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イスラエル、米国からパレスチナへの美術品返還の合法性を調査

占領下のヨルダン川西岸地区の遺跡から盗まれ2021年にマンハッタン地方検事局に押収された2,700年前の象牙製香さじ、パレスチナ観光遺跡省で展示中。2023年1月19日。(AP)
占領下のヨルダン川西岸地区の遺跡から盗まれ2021年にマンハッタン地方検事局に押収された2,700年前の象牙製香さじ、パレスチナ観光遺跡省で展示中。2023年1月19日。(AP)
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04 Feb 2023 08:02:12 GMT9
04 Feb 2023 08:02:12 GMT9
  • この対立は、中東を対象とした考古学の政治的なデリケートさを浮き彫りにした
  • イスラエルとパレスチナの双方が、土地領有権についての自らの主張の論拠として古代の遺物を利用している

ヨルダン川西岸地区、ベツレヘム:2,700年前の象牙製のスプーンが、最近、米国からパレスチナ自治政府に返還された。この美術品が、占領下のヨルダン川西岸地区の文化的遺産をめぐる対立をイスラエルの極右新政権との間で引き起こしている。

この対立は、中東を対象とした考古学の政治的なデリケートさを浮き彫りにした。イスラエルとパレスチナの双方が、土地領有権についての自らの主張の論拠として古代の遺物を利用している。

イスラエルのウルトラナショナリストの遺産相 は、米国政府が初めて行ったパレスチナへの考古学的遺物の返還についてその合法性の調査を当局職員に命じた。同相は、ヨルダン川西岸地区の考古学的遺跡の併合を呼びかけている。

この考古学的遺物は、象牙製の化粧用スプーンで、ヨルダン川西岸地区の遺跡から盗難されたと考えられている。マンハッタン地方検事局が、2021年に、ニューヨークの億万長者でヘッジファンド経営者のマイケル・スタインハート氏から司法取引の一部として押収したものである。

この象牙製スプーンは、不法に盗まれた後スタインハート氏が購入した180点の考古学的遺物の内の1つである。訴追を免れるための司法取引の一環として、スタインハート氏はこのスプーンの所有権を放棄させられた。

米国当局担当者が、1月5日に、パレスチナ観光遺跡省に考古学的遺物を引き渡した。これは、米国国務省パレスチナ局の声明によれば、米国からパレスチナへの考古学的遺物の「初の返還」である。

スタインハート氏から押収された考古学的遺物の内の数十点は、既に、イタリアやブルガリア、ギリシャ、トルコ、ヨルダン、リビア、イスラエルに返還されている。この象牙製スプーンは、初のそして唯一の一点としてパレスチナに返還される。

この象牙製スプーンの返還時期は、イスラエルの新政府が発足した最初の数週間と重なった。イスラエル新政権は、ヨルダン川西岸地区は聖書世界の中核地域でありイスラエル国家と不可分であると考えるウルトラナショナリストたちによって構成されている。

イスラエルのアミハイ・エリヤフ遺産相の執務室は、先週、遺物返還の合法性について「米国が署名したオスロ合意を含めてあらゆる側面を考古学担当職員が法務顧問と共に調査中」であると発表した。

この件は、考古学や文化遺産が、何十年にもわたる紛争の中で繰り広げられてきたイスラエルとパレスチナの対立する主張といかに絡み合っているかを浮き彫りにしている。

パレスチナ観光遺跡省の発掘・博物館局のジハード・ヤシン局長は、「私たちには、パレスチナから違法に持ち出されたことが判明している考古学的遺物を取り戻す権利があります」と、述べた。「それぞれの遺物がこの土地の歴史を物語っています」

観光遺跡省は、パレスチナ自治政府の一部で、オスロ合意の一環として1990年に設立され、イスラエル占領下のヨルダン川西岸地区の一部で限定的な自治権を行使している。

イスラエルとパレスチナの合意には、考古学や文化遺産など数多くの事項の調整も含まれるはずだった。

しかし、この合意はほとんど崩壊してしまっている。考古学委員は20年近く会合を開いておらず、ヨルダン川西岸地区での考古学的遺物の盗難の防止についてイスラエルとパレスチナの間での調整は実質的に不在だとヤシン局長は述べた。

