シーニー・ヤスコ・ライ
デンパサル、バリ:15日に開幕した主要20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)では、今年始まったロシアによるウクライナ侵攻が地政学的緊張を高め食料・エネルギー価格を世界的に高騰させる中、他の全ての議題がかすんでしまったようだ。
G20加盟国、招待国、国際機関の指導者らがバリ島に一堂に会し、景気後退に近づきつつある世界経済が直面する喫緊の課題について議論する。
世界で4番目に人口の多い国であり東南アジア最大の経済国であるインドネシアで開催される今回のサミットは、新型コロナパンデミックとその経済的影響から「共に回復する、より強く回復する」というテーマを掲げている。
サミットの公式の焦点は金融の安定、保健、持続可能なエネルギー、デジタル変革に置かれているが、ウクライナ侵攻をめぐるG20内の亀裂を埋めようとする開催国インドネシアはまた別の複雑性に直面している。
インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は15日、非公開の議論が始まる直前に行った開会スピーチで、そのようなムードがあることを認めた。
同大統領は、「我々がこの部屋で席を並べることができるためには大きな努力が必要なことは理解している」と述べ、各国間の協力を呼びかけた。
また、世界は「新たな冷戦」に陥るわけにはいかないと指摘し、「戦争を終わらせる」ために各国が努力しなければならないと述べた。
「本日、世界の目は我々の会議に向けられている。我々は成功を収められるだろうか。それともまたもや失敗を重ねることになるのか。我々はG20を成功させなければならない。失敗は許されない」
今週のサミットには、米国のジョー・バイデン大統領、中国の習近平国家主席、サウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子殿下をはじめとするG20首脳17人が出席している。
また、UAEのシェイク・ムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン大統領やシンガポールのリー・シェンロン首相も世界の指導者の長いリストに名を連ねているほか、インドネシアは加盟国以外の国や国際機関も招待している。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はサミット初日にビデオ演説し、紛争の終結が見えてきたかもしれないという楽観を示した。
「今こそロシアによる破壊的な戦争を止めなければならない、止めることができる時だと確信している」
開催国インドネシアはインフレなどの世界経済の問題や食料・エネルギー安全保障を解決するための対話と協力を呼びかけているものの、サミットの最終宣言ではウクライナの戦争が目立って前面に出されるだろうとアナリストは予想している。
昨年12月にインドネシアが議長国となって以来、G20閣僚会合は共同宣言を出すことができずにいる。ロシアと他の加盟国との間に、ウクライナで起こっていることをどのような言葉で表現するかといった細かい言葉遣いをめぐる意見の相違があるのだ。
オーストラリアのクイーンズランド大学で国際関係を研究しているインドネシア人のアフマド・リズキー・マルダティラ・ウマル博士は、16日に発表されるとみられる最終宣言は、現在世界が直面している世界的課題に十分に答えるものにはならない可能性が高いと語る。
同博士はアラブニュースに対し次のように語った。「例えば、いくつかの政治的問題をめぐる米中間の緊張やウクライナの戦争を考えても、現在世界が直面している世界的課題を解決できるような納得のゆく成果を今回のG20サミットが出せるとは考えにくい。それらの課題は主に政治的問題だからだ」
「だからインドネシアにとって、全ての世界的課題を解決できるような共同宣言を出すことは難しい」
同博士は、現在世界が直面する課題は「インドネシアの力の及ばないもの」だと指摘する。
それは「現在の世界的危機は政治的解決を必要としており、例えばロシアとウクライナの間をインドネシアが仲介することは難しいから」だという。
バリのサミットまでに、インドネシアはロシアとウクライナの間の和平を仲介する協調努力を行ってきた。ウィドド大統領は6月下旬、この戦争が国際社会に与える影響を緩和する努力の一環として、アジアの指導者として初めてキーウとモスクワを訪問して両国の大統領と会談している。
インドネシアの首都ジャカルタにある「経済法務研究センター」の所長であるビマ・ユディシスティラ氏も、現在の世界情勢はインドネシアの手に余るものだと見ている。
同氏はアラブニュースに対し次のように語った。「今回のサミットにはウクライナの戦争が影を落としており、最終宣言に至らない可能性もある。会議の成功のカギとなるのはこの宣言なのだが」
「インドネシアの立場は発展途上国であり、紛争中の国や先進国が決定力のあるプレイヤーとなる。だから、米国のジョー・バイデン大統領と中国の習近平国家主席の会談を手助けすることができただけで既に現時点での成果と言える」
バイデン大統領は15日、就任以来初となる習主席との対面会談に臨んだ。貿易から台湾の地位にまで至る様々な問題をめぐって米中関係が緊張する中での会談となった。
ユディシスティラ氏は、それでも今年のG20サミットは歴史に残るものになると確信している。
「歴史的なG20になると思う。歴史的と言うのは二極化や多国間主義の亀裂のためだが、それでも、米国と中国の間などの相違を仲介することのできる唯一のフォーラムなのだ」
今回のサミットが安定をもたらす可能性に期待する人もいる。
インドネシア商工会議所ジャカルタ支部の会長ダイアナ・デウィ氏はアラブニュースに対し次のように語った。「このサミットが世界平和につながる希望はある。経済成長を目指すだけでなく、ウィドド大統領が言ったように、団結を目指すサミットだからだ」
報道機関は15日、世界の経済大国の首脳らはロシアによるウクライナ侵攻を非難する強いメッセージを発する用意があるようだと報じた。ただ、宣言案はこれから全加盟国による承認を得る必要がある。
アジア通貨危機を受けて1999年に設立されたG20は、当初は世界的な経済協力の促進を目的としていた。しかしそれ以降、世界の喫緊の課題に対処するためのフォーラムへと変わっていった。今年の焦点は保健インフラと食料安全保障だ。
この年一回のサミットは非公式の外交交流の機会にもなっている。会議に合わせて各国首脳が二国間会談を行うのだ。
15日には多くの二国間会談が行われた。習主席とオーストラリアのアンソニー・アルバニージー新首相の会談もその一つで、2016年以来初めての両国首脳の公式会談となった。
サウジの皇太子殿下もサミットに合わせて多数の会談を行った。UAE大統領、イギリスのリシ・スナク首相、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領などだ。
インドネシアのジャーナリストであるアンドレアス・イスマル氏はアラブニュースに対し、その世界経済における地位から米中のサミット参加に世界の報道の注目が集まっているが、サウジアラビアの役割は「非常に重要」だと語った。
同氏は、「経済を多角化し石油依存を減らす必要があるサウジアラビアは、そのための多くの機会をこのサミットで得ることができる」と指摘し、同国の経済を多角化して炭化水素依存を減らすことを目指す改革プラン「ビジョン2030」に言及した。
サウジアラムコとインドネシアの国有企業プルタミナは先日、クリーンなアンモニアおよび水素のバリューチェーンの開発に向けて協力することで合意した。両国が再生可能エネルギー源への移行に優先的に取り組んでいる中での動きだ。
イスマル氏は次のように語った。「サウジアラビアとインドネシアの間には今後も多くの動きがあると思う。両国の協力は以前はもっと政治的・文化的なものだったが、今は経済の方に急速にシフトしている」