を不可とする運動を開始した。これにより、モハマド・レザー・パフラヴィー国王のもと、女性の服装が自由とされていた時代に終止符が打たれた。この王政時代には、西洋の衣服を頻繁に着用していた国王夫人のファラ氏は、現代女性の代表的な姿として支持されていた。
1981年まで、女性は公共の場で腕を見せることを禁じられていた。1983年、イラン議会は、公共の場で髪を覆わなかった女性に74回の鞭打ちの刑を科すことを決定した。近年では、刑を加重して最長60日間の禁固刑も追加された。
1979年以降規則の発展は続き、女性の服装規定の運用の厳しさの程度は、どの大統領が就任するかによって左右されている。服装規定を実施するべくガイダンス・パトロールが結成されたのは、2005年に超保守的なテヘラン市長であったマフムード・アフマディネジャド氏が大統領に就任した後のことであった。
比較的穏健派とされるハッサン・ロウハーニー大統領の時代には、制限が若干緩和された。ロウハーニー大統領が道徳警察の攻撃性を非難した後、2017年に、同警察のトップが、今後は服装規定に違反した女性を逮捕しないと宣言した。
だが、イブラヒム・ライシ大統領の統治では、道徳警察が再び強化されたようだ。ライシ大統領は、8月、女性が公共の場で常にヒジャブを着用することを義務付ける規則の執行を厳格化する政令に署名した。
ライシ氏は、先週の国連総会における演説でカナダによる先住民への処遇問題を指摘して、イランでの抗議活動の非難を逸らそうとし、西欧諸国は人権に関してダブルスタンダートを用いていると非難した。
大量虐殺を恥じない悪辣な政権に対して立ち上がった女性たちを見ると、鳥肌が立ちます。
イスラム革命中にアメリカへ逃れたメフディ氏
一方、ライシ政権は、将来のアメリカ大統領が2015年の核合意を破棄したとしても、厳しい制裁の解除および欧米企業が再開した事業活動が中止されない旨の何らかの保証を求めている。またイラン当局は、3カ所で見つかった不正な核物質に関する国際原子力機関の懸念に異議を唱え、IAEAの調査終了を望んでいる。
イランでの抗議活動は目新しいものではない。2009年には、不正と思われる選挙結果をめぐって抗議活動を行う「緑の運動」が起こった。2019年には、燃料価格の高騰や生活環境と基本的ニーズの水準悪化に対するデモが行われた。
今年の抗議は、本質的にフェミニスト的活動である点でこれらと異なる。人権NGOユナイテッド・フォー・イランの執行役員であるフィルゼ・マフムーディ氏は、イランで女性が一斉にヒジャブを脱ぎ、パトカーを燃やし、アヤトラ・アリー・ハメネイ氏(同国の最高指導者)の写真を破り捨てる姿を目にするのは前代未聞だと指摘する。
男性が「我々の姉妹と女性、人生、自由を支持する」と唱える姿を見るのも初めてのことである。
マフムーディ氏は、「イラン人女性たちは、ソーシャルメディア、携帯アプリ、ブログやウェブサイトを通じて、公の議論に積極的に参加し、市民権を行使しています」と述べる。「幸運にも、女性の権利運動が高まり、父権的でミソジニストであるこの政府は、インターネットを完全に検閲し、支配する方法をまだ見つけられていない」
2009年よりアメリカに亡命しているイラン人政治活動家であるマシフ・アリネジャド氏は、イランの女性たちから多くのメッセージを受け取っているという。女性らは、自らの不満や抗議活動の動画、そしてこれが最後になるかもしれないと信じている両親との別れを、彼女に伝えてきたのである。
アリネジャド氏はメッセージから女性たちの怒りが伝わってくると述べ、ヒジャブとは政府にとって、女性、ひいては社会を支配する手段であるとし、「彼女たちの髪やアイデンティティは人質に取られているのです。」と付言した。
大勢のイランの男性著名人も、抗議行動と女性たちへの支持を表明している。政権交代や社会・政治問題をテーマにした歌詞を理由に今年初めに逮捕された反体制派のラッパーであるトゥマジ・サレヒ氏は、街中を歩く自らの動画を投稿し、次のように述べた。「私の涙は乾かない、それは血だ、それは怒りだ。終わりは近い、歴史は繰り返される。我々を恐れよ、引き下がれ、自分は終わったのだと知れ」
一方、映画業界は24日土曜日に、武器を捨てるよう軍隊に呼びかける声明を発表し、「国民の腕の中へと戻る」ようにと訴えた。
多くの有名女優が、この運動と抗議行動を支持してヒジャブを脱いだ。イラン文化相であるモハマド・メフディ・イスマイリ氏は、インターネット上で支持を表明してヒジャブを脱いだ女優は、もはやキャリアを追求することはできない、と述べた。
24日土曜日のツイートで、サジダプール氏は次のように述べた。「イランの抗議行動を理解するには、先週イランで殺された若い現代的な女性たち(マフサ・アミニ氏、 ガザレ・シェラヴィ氏、ハナネ・キア氏、マフサ・モゴイ氏)の画像と、国を支配するエリート、ほとんど全員が深く伝統に染まった高齢男性たちの画像を並べてみると印象的です」
イラン当局は携帯インターネット接続を遮断し、ワッツアップやインスタグラムのサービス利用を妨げた。イランの国営メディアISNAでは、イッサ・ザレプール通信相がこの行為を「国家安全保障」のためであるとして正当化し、ソーシャルメディアやワッツアップの遮断がいつまで続くかについては、その実施目的が「安全保障の目的および直近の出来事に関する議論」のためであるので不明であると語った。
しかし、オックスフォード・インターネット研究所の学者で、イランのインターネット遮断や統制を研究しているマフサ・アリマルダニ氏は、当局がこれらのサービスを標的とするのは、「抗議活動を存続させている情報やコミュニケーションの生命線」であるからだと指摘する。
ツイッターでは、3000万を優に超える数のペルシャ語のハッシュタグ「#MahsaAmini」(#マフサアミニ)が投稿されている。
アメリカ在住のイラン人であるメフディ氏は、「イランの誰でも、当局はデモ参加者を厳しく取り締まり、殺害することを分かっている」と語った。
「彼らにとっては、ほとんど射撃訓練のようなものです。権力を維持するための大量虐殺も恥じない冷酷で悪辣な政権に対して、現地の女性たちが立ち向かっている姿を見ると、鳥肌が立ちます。彼女たちの行動は、相当の勇気を要することです」
望みを持って将来を見据えながら、彼はこう言った。「炎はもう燃え上がりました。私たちは引き下がるような人間ではありません」