「私たちはこれらの遺跡の保護に全力を尽くしていますが、それは困難なことなのです」と、ヤシン局長は言った。

ヤシン局長によれば、ヨルダン川西岸地区の遺跡の約60%がイスラエル軍が完全支配する地域にあるものの、パレスチナ自治政府の管理下にある地域では観光遺跡省の考古学的遺物の盗難対策担当者が「高い防止率」を実現しているという。

とはいえ、イスラエルの合法的な古代遺物マーケットに出回る違法な遺物の多くはヨルダン川西岸地区から盗まれたものなのだと、ヤシン局長は述べた。

裁判所の文書によれば、スタインハート氏はその象牙製化粧用スプーンを2003年にイスラエルの古美術品ディーラーのギル・チャヤ氏から6,000米ドルで購入した。この遺物には、出所やディーラーの在庫品となった経緯を述べた書類が無く、来歴は不明だったが、チャヤ氏はヨルダン川西岸地区内のエル・コウムという町から出たものだと述べた。エル・コウムはパレスチナ自治政府の管理下にある。

同じくエル・コウムから盗難されたと考えられている「紀元前600年頃の紅玉髄製のサンフィッシュの魔除け」という遺物は行方不明のままだと、マンハッタン地方検事局は述べた。

米国当局は昨年28点の遺物をイスラエルに返還した。この中にはエルサレムのイスラエル博物館で押収された3点は含まれていない。他に7点がイスラエルに返還されるはずだが、それらの所在は不明のままである。イスラエルに返還された遺物の内のいくつかはヨルダン川西岸地区から盗まれたものだと考えられている。

イスラエル考古局は、パレスチナへの遺物の返還についてのコメントは控えた。

ネタニヤフ政権の宗教的ウルトラナショナリストで現在イスラエル考古学局を統率するエリヤフ遺産相は、パレスチナ民族の存在自体を否定している。

エリヤフ遺産相は、就任以来、ヨルダン川西岸地区の都市ナブルス近くのパレスチナ自治政府管理下地域の遺跡で、「国家テロ」や「歴史遺産の消去」を行っていると同自治政府を非難してきた。

遺産省の法律顧問による審査が何らかの影響を及ぼすことになるのか否かについては依然不明だ。イスラエルがパレスチナの遺物を押収する可能性は低いものの、現在の流れに反する法的意見は今後の返還を複雑化してしまう可能性がある。

エリヤフ遺産相は、今週初め、ヨルダン川西岸地区全域の遺跡や文化遺産、盗難防止関連の全権をイスラエル考古学局に与えると述べた。これは、専門家によれば、イスラエルの法律を占領地に事実上適用することであり、国際法違反である。

現況、ヨルダン川西岸地区での考古学的発掘や遺物の管理は、国防省に属する民政局の考古学担当官が行っている。イスラエルはヨルダン川西岸地区を正式には併合しておらず、この地域は占領地として扱われ、軍法により治められている。

「グリーンラインのいずれの側の遺産も、国際的、科学的基準に照らし合わせて、完全に保護されます」と、エリヤフ遺産相はフェイスブックへの日曜日の投稿で述べた。イスラエル国家は「(地中)海からヨルダンまで、統一された専門的な方法で行動する」だろうと、エリヤフ遺産相は言った。

イスラエルの文化遺産NGO「エメク・シャベ」のディレクターであるアロン・アラド氏は、イスラエル考古学局が占領地の考古学的遺跡や遺物に関する全権を持つことは「イスラエルの法律をヨルダン川西岸地区で有効にすることであり、つまり併合を意味します」と述べた。

エリヤフ遺産相の執務室は、度々の取材申し込みにも応じなかった。

象牙製のスプーンは当分の間パレスチナ観光遺跡省に留め置かれ、同省の考古学者が研究することになると、ヤシン局長は言った。その後は、ヨルダン川西岸地区のいずれかの博物館で展示される予定だと、同局長は述べた。

「これだけということはありません」と、ヤシン局長は言った。「これは始まりなのです」

AP

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