
ウバイ・シャーバンダル
ワシントンD.C.:「マールギュ・バール・ディクタトール(独裁者に死を)」― イラン・イスラム共和国のほぼ全土を覆い尽くしたデモの大波のスローガンとなっている言葉だ。
報道機関は依然として国家の国内治安当局の厳しい統制下に置かれているものの、学校でのデモ、エネルギー施設でのストライキ、テヘランからアフヴァーズまでの主要道路沿いの集会などをスマートフォンで撮影した解像度の低い動画が、イランの最高指導者アリー・ハメネイ師による支配をかつてないほどに揺さぶっている。
イラン体制が大きな挑戦に直面するのは2009年の「グリーン革命」以来だ。当時、ソーシャルメディアがリアルタイムのアクセスと、不満を抱え改革を求めるイランの若者たちのために大いに必要とされていた声を提供できるようになった時代に巻き起こったこの運動は、世界の想像力を捉えた。
2009年のデモに対するマフムード・アフマディネジャド大統領(当時)の体制の対応は残忍かつ迅速なものだった。
「イスラム革命」の限界点と思われた状況に世界は魅了されたものの、改革を求める声に応えたのは異常なまでの残忍さと大量殺人だった。それを実行したのは、政府の私服準軍事支部「バスィージ」と、革命防衛隊(IRGC)の特別部隊「パサドラン」だ。
イラン国内のデモ参加者たちはこれまでと同じく決意を固めている。「モジャヘディネ・ハルグ」の抵抗部隊のメンバーでイランの都市ラシュトから来たアテフェさん(32)は、「(イラン)国民の利益に反する体制のせいで貧困、破壊、着服が蔓延していること」が「反乱とデモのスピードと進展を加速させている」原動力だと語った。「この3ヶ月でイランは完全に変わりました」
ハメネイ師の治安部隊は今回ばかりは、持続的な全国的反乱となりつつあるデモを鎮圧するために以前と同じ戦略は使えないかもしれないと、観測筋や専門家は見る。米国を拠点とする「民主主義防衛財団」のイランアナリストであるサイード・ガセミネジャド氏はアラブニュースに対し、ハメネイ師の体制が終焉を迎えるのは時間の問題だという考えを示した。
同氏は次のように語った。「体制とイラン国民大多数の間には血の海が広がっている。
改革計画の失敗を30年間経験し続けているから、政治改革だろうが経済改革だろうが社会改革だろうが、国民はもはや改革という神話を信じていない。
体制が置かれているのは、デモに譲歩すればほぼ間違いなく自らの終焉を早めることになるという状況だ」
これまでイランでは、身体的・性的暴力や、変革を求める人々の処刑・大量逮捕は、経済・社会環境の改善を間もなく行うという約束と同時に行われてきた。
しかし、この戦術も自然消滅したようで、妥協の可能性は低くなっている。
ガセミネジャド氏は次のように語った。「残忍な暴力の行使が体制の唯一の選択肢となっている。今のところそれは功を奏していない。たとえ一時的に効き目があったとしても、過去5年間に見られたように、あらゆるデモの後にはさらに大きいデモが起こるのだ」
それでは、2023年には1979年に始まった体制が崩壊するのだろうか。
そのような帰結もあり得ないとは言えなくなっている。IRGCが国民のデモを鎮圧しようとして暴力の行使を独占しているかもしれないが、他の要因も作用し始めており、イラン体制の崩壊が引き起こされることもあり得る。
ガセミネジャド氏は、「2023年には様々な要因によってイスラム共和国の運命が決まる」と予想する。
「例えば、最高指導者の死や核施設に対する軍事攻撃が今後1年間で起こるかもしれず、そうなればイランの革命に重大な影響を与えるだろう」
体制に対して突然ショックが与えられることもあり得る。ハメネイ師はもはやIRGCの精鋭部隊「コッズ部隊」元司令官のガーセム・ソレイマニ氏に頼ることはできない。2020年にバグダッドで米国のドローン攻撃により殺害されたからだ。
ソレイマニ氏が死亡したため、ハメネイ師がイランのイデオロギー的影響力を地域に輸出するために使う参謀役がいなくなった。ソレイマニ氏は、過去のIRGCによるデモ弾圧を組織するうえでも、より小さいが同じくらい目立つ役割を果たしていた。
イラン体制はこれまで国内で、虐殺と政治的機敏性の合わせ技でこうした困難を乗り越えることができていたが、あらゆる階層の様々な思想的背景を持つ国民が直面している悲惨な経済状況が、支配層エリートに大きな存続の危機を突きつけるかもしれない。
ワシントンD.C.を拠点とする「戦争研究所」が最近発表したレポートは次のように述べている。「イラン経済は潜在的に重大な混乱の時期に入りつつあるようだ。最近になってデモの調整役やソーシャルメディアユーザーはイラン国民に対し、至急銀行預金を引き出し金(きん)を購入するよう呼びかけている」
「アメリカン・エンタープライズ研究所」で重大脅威プロジェクトの責任者を務めるフレッド・ケイガン氏は、イラン通貨の急激な下落によって前例のないインフレが進んでおり、銀行システムに深刻な負荷がかかっていると指摘する。
マクロ経済的トレンドとデモが相まって、経済の主要部門の大部分を掌握してきたハメネイ師とIRGCは従来のビジネスの扱い方の再考を余儀なくされている。
ケイガン氏はアラブニュースに対し次のように語った。「この状況がどこに向かっているか、あるいはどれほど酷くなるかを判断するのは時期尚早だと考えている。しかし、体制が既に国民に対して行っている犯罪や、弾圧の際の残忍さ・凶暴さに、深刻な経済的不安定が加われば、抗議運動にさらなるエネルギーが注がれる可能性がある」
同氏は、現在のデモは以前のものよりも良く組織されており、より持久力があると考える。
体制は銀行部門の支払い能力を維持することの重要性には特に意識的だ。
銀行部門は、IRGCや、ハメネイ師が頼っている主要な支配層エリート家系を潤してきた慈善財団「ボニャド」と深く繋がっているからだ。
ケイガン氏は次のように語った。「イラン体制は自国の外貨準備を使用して銀行を救済せざるを得なくなる可能性に直面するかもしれない(…)デモ参加者たちは既に、協調的なストライキやボイコットを利用して限定的な経済的混乱を引き起こす実験をしている」
また、デモに対する体制の対応は最終的に、より的を絞ったアプローチの一環として銀行口座や引き出しの凍結にまで拡大するかもしれない。しかし、そのような取り組みによって「体制にとって非常に問題となるような形で連鎖が始まる可能性がある」とケイガン氏は言う。
体制を維持している経済的エンジンは、イランのより広範な地政学的野心と密接に絡み合っている。ロシアのウクライナでの戦争機構を支援するためのシャヘドドローンの販売・輸出により、大いに必要としている資金を稼いでいるのだ。エネルギー輸出は、国内の前例のない混乱の中で体制が存続するのに十分な外貨準備をもたらし続けていると、ガセミネジャド氏は言う。
同氏は次のように語った。「イランは現在も日量110万バレル以上の石油を輸出しており、非石油輸出もまだ堅調だ。人権侵害者に的を絞って象徴的な制裁を科すのは結構なことだが、体制の弾圧機構の資金源となる収入を断つことを主要な優先事項の一つとすべきだ」
ハメネイ師とその後継者は難局を乗り切ることができる可能性もある。過去を振り返ると、国際社会、特に西欧は、イランの国内外での行動を非難した後にこぞって同国とビジネスをしていた。
しかし、経済が急激に悪化し、失うものはほとんどないと言うイラン国民がますます増える中、2009年には暴力的に鎮圧された変革のチャンスが2023年には訪れるかもしれない